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奈良竜樹〜何度でも、何度でも〜

昨季試合前。我が軍の今季のキャッチフレーズ紹介と同じタイミングでとある歌が流れる。

Mr.Childrenの蘇生という歌。

昨季限定で流れていたが、元々大好きな歌だった。私はあの瞬間が好きだった。

大好きな等々力で大好きな蘇生が流れ、緑の芝に触れた風が胸にすーっと入り込み、さぁ試合が始まるというこの高揚感。

まさに「蘇生」

別に死んでいた訳ではないが、あの瞬間、確かに生きていることを実感していた。

時は流れ、2020年。

今この歌を聞くと、私はとある選手のことを思い出す。昨季まで川崎にいた、とあるファイターのことを。そんなファイターと歩んだ4年間の日々を。

やってきたファイター

2016シーズン、我が軍はFC東京から奈良竜樹を完全移籍で獲得。

札幌のイメージが強かったが、前シーズンにFC東京へと移籍していた。

その年に開催されるリオ五輪代表候補の彼は移籍後早々にスタメンを獲得。

相手に対して物怖じせず、体を投げ出すそのスタイルは、我々サポーターのハートを一瞬で掴み、虜にさせた。

その前年まで「前半で2失点?割と守れてんじゃん。後半3点取ればいい。いや、後半も失点しそうだから4点だな。」という感覚であった我々に「1点のリードを守り切る」という新たな、そして正しい価値観を植えつけてくれた。

忘れもしない。2016年4月。ホーム鳥栖戦。

0-0で迎えた後半ATに大久保嘉人の一撃で勝利したこの試合。2015年までの我が軍には無かった「我慢して勝ち切った」試合であった。

この試合の後のインタビュー記事で、奈良は次のようにコメントしていた。

「相手がなかなかやらせてくれなかったから、こっちもやらせなかった。」

この文を読んだ時に、何かアツい物がこみ上げてきた。こんな頼もしい選手が我が軍にやってきたのか。そう感じた。

この記事を必死で探したが、残念ながらもう4年も前になるので見当たらなかった。

もしかしたら、私はこの記事を夢の中で見たのだろうか。

私の中の「クールなファイター、奈良竜樹像」が勝手に夢の中でインタビューされていたのだろうか…

まぁそんなことはさて置き、彼は谷口や車屋と比べて、決して「器用な選手」ではない。ビルドアップはどこか危なっかしく、しばしばボールを奪われそうになる場面もある。

しかし、彼には誰にも負けない「対人の強さ」「ハートの強さ」があった。

そしてそれは我が軍に圧倒的に欠けているものであった。

この年のリオ五輪を大怪我で棒に振ってしまったが、彼ならフル代表になれる。私はそう確信した。そして、彼の帰りを待った。

彼を欠いたチームは後半戦以降勝ちと負けを繰り返すよう戦い続け、結局タイトル悲願のタイトル獲得とはならなかった。

2016年シーズン、彼がフルで活躍できていればタイトルを獲れたかと聞かれればそれは分からないが、やはり対人の部分で弱さを露呈してしまったのは事実だ。

金崎夢生にやられたCS、ファブリシオにやられた天皇杯(もはやトラウマ)(録画は見ずに消した)の失点シーンはそれを物語っていた。


成長を遂げたファイター

そんな奈良を語る上で欠かせないのが、2018年、2019年シーズンの活躍だ。

上述したように、2016年シーズン以降彼は「守備のスペシャリスト」的立ち位置で、相手のエースFWに対して厳しい寄せで自由を与えなかった。

私がもし相手FWだったら彼のいない方に行く。彼のところを崩すのは至難の技のように思える。

奈良は、Jリーグ屈指の「コース切り」が上手い選手だ。

CBとして「ボールを奪う」ことができればそれは素晴らしいことであり、完璧なことだ。

しかし、そんな簡単にボールを奪えるほどサッカーは甘くない。

では、ボールを奪えなかったらどうするのか。

「奪えるところに誘い込む」ことが大切になってくる。

例えば、真ん中でボールを持たれたら相手は左右真ん中どこでもボールを運ぶことができるが、左サイドで持っていたら相手の左側はもうピッチの外。真ん中でボールの約半分に選択肢を縮めることができる。

奈良は、この判断が抜群に上手い選手だ。

ここで潰すのか、どこか違うところに誘い込んで味方に潰させるのか。

4年間で奈良が相手と対峙した状態でチャレンジに行き、すこっと抜かれるシーンはほとんどなかった。

更に言えば、最後の最後では自分のポジショニングを修正し、シュートコースを限定させる。

ギリギリの場面で相手がシュートモーションに入れば、とにかく身体を投げ出して闇雲に突っ込みたくなってしまうものだが、彼は違った。

先に左右のどちらかを切る形で立ち、そこから飛び込むことでシュートコースを限定していた。

これによってGKは予測ができるので、シュートが飛んできても難なくストップすることができた。


そんな彼の「ボール保持時」のプレーは、ボールを受けると「失わずに繋ぐ」といったイメージ。

ビルドアップの意識は一般的なCBよりは高いが、コンビを組んでいる谷口ほど有効なパスを入られるというわけではなかった。

最も、彼は「ボール非保持時」に輝く生粋の守備者なので、ビルドアップの質は彼に求められているものでは無かった。

右SBのエウソンにボールを出せばスコスコと2人くらい抜き去ってパスを出せるし、谷口もその高い技術力でスッと縦パスを入れることが出来るからだ。

飽くまで彼は「ミスなく繋げれば」良かった。後は周りのスペシャリストたちが次のプレーに展開してくれた。

そのイメージが徐々に変わり出したのが、2018年シーズン終盤だ。

奈良から低弾道で質の良いフィードが何本も入るようになってきた。

谷口のビルドアップの質の高さとはまた違う、浮き球の綺麗なボール。

まるでかつての名レジスタ、アンドレア・ピルロが繰り出すような球質であった。

フロンターレに来て、トラップやショートパスが上手くなる選手は沢山見てきた。しかし彼は、誰にもない低弾道のロブパスを身につけた。

そして彼から繰り出されるパスは瞬く間にフロンターレのストロングポイントとなった。

ビルドアップの谷口、縦パスの奈良。

まさに盤石であった。

「ファイター」奈良竜樹は「ゲームメイカー」奈良竜樹へと、彼の代名詞を変えさせるほどに変化した。

この変化は、恐らく彼の性格から来ている。

彼は、どんなに完勝した試合でもインタビューで満足することがない。

5-1で勝ってもその1失点を悔やみ、クリーンシートで終わっても要所要所のミスや、課題を口にする。

まさにプロフェッショナルだ。

そんな彼だからこそ、アシストを連発するようなスケールの大きなCBへと成長を遂げた。

普通であれば、自分の「長所」に磨きをかけるであろう。

川崎において彼ほど対人に優れ、コースを消せる選手はいなかった。

しかし、彼は自身の短所から逃げなかった。そして、長所も磨いた。

その証拠に、2016年から彼の上半身のサイズは1.5倍くらいになっている。

長所に更なる磨きをかけ、ウィークポイントをストロングポイントに変えた。

そのことに気付いた頃にはもう、彼は1人でチームに勝ち点をもたらせる選手になっていた。

2019シーズンになると、彼の「縦パス」は更に顕著にチームのストロングポイントと化していく。

どれだけ煮詰まった、上手く回っていない試合でもスパッと縦につけることができる、唯一の選手が彼であった。

ショートパスを繋ぎつつ、崩す我が軍のスタイルは2019年に入ると完全に研究され尽くした。

vs川崎対策をするチームが増え、我が軍は苦戦を強いられた。

しかし、奈良から繰り出される縦パスはその対象外であった。

我が軍と対戦する時、FWの選手は谷口側を切り、奈良にボールを入れさせる。

谷口のビルドアップ能力はJリーグ屈指。相手チームのvs川崎対策の基本事項として、谷口に良い状態でビルドアップさせないというものがある。

しかし、相手FWが谷口の方を切り、奈良にボールが入った瞬間、美しい放物線を描いて縦パスがスパッとFW目掛けて入っていく。

CBのそれではない。まさにゲームメイカーだ。

彼ほどのパスを出せるCBはなかなかいない。少なくとも日本にはいないであろう。


そんな奈良は、シーズン中盤に全治4ヶ月の怪我を負ってしまい、ほとんどそのままシーズン終了となってしまった。

サッカーにたらればは禁句だが、もし奈良がこのシーズンをフルで戦えていたら…そう思わずにはいられない。

そして、今シーズンオフ。彼は鹿島アントラーズへと移籍した。

向上心が高い彼だ。より高いレベルに自信を置くために、よりCBとして成長するために。

彼は川崎を離れる決断をし、鹿島アントラーズを選んだ。


まだやりかけの未来がある

私は、奈良竜樹が大好きだった。

身体を投げ出し、チームの為に戦うことのできる彼のプレーが、仲間のゴールに全身で喜びを表現するその人柄が、どんなにいい結果でも課題を口にするその生き様が。

彼のような選手を応援できたこの4年間は本当に幸せであった。

派手なドリブルや豪快なシュートはサッカーの醍醐味だが、それと同じくらい「守備」で魅せてくれた。そんな彼が好きだった。


奈良は、もう我が軍にはいない。

クローゼットに入れてある3番のユニフォームを見ると、未だにそのことを忘れてしまう時がある。

私はあまり1人の選手に肩入れすることは無いのだが、彼は自然と応援したくなる、そんな選手であった。


「何度でも 何度でも 僕は生まれ変わって行ける そうだまだやりかけの未来がある」

冒頭で紹介した蘇生の歌詞。

彼は川崎在籍4年間で3度、大怪我をした。
その度に大きくなって帰ってきた。

不撓不屈の漢、奈良竜樹は何度も生まれ変わり、成長し、川崎になくてはならない存在であり続けた。

そんな奈良はCBとしてより「守備」的要素が求められる鹿島へと移籍。

まだ彼自身、1度も踏み入れてないA代表の座を掴む為に。

川崎での4年間は怪我もあったがタイトルを獲得し、優秀選手にも選出された素晴らしい日々だった。

だが、向上心の塊である彼がここで満足するはずなどない。

川崎では果たせなかったA代表入りへ。

奈良竜樹は、まだやりかけの未来を。その夢を叶えに行く。

何度でも、何度でも。奈良竜樹は転ぶ度に立ち上がり、正面からぶつかっていく。

鹿島でもそのスタイルで多くのサポーターの心を掴み、愛されることだろう。

彼のプレーを贔屓チームで見れる鹿島サポーターがちょっぴり羨ましい。

私は、彼と過ごした4年間の日々を大切に抱きかかえ、彼と再会できる日を楽しみにしている。

とは言え、ゲームではこちらも負けるわけには行かない。

今季の鹿島戦が楽しみで仕方がない。どんなプレーを魅せてくれるのか。


4年間、素晴らしい日々をありがとう。鹿島での成功を、A代表入りを心から祈っている。


さぁ勝負だ。奈良竜樹。









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