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①金利、為替市場などをめぐる懸念〜通貨(円)に対する長期的な懸念の根源について~

(1) 政府部門の財政状態の悪化
◇  現役世代の減少に伴う税収の先細り
従来の予想を遥か上回るペースで少子化が進行中、2022年の出生数は初めて80万人を下回った。少子化により現役世代が減少し、現役世代の社会保障費(主に高齢者の年金、医療、福祉)負担が激増、それによって現役世代の可処分所得が減り、さらに少子化が加速するスパイラルに陥っている。

◇  人口構成の高齢化に伴う支出の増加(特に社会保障費(年金、医療、介護など)
社会保障費は一般会計歳出の約1/3を占める最大の支出項目であり、高齢化に伴い支出が激増。2000年は約78.4兆円だったが、2022年には約130兆円規模までに増加、政府推計では、2025年140兆円、2040年190兆円と増加する見通し。増大する社会保障費は主に現役世代が負担している保険料や税金だけでなく、政府が多額の借金(国債の発行)をすることによって賄っている。

日本政府は2022年度においても、国の会計の約3分の1を借金で調達。税収を大幅に上回る歳出を国債発行によって賄い続けることにより、国債の発行残高は急増(約1,000兆円)、政府債務がGDP比2.6倍まで膨れ上がる事態となる。その結果日本の財政状況は、世界最悪レベルまで悪化。(公的債務残高の国内総生産(GDP)比)

(2) 日銀の問題
◇  日銀の異次元の金融緩和政策
日銀は、消費者物価上昇率2%を目的とし、2013年4月から異次元の金融緩和政策を開始。異次元の金融緩和政策の一つに、本来市場が決めるべき長期金利を日銀が決め、日銀が国債を市場から無制限に買うことによって、直接操作し、金利を抑え込むYCC(イールドカーブコントロール)という政策を行っている。資本主義自由経済において、金利というのは市場において自律的に決まるものであり、禁じ手とされる政策である。

◇  日本でも進むインフレ
現在、日本では40年ぶりの物価高が起きており、消費者物価上昇率は日銀の目標の2%を大きく超えているにもかかわらず、日銀は金融緩和政策を修正せずに、インフレ要因となる金融緩和政策を継続している。一方先進国の中央銀行はインフレ対策のためにこぞって金融引き締めを行っており、『物価の安定』が使命のはずの日銀が逆方向の政策を続ける異常性が際立つ。
※政府は23年1月から電気代補助を開始、補助金による値下り分が物価としてそのまま反映されているため、本来の実質インフレ率を強引に低く抑え込んでいる。

◇  日銀の金融緩和政策(YCC)の困難な出口戦略
異次元緩和の結果、日銀のバランスシートは膨張。 (国債580兆円、株式・ETF 37兆円、3/20現在)。この状況で日銀がYCCを撤廃すると長期金利が急騰し(国債が暴落)、日銀が抱える国債や株式に多額の含み損が発生し、日銀は債務超過に陥り、国債市場の機能不全で政府の資金調達が困難になるリスクがある。
現在、日本の長期金利は日銀が国債を爆買いすることによって、低くとどまっている。13年度から22年度までの10年間においては、日銀は新規国債発行の93%にあたる金額を市中から買い入れた。マーケットにおいて、供給の大半を買い占めていた購入者が撤退すれば、価格は大暴落するのがセオリー。
日銀がYCCを撤廃すると、最悪のケースとして、長期金利が暴騰→日銀債務超過によって、通貨(円)への信用不安が生まれ、通貨(円)が大暴落することも考えられる。インフレ率に天井はなく、戦中戦後で日本の物価は100倍以上に。

※長期金利が暴騰すると、日銀だけでなく、国債を大量に保有している地銀、生保などの金融機関に巨大な含み損が発生し経営に大打撃が発生する。また、変動金利で資金調達をしている個人(住宅ローン等)や中小企業の資金繰りだけでなく、国民の税金で維持されているような業界(医療等)にも甚大な影響を与える。

つまり、YCCを撤廃すると長期金利急騰→日銀の債務超過を引き起こす恐れがあり、YCCを継続すれば世界との金利格差により、『通貨安』による悪性インフレが進行する。すでに日銀は国債の半分以上を保有しており、YCCを永久に継続することができないのは目に見えている。
現在、日本では40年ぶりの物価高が起きており、日銀だけが先進国の中央銀行と逆方向の金融政策を続ける異常性が際立っている。仮に物価上昇が収まれば、日銀の金融政策の異常性に対する警戒度は低くなるが、逆に物価上昇が収まらなければ、世界中のマーケット参加者から、インフレを強く抑えこまないといけないタイミングでインフレを加速させる金融緩和政策を継続している要因についてより精査されることになる。
つまり、今後の日本のインフレ率によって、本問題の深刻度が大きく変動することになる。

※この日銀の問題は根本的な対策は打たれることはなく、先送りにされるだけと予想する。政治家が考えているのは今の任期と次の選挙対策のみで将来世代の政策を考えるビジョンも決断力もない。金融政策の変更や増税などをしなくても、インフレは法改正も不要で政治家が何もアクションをしなくても発生するからである。現在国の借金である国債の発行残高は1,000兆円に上るが、インフレで物価が10倍になると、政府の負債は実質的に100兆円に激減する。政府が大増税をして返済したのと同様に債務の大半が消滅する。当然、国債の保有者は莫大な資産価値を失い、大損害を被る。

(3)日本のインフレ率に影響を及ぼす要素について
◇  通貨安(貿易収支、金利差等)
基幹産業の衰退による貿易赤字の拡大(貿易収支)
・貿易赤字額の拡大が継続している。円安、資源高で輸入額が膨らんだことも要因だが、輸出が不調であることも強く影響。日本の貿易輸出の大きな割合を占める日本の自動車産業は、スマートEVの予想を遥か上回るペースでの普及によって、海外市場(特に中国、欧米)でのシェアを急激に失いはじめている。その背景にあるのが、米国のTeslaや中国勢(BYD等)のスマートEVの躍進である。世界最大の自動車市場である中国では、2025年には新車販売に占めるEV比率が70~80%まで到達するという予想もあり、中国、欧米市場では、競争力のあるスマートEVを持たない会社は太刀打ちできない状況になってきている。2023年現在、EVのコストは予想を上回るペースで低下しており、市場によっては同セグメントのガソリン車よりも安くなりつつある。
上記で挙げたような会社のスマートEVの競争力の源泉は半導体/バッテリーの開発製造能力や*ギガキャストなどのEVに最適化した革新的な製造能力、ソフトウェア技術力(*OTAによる機能改善や診断、バッテリーマネジメントシステム、車載OS、自動運転)、電力系統や充電インフラとの連携、魅力的な社内UX等のテクノロジー産業のそれに様変わりしてしている。現状EV事業で利益を出せている企業はTeslaしか存在せず、急速にシェアを拡大している中国のBYDでさえPHEV等で辛うじて利益を出している状況。他社の苦労をよそ目に、Teslaは高利益率の車を世界各地の最先端工場で大量生産しながら、バッテリー、半導体、車両の設計製造技術に次々とイノベーションを起こし、一段階価格帯の低い廉価版モデルの発売準備を着々と進めている。

*ギガキャストは大型のダイカストマシン(鋳造機械)を使い、車体の大部分を一体のブロックとして一体成型する車体製造のイノベーション。この技術を使えば、従来約何十点もの部品を使用していたところを一つの大型成型部品として仕上げることが出来、溶接工程も大幅に簡略化することが出来る。

*OTAは無線通信経由で自動車のソフトウェアを更新する技術。OTAを利用すれば、ソフトウェアの更新で車の性能を高めたり、問題の修正を行うことができる。

これまで莫大な貿易黒字を稼いできた基幹産業が衰退し、輸出額が減少することは、円の需要減少につながる。今後は経常赤字が定着化する可能性もあり、為替的にも強烈な『円安』要因(インフレ要因)となる。

※自動運転開発についても、ソフト開発、走行データ量等において、
米(Tesla)、中(Huawei等)が圧倒的に先行、膨大な学習データ+開発に自動化技術を持ち込むことにより、進化はさらに加速、今後他社との差は加速度的に拡大すると予想される。
数年後、早ければ来年には、これらの企業のシステムは安全性、ユーザー体験、コスト、あらゆる面で後発のものと絶望的な差が開き、自動運転能力が高い車しか、ユーザーから選ばれなくなる未来が到来するのではないか。

・銀行、保険業界でも世界的地位が低下。
※上記の他、自然災害リスク、地政学リスクなどがある。

◇  金利差
・米国のインフレが収まり、日米の金利差が縮小すれば、一時的に円高方向に動く可能性はあるが、長期的には、日銀がYCCを継続すれば、世界との金利差は継続し、金利差が格差となり、長期では『円安』継続要因となる。

◇  政府債務や通貨に対する信認の低下
日銀が異次元の金融緩和政策を続けることによる、国際的な信認の低下。
・日本国債への信認低下、日本国債の格付けへの影響。
・ソブリンシーリングによる日本の金融機関、企業への影響。
・ 『対外純資産』が最後の砦だが、諸外国の発展により日本の存在感低下。

◇  世界の物価
米中対立によるサプライチェーン分断により、世界中にデフレを輸出してきた中国の変化。サプライチェーン分断、再編によって、サプライチェーンが非効率化、世界中の物価高が継続するリスクあり。
※長期では、革新的な技術革新(AI、ロボット)はデフレ要因だが、技術革新によるインフレ抑制が始まるのは当分先であると予想。

◇  国内労働市場
労働力人口:生産年齢人口の減少を補い労働力人口を保ってきた要因は、
①    外国人労働者→諸外国の発展や円安で確保が困難に
②    高齢者の就労→さすがに限界(農業従事者の平均年齢は約68歳)
③    女性の就労→さらなる大幅増加は困難
労働力不足により、インフレ要因となる賃金上昇が続くリスク。

◇  就労に伴う規制
物流業界の2024年問題、建設業界での現場週休二日制などの導入による、人件費、輸送費、建設費の高騰が続く見込み。

上記の他にもインフレ率を構成する要素は存在するが、為替、産業、世界の物価、賃金等を取り巻く環境から、日本のインフレが急激に収まる展開は予想しづらい。

(4)対応策
通貨(円)に関わるリスクの深刻度は今後の日本のインフレ率によって、大きく変動する。インフレ率の推移、インフレ率に影響を及ぼす様々な要素の状況を注視していきたい。

・仕事における対応策
・個人の資産・負債管理における対応策


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