家電量販店のバイトでFM TOWNSを売ってしまった苦い思い出

高校に入学し、夏休みに始めたパソコン通信の電話代で2ヶ月で20万円を溶かしてしまったパケ死少年は、家計への返済のために近所の家電量販店でバイトをすることになる。

近所と言っても上場企業の店舗という大きなところでバイトさせてもらった。メインの仕事は入荷した商品を棚に運ぶバイトだったのだが、時間が空いた時は店頭に出ていいという話があって、プチ店員感を体感できるいい機会であった。バブルの頃のAVブームだったので、ソニーやケンウッドのミニコンポや29インチぐらいの大型テレビ、パナや三菱のビデオなど魅力的な商品も多く、それらに触れられるだけでも楽しかった。何にも使えないハイビジョンのテレビを見て感動していた時期でもある。

当時、ちょっとしたパソコンブームというのがあったのか、そのお店でもパソコンを売ることになった。パソコンオタクだった僕は知識面で引っ張り出されることもあり、それっぽく貢献できていたのではないかと思う。

当時のパソコンというのはメーカーごとにOSというかソフトウエアが違っていて、ソフトウエアメーカーはNEC向け、シャープ向け、富士通向けなどに開発を行う必要があり、ファンであるパソコンマニアもNEC党、シャープ党、富士通党などと別れ、ビールの銘柄のファンのようにちょっとした宗教かかった嗜好が存在していた。それを煽るようにソフトウエア問屋として隆盛を誇っていた当時のソフトバンクは、Oh.PC!(NEC) 、Oh.X!(シャープ)、Oh.FM!(富士通)などメーカー毎の雑誌を出し、ファンは毎月、雑誌を買うという時代であった。

僕は、パソコンサンデーというテレビ番組からパソコンに興味を持ったクチで、その番組スポンサーであったシャープ党としてパソコンに興味を持った。シャープ党は、国民機と呼ばれるNECのパソコンにはシェアでかなわないものの、パット見の性能面で優れていたので、王者であるNECをディスりつつ、似たようなスペックの富士通のマシンにはライバル意識を持つという、どこの野球球団やサッカーチームが好きか?みたいなのを語るのが楽しい時期でもあった。

その後に、すべてがマイクロソフトに巻き取られていくなんてことをまだ知らない時代... 

(正確にはアスキーが出版していたログインという雑誌には、この3社のパソコンで同じソフトウエアが動くべきという未来の話が書いてあった。後のDOS/VからのWindowsへの道である。今考えるとオタクがすげー反発してそう)

ある日、アルバイト先のちらしに掲載されたセールで、にっくき競合であるFM TOWNSが売っていた。ワープロソフトの一太郎とプリンターとセットで36万円ぐらいだったのを覚えている。これに質問に来たおばちゃんを接客したのだが、ついついオタク口調でひたすら説明してしまったのを覚えている。別に嫌いな富士通のマシンだからと言っても、変な主観はいれずに、客観的に説明する人ではあったので、とはいえ、売る意思はゼロで営業でもなんでもなく、ただのパソコンオタクとして趣味的に説明していた。

そうやって一通り説明した後、おばちゃんが「熱心に説明してくれたから買ってあげる」と言ってくださった。そうやって注文してくれた段階で、「はっ」となった。

先にも述べたが、当時のパソコンはメーカーごとにソフトウエアが違っていて、素人がパソコンを買うなら国民機と言われたNECのパソコンを買うのが一番ハッピーなことを知っていながら、ついつい、熱意で話してしまい売ってしまった。王者のNECに対するマイノリティとしての気持ちはよくわかっているので、メジャーにおもねらないポジショントークは得意技である。しかし買った理由が、僕の営業に釣られたということで、自分で富士通を選択したのではなく受身的に選択してしまったのだ。自分で言うのもなんだが可愛がられる的な要素で、オジサンオバサンキラーなところはなくもない。

とはいえ、今更、NECの方が良いですよなんて事は言えないので、そのまま買っていただくことになる。一太郎がついているのでワープロとしては使えるのだが、文豪やらなにやらと専用ワープロの商品も存在する時代で、36万円は全然安くない。

やはり当時の富士通やシャープのマシンは、宗教的なファン感覚が伴ってこそ高いプレミアムを支払う指名買いの商品だったと思う。

それが僕の熱意にほだされてしまうなんて、これではまるでシャンパン営業をしているホストの気持ちではないのか?...と罪悪感を抱きつつ、別にバックが入るわけではないので余計に思うのだが、無垢に接客するのはやめて、購入者のために売り方はちゃんと考えないとなと考え直すきっかけになった。一つ大人の階段を登ったエピソードとして今でも申し訳無さというか罪悪感を抱いている。あの36万円は活かされただろうか...。






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