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銅の今後の需要と供給について

要約

銅は世界のクリーンエネルギー(再エネ発電、EV)への転換やデジタル化、AI化(生成AI、汎用人型ロボット)を支えるために、最も重要な素材の一つと言われている。しかし、今後増大していく需要に対し、供給の面においては、既存鉱山の品位低下、新規鉱山不足、産出国の政情不安等の課題によって、増加する需要に追いつくペースで生産を拡大していくことは難しいと考えられている。旺盛な需要に供給が追い付かず、構造的な需給ギャップが発生すれば、銅価格は中長期で恩恵を受けると考えられる。

銅の用途
銅は導電性、熱伝導性、加工性、抗菌性などに優れており、送電線や半導体/モーター内の配線、鍋や電気釜などの調理器具、建築資材、水道管など、様々な用途に使用されている。特にその高い導電性から、電気を制御するためには、必ず必要な素材となっている。

銅の需給のバランス
・2023年の銅需要は年間約2,300万~2500万tと推計されている。今後の銅需要は脱炭素関連需要の増加などにより、2030年には4,000万t、2035年には約5,000万t規模にまで拡大する可能性があるとS&P Global 社は試算している。

出典:S&P Global | The Future of Copper: Will the looming supply gap short-circuit the energy transition

一方で2023年の銅の生産量は約2,300万tと推計されている。(国際銅研究会(ICSG)前述の通り、銅の生産量を増加させるには、数多くの課題があり、現在から2035年までに倍増する可能性がある需要に対し、供給は現在から20%ぐらいしか増えないと試算されている。
※銅の将来の需要量予測は予測元によりばらつきはあるが、需要>>>供給になるというのは、ほとんどの機関が予測している。大手資源メジャーBHPの幹部も2030年までに年1,000万tの供給が不足する可能性を指摘している。

銅の生産量増加が難しい背景
・既存鉱山の品位低下
✓現存の銅鉱山は1980年代~1990年代に開発されたものが多く、鉱石中の金属の割合が高い部分や採掘しやすい部分は既に掘られており、新たに採掘出来るのは資源含有量が低く(低品位)、採掘が困難で高コストになる部分であることが多い。また生産設備も老朽化してきている。
✓低品位の鉱石や鉱山廃棄物から銅を抽出する新しい方法やリサイクルなどを使用し生産量を増やしていく選択肢もあるが、急増する需要に追いつく状況にない。
✓ 新たに採掘される鉱石は小さく、低品位であるため、銅鉱石を加工した後に残る廃石の量も年々増加しており、廃石を安全に保管するための追加コストが増大している。

・新規鉱山不足
✓銅は長年世界中で探査されてきた歴史があるが、1990-2019間に発見された銅鉱山は224、過去10年間に発見されたものは銅鉱山16のみ。大型の銅鉱山は簡単には見つかからず、発見済の多くの大型鉱山についても、良質な箇所はあらかた掘られており、新たに南米で見つかる鉱山は銅の含有量が少ない(低品位/約0.5%)かつ、年間20万t未満の鉱山が多い。
✓ 年間20万tを生産できるtier1の銅鉱山はなかなか無いが、仮に2030年までに1000万t供給が不足する場合、20万t級の銅鉱山が50個必要となる計算になる。
✓ この供給不足を解消するためには、これまで活発に探査されてこなかったアフリカやコロンビアなどのカントリーリスクが高いエリアに進出をする必要がある。ただ、鉱山開発ではプロジェクトを開始してから政府や地元自治体との調整、許認可の取得等の様々な困難のハードルを越える必要があり、初期の鉱物探査から出荷開始まで平均10年以上を要する。

銅の産出国の政情不安
銅の産出国のランキング(2021)は下記の通り。
1位チリ(27%) 、2位ペルー(10%)、3位中国(8%)、4位コンゴ(8%)、5位アメリカ(6%)
主要生産国は各国独自のカントリーリスクを抱えている。トップ1.2のチリ、ペルーでは左派政権が立ち上がっており、今後資源ナショナリズムの影響で外国への輸出量が制限されたり、思うように生産が進まないリスクがある。

代替素材の可能性について
これまでの歴史上で枯渇するといわれていた資源も、新技術の開発による資源の使用量の削減や、代替素材の使用などでその危機を乗り越えてきた。例えば、再エネ技術で利用されるリチウム、コバルト、マンガンなどは他の素材で一部を代替する動きがある。しかし銅については、価格、素材としての優位性から、他の代替品候補がない状況である。銀は銅よりも導電率は高いが、高価なため代替にはならない。金、アルミニウムも高い導電性を持つが、金も銀同様に高価で、アルミニウムは銅よりも軽く割安だが、腐食しやすく、強度が足りないため、銅を置き換えることは難しいといわれている。

補足 銅の企業別生産量ランキング(2022年)
1位 コデルコ(チリ)
2位 フリーポート・マクモラン(チリ)
3位 BHPグループ(豪)
4位 グレンコア(スイス)
5位 サザンコッパー(米国)

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