十二国記内の漢字表記考証?
※はじめに、私が勝手に作った十二国記漢字テストの「完全な正解」はありません。示す解答は私が個人的に考えるものです。それぞれの漢字の使用例を十二国記シリーズ内作品全て確認したわけでもないのと、漢字の専門家でもなく、ちゃんとした学術文献や辞書で検証した訳ではないので、個々の漢字における情報は正確性も保証はできません(専門家の方々すみません🙇🏻♀️💦)。またここで述べるのはあくまで私の勝手な見解と意見であって、小野不由美先生始め、出版社様や原作へ批判・否定したりする意図は全くありません。
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少し前に、勝手に十二国記漢字テストなるものを作成しました。
かなり重箱の隅をつつくような、間違い探しに近い漢字テスト?でしたが、どこまでしていただいた方がいたのか・・・(してくださった方はありがとうございます💦)。「私の思う」解答は以下になります(問19の解答8/25に変更)。
5種類の色分けがしてあるのは、問題パターン?によって変えてあります。その5パターンに分けて解説・考察したいと思います。(※数字は記事最後に参照したサイトなどのリンク元の情報があります。)
パターン1(オレンジ色)
一つ目はオレンジ色のもので(問1・15)、単なる見た目が似ている、というので引っ掛けで出した問題です。難易度?的には、一番簡単だったかな・・・と。こちらは、単純に合っているかどうかなので、特に解説ありません。
パターン2(水色)
二つ目は水色で解答を示しているもので、今回の漢字テストで一番多く出題した問題形式で、「字体」を問うものです。戦後簡略化されたらしい「新字体」と「旧字体」との違いです。一見するとどれも見分けが付かないし、日常ではどちらを使っても間違いにはならないものだと思います。十二国記シリーズでは、旧字体で使用されているものがままあります。
搔くや摑む(問2・6)などはシリーズ通してこちらの字体で統一されているようです(「搔」:『風の万里 黎明の空』上巻35頁、「摑」:『月の影 影の海』上巻34頁など)。蓬萊の「萊」もよくよく見ると、「莱」ではなく「萊」です(『黄昏の岸 暁の天』44頁など)。
公益財団法人 日本漢字能力検定協会が運営する漢字・日本語検索サイト「漢字ペディア」によると、ここにあげる多くは、「印刷標準字体」となっていました(※1)。
詳しいことはよく知らないのですが、日本の漢字制定?の近代史の流れで、一度略字体化したものを、また元に戻したりしたみたいで・・・。どちらが正しいというわけではないようですが、書籍などの印刷物では主にこちらの「印刷標準字体」に沿った漢字が使用されているようです。なので、これは小野先生が、というよりも、出版社が「印刷標準字体」に合わせているかどうか、かもしれません・・・。
問7の「繫」なんか、左上の部分は「車」だとてっきり思っていたので、その下に山みたいなのがくっついてて、これに気づいた時は驚きました・・・(『図南の翼』21頁など)。
問10の「酆」は「漢字ペディア」にヒットしなかったのですが、旧字体?でしょうか・・・。
このパターンで問題にしそこねた?のは「坐る」や「嚙む」です(「坐」:『黄昏の岸 暁の天』37頁、「嚙」同巻47頁など)。日常では「座る」や「噛む」の方が馴染みがある気がします。
パターン3(ピンク)
三つ目はピンク色のもので、同音異議語?的なものです。
問17-19の「きく」は十二国記だから、というよりはそれぞれの漢字の持つ意味に基本従って使用されていると思います。単純に「聴覚で感じ取る」といった場合には「聞く」。「尋ねる」という場合は「訊く」で統一されていたり。天命を「きく」の場合は、注意深く耳を傾ける、という意味で「聴」が使われているんでしょうね。
-----追記----------
問19の"天命を「きく」"ですが、当初「聴く」を解答にしていました。ですが、「天命」と「きく」のコロケーションを見ていた際に、『白銀の墟 玄の月』4巻で「聞く」もあって💦
具体的な箇所は226頁と227頁になり、阿選が泰麒が天命を「聞く」と描写している所なのですが、もしかしたら、ここの視点が阿選からなので、阿選は麒麟が実際に天命を聴覚的に「聞こえる」と捉えているために、「聴」ではなくて、「聞」としているのか…。
「天命を聴く」で記載されている箇所は、『図南の翼』52頁、『冬栄』35頁、『黄昏の岸 暁の天』391頁、『帰山』307・308頁、『丕緒の鳥』15頁など。
基本的に麒麟の説明がされている時。「天命を聞く」は上記の『白銀の墟 玄の月』のみでなので、例外と捉えるのかが迷う…(パターン4に分類するべきか)。
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問11・12の「め」に関しては、はっきりとこう、とは示されてはいませんが、状況で「目」か「眼」で使い分けされていると思います。
眼球に直結するような表現は「眼」(「眼を丸くする」『風の海 迷宮の岸』211頁、「眼を見開く」『白銀の墟 玄の月』1巻51頁など)、それ以外の広義での場合は「目」(「目の前」『風の海 迷宮の海』14頁、「お目にかかる」『黄昏の岸 暁の天』342頁など)な気がします。これは通常、どちらの場合も「目」で一般的に表現するので、小野先生の密かなこだわりなのかな・・・なんて思ったりします。
問27・28は読みパターンで、全ての「里」にルビが振られている訳ではないので、これも確実ではないのですが、「里」の漢字単体で使用されている場合は、「まち」。これは正規の漢字の読み方ではなく(多分💧)、十二国記内の行政区のひとつで、読ませルビ(義訓?※2)だと思います。
ただし、他の漢字や数字と一緒になって数詞的に扱われる時は元の音読みで「り」になっていると思います(例:一里、里家など。※3)。これは、「廬」も同じかと思います(単独では「むら」、数字と一緒では「ろ」)。ただ、この二文字が一緒になると(「里廬」)、「まちまち」(『冬栄』18頁)、「りろ」(『青条の蘭』210頁)、「りりょ」(『青条の蘭』279頁)、「まち」(『白銀の墟 玄の月』1巻19頁)などと、場合に応じてルビが振られているようです。
パターン4(黄緑)
四つ目は黄緑色で示したもので、アとイの表記両方とも十二国記シリーズ内で使用されているものです。三つ目のパターンのように法則性が(私では)見いだせず、個人的にどっち~???と迷うものです💦
問4の「かんじん」は、そもそもイの「肝腎」の表記方法がある、というのが個人的には知らなかったのですが、『白銀の墟 玄の月』から?使用されている感じがします(例:1巻203頁、2巻62・149・164頁など)。
『白銀の墟 玄の月』の前までは「肝心」だったのかなぁ、と思うのですが(例:『丕緒の鳥』15・44頁、『図南の翼』21頁など)、『白銀の墟 玄の月』では両方使われていて、その意味的な違いも分からなかったので、??となっています💦
どちらの表記もネットで調べた限りでは、意味に違いはなさそうなのですが・・・(二つ目で述べた、漢字制定の流れで両方の表記が生まれたようです。※4)💦
問16の「アゴ」です。個人的に「頤」だと思っていたのですが、驍宗の『「アゴ」の線』は「頤」と「顎」両方使われていて・・・!(『白銀の墟 玄の月』4巻101・133頁)
101頁では烏衡、133頁では李斎がそれを描写しています。詳しく調べてみると、「頤」は「おとがい」つまりは「下アゴ」を特に指すようで。対して「顎」は「口の構造物全体」を指したりするようです。ですが、「アゴの線」とした場合、基本的に「下アゴ」の線だと思うので、133頁での李斎の「顎の線」は「頤の線」でも良かったのでは??と疑問に思ったり・・・💦
驍宗のアゴ以外では、楽俊の「顎」(『書簡』162頁)や蘭玉を襲った男の「顎」(『風の万里 黎明の空』下巻166頁)だったり、基本的には「顎」?が使われているのかな・・・という印象です。
逆に驍宗のアゴがそんな特殊?なのか・・・と、いつかどこかで拝見した「驍宗様のアゴは割れている」というファンの方の説を捨てきれずにいる自分・・・w
問22は『冬栄』68頁の「仔馬」、『白銀の墟 玄の月』1巻134頁の「子馬」。両方とも泰麒が王宮内で移動するために与えられたものなので、同じでもいいのでは??と個人的に思ってしまったのですが。「仔」の方が動物の子を指すのに特に使われるようですが。うーん。どちらかの方がより幼い、または成長している、という違いが出されているのか・・・。
問23も「雄」・「牡」両方表記されています(対応する「メス」も「雌」・「牝」両方あります※5)。ヤ○ー知恵袋によると、人間以外の生き物は「雄」、でも「牡」は四本足の馬や牛などの家畜に使われると・・・。麒麟は人間以外なので「雄」の方が正しい?でも、獣形は家畜ではないけど(笑)四本足なので、「牡」でもいけそう・・・。
最初、蓬萊で使われていたり翻訳されて陽子などが聞いていたものはどちらか一方で統一されているかな、と思ったけれど、そうでもなさそうなので。何か特定の使い分けがあるのか・・・。
問24の「うば」は基本的に女怪を描写する時に出てきていたと思うのですが、「乳母」『風の海 迷宮の岸』338頁の時と、「傅母」『黄昏の岸 暁の天』299頁の時があります。
「乳母」の方が一般的かな、と思います。私が調べた限りは「傅」に「う」と読むような読み方はなさそうなので(例:音読みは傅相の「ふ」)、「子供などを、大切にして守り育てる」といった意味を優先させた小野先生の独自の読ませルビなのかな・・・?と思ったり(「卓子」を「つくえ」と読ますような)。「傅」を使った方は、この意味の方を強調したかったのでしょうか?
問25
この「さがす」はどちらかと言えば三つ目のカテゴリーになるのかもしれません。NHKによると、「捜す」は居なくなったり失くしたものをさがす場合に使用し、「探す」は宝物など欲しいものや見つけたいものをさがす場合に使う、という区分けをしているようです(※6)。
十二国記でも基本的にこの法則に従っているようなのですが、『白銀の墟 玄の月』の失踪中の驍宗を「さがす」が微妙で💦基本的に「捜」が使われているようではあるのですが(1巻87・207・321頁など)、「探」も使われている箇所もあり・・・(1巻230・328・334、3巻94頁など)。
空位の時代に、麒麟が新たな王を求める、という意味だと「探す」がしっくりくると思うのですが、行方不明中の驍宗は明らかに、居たのに居なくなった、というのを話者は全て知っているはずなので、「捜す」ではないかと。ただ、王を欲する、という意味で、「探す」を使うのは問題がない気がするので、両方使えるのかな・・・と。
但し、空位時の麒麟が新王をさがす場合で、宗麟が「昭彰が王を捜して」と表記されているのもあるので(『図南の翼』404頁)、居るべきはずの王が居ないので、捜すという見方もできるのか?と・・・。
出題した問題は「王気」を「さがす」にしたのですが、こちらも両方使われており・・・(「探」:『白銀の墟 玄の月』1巻80・92頁、「捜」:『白銀の墟 玄の月』1巻140頁)。ただ文脈が、上のような違いを反映させているのかもしれません。
個人的に「捜」の方が、具体的にほうぼう手を尽くしてさがしている感じかな・・・という印象があります。
問30の「王后」ですが、両方あります。あまり王の妻、「王后」が出てくる国は多くないのですが、祥瓊の母、佳花は「王后」で「おうこう」と「おうごう」両方のルビが振られていました。「おうこう」は『乗月』85・102頁、「おうごう」は『風の風の万里 黎明の空』上巻21・134頁など。「后妃」という熟語もあるのですが、多分『華胥の夢』の本でしか出てきていない?のですが、こちらの「后」は「こう」だったので(120・325頁)、単純に本によってルビの振られ方が違ってしまったのかな・・・と思います。
パターン5(黄色)
5つ目の黄色パターンは、さまざまな理由で「その他」にしたものです。
問5の「よじる」は、単純に私の使用するパソコンやソフトで入っているフォントで、原作に使用されている字体が対応していなくて、その他にしたものです。テストのイの選択肢「捩」は異字体で、正規?の字体は「戻」の部分で、一番上の横線左が下にくっついていて、その中が「大」ではなく「犬」になっています(※7)。
問20は、「えぐる」が実は「抉」、「刳」、「剔」の三種類の漢字が十二国記シリーズで使用されており・・・。問題文は、『東の海神 西の滄海』の尚隆のセリフを元にしているので、具体的にその箇所の「えぐる」に関しては、「刳」になります(331頁)。
ですが、シリーズを通して、この漢字一字のみが使用されているわけではなく、『白銀の墟 玄の月』で特に「抉」の字が多用されている気がします。最初、肉体の場合と、岩盤など自然や無機物の場合で使い分けされているのかと思ったのですが、そうでもなさそうで・・・。
岩系を「えぐる」で言えば、「刳」は『東の海神 西の滄海』272頁、「抉」は『図南の翼』291頁、『書簡』139頁、『白銀の墟 玄の月』1巻262頁など。「抉」の方が多いように思いますが、この二つは自然物以外の人体を傷つけるの意味でも使われています。
人体や騎獣などの肉体を「えぐる」の文意では、「刳」は迷宮106頁や先ほどあげた尚隆の言葉(実際にからだをえぐられたわけではないですが)。
「抉」は『白銀の墟 玄の月』1巻138頁、4巻261頁など。この二つに加え、『図南の翼』だけですが「剔」も肉体を傷つけるという意で使用されています(319頁)。『図南の翼』では「大きな岩の根本を抉るようにして」(291頁)と岩を「えぐる」場合は「抉」を使用しているので、自然物と肉体とで使い分けをしているように思えるのですが、特に『白銀の墟 玄の月』では両方の場合でも「抉」が使われているようなので(無機物では3巻292頁、4巻98頁など)、私ではその法則性が見いだせませんでした。
漢字の意味も簡単に調べた限りは「抉」と「刳」の二つは特に違いがわかりませんでした・・・。辞書によったら、「抉」・「刳」を同じ項目として取り扱ったり(※8)、「抉」の方しか掲載されていなかったり・・・(※9)。それぞれ訓読みが「えぐる」以外に、「抉」は「こじる」、「刳」は「さく」で切り開く、「剔」は「そる」で毛髪をそる、という意味もそれぞれあるので、えぐり方の違いかもしれません(※10)。因みに「抉」の「こじる」は、『白銀の墟 玄の月』で使われていました(3巻256頁)。
問26の「さがる」を問題にしたのは、こちらをパソコンで「さがる」で変換している時に、予測変換に出てこなかったのを不思議に思ったのがきっかけです。「さがる」で予測変換の中に「下る」はあるのですが、そもそも「退」の漢字に「さがる」という読み方はないようで・・・。
あくまでも私が調べた中ですが、退く「しりぞく」、退る「すさる」といった読み方はありましたが、「さがる」はありませんでした(※11)。もしかしたら、専門的な漢字辞典などにはあるのかもしれませんが、小野先生が「下」と区別して、「しりぞく」の意味で「さがる」を意図したい場合は、「退」を当てているのかなぁ・・・とも思ったりしました。
問29の「軍府」の十二国記における読み方は「わからない」です😅。もしかしたら私の確認漏れかもしれませんが、初出は『白銀の墟 玄の月』2巻312頁だと思うのですが、そこにルビがありません。通常は「ぐんぷ」と読むようですが、「府」は「府吏」の「ふり」とも読ませたりしているので(『東の海神 西の滄海』275頁。しかし『白銀の墟 玄の月』1巻282頁ではルビがない💦)、「ぐんふ」の可能性もなくはないかと・・・。
講談社のホワイトハート版から新潮社文庫版になるにあたって、「里家」のルビ振りが、「りけ」から「りか」のように変わった例もあるので、小野先生が思う「正しい」読み方はあるのか?と不思議に思ってしまう、変な性が悲しい・・・。
最後に
これらはたまたま私が十二国のまとめをしている中で気づいたものです。本という印刷物にするので、なるべく表記などを注意して確認していったら、いろいろ違いを発見して、そこからも小野先生のこだわりが見えたりして、また作品が面白く感じたり。この鬼畜な?漢字テストを通して、他のファンの方々も、十二国記をまた違う点から楽しんでみてはどうでしょうか?
参照
※1
漢字ペディア
https://www.kanjipedia.jp/
「印刷標準字体」参照
https://www.morisawa.co.jp/culture/dictionary/1898
※2
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%A9%E8%A8%93
※3
その他、よく出てくる「里」を使った用語で、里木「りぼく」、里祠「りし」、里府「りふ」、里閭「もん」など。ただ、里人は「まちびと」?それとも「りじん」??私がざっと探した限りではルビが振られている「里人」がなく・・・。十二国記あるある?で、ある漢字や用語を独自の読み方で読ませている場合、こういう見た目すごく簡単な熟語の読みが分からないという・・・。
※5
「牡」:『魔性の子』299頁、『風の海 迷宮の岸』34頁。
「雄」:『月の影 影の海』下巻222頁、『風の万里 黎明の空』上巻76頁(こちらは「雌雄」熟語なので、こちらの分類とは言い難いかもしれない)など。
※6
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/158.html
※7
https://www.kanjipedia.jp/kanji/0007253200
原作で使用されている箇所は、『白銀の墟 玄の月』4巻256・262頁など。
※8
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%8A%89%E3%82%8B_%28%E3%81%88%E3%81%90%E3%82%8B%29/
※9
『三省堂国語辞典 第四版』p107
※10 漢字ペディアより。
抉(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0001863500)
刳(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0002030400)
剔(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0005000600)
※11 漢字ペディアより。
https://www.kanjipedia.jp/kanji/0004446200
※※
この記事で参照した十二国記原作は、新潮社の文庫版になります。ですが、発行された版によって変わっていたり、違っている場合もあります(単純に私が確認・参照ミスをしている可能性も・・・)。私が参照した原典の版は以下のとおりです。
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