【短編小説】ノックを無視した男
トイレで本を読んでいたら、ドアをノックされた。一人暮らしなのに変だなとは思ったが、本が良いところだったので無視した。このホラー小説も終盤。怪物に追われた男が逃げ場のない部屋に追い詰められている。
『こんなドア、すぐに破られてしまうぞ』
男は絶体絶命。そこでドンドンとノック音。何度もしつこいな。それより小説だ。男は部屋を見渡すが役に立ちそうなものは何も無い。ガン、ガンガン! と凄まじい力でドアが叩かれる。うるさいな、もう! よく見るとドアにヒビまで入っている。
『こうなったら……』
男は意を決し右手にナイフを構えた。派手な音を立ててドアが破られる。廊下の冷たい空気がトイレの中に入ってきた。怪物は荒い息を立てながら男の首を締める。あやうく意識が飛びそうだ。辛い体勢だが、僕は何とか自由な左手を使って本を読み進める。
男は力を振り絞り、ナイフで怪物の目を切りつけた。飛び散る鮮血。一体どうなる……? はやる気持ちでページをめくったが……血がべっとりと付いていて、続きを読むことはできなかった。
僕はがっかりして本を床に落とし、そして怪物に頭を食い破られた。
(おわり)
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