その恋は光を超えて #7

第7話 偽りのフィナーレ

ついに管制室へとたどり着いた一行はセラフィックスの構造を把握する。かつての性能を取り戻したメルトリリスと共に探索する中で、彼女は藤丸への恋をを告白、必ず守るという決意を新たにする。そして探索の果てに彼ら一行は最強のサーヴァントと対峙することとなる。

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生き残るため、カルデアに帰るためメルトリリスとパッションリップと共に数多くの英雄を殺し尽くしてきた。次で最後だ、そんな予感があった。そして対峙したのはかの有名な騎士王、黒い鎧とバイザーでその身を覆った少女、アルトリア・ペンドラゴン。その実力はサーヴァント中最強と言っても過言ではない。
「ほう、マスターが自ら出るとはな。」
騎士王は意外そうに呟く。そして藤丸に対して剣を突きつけながら問いかける。
「この聖杯戦争は狂っている、マスターは一人足りとも見ていない。サーヴァントは狂乱する。しかし、ここに至り正気を保つ魔術師を見つけたのだ、しばしの語らいは無益ではあるまい。問おう、貴様は何者で、何が目的でここへ至った。」
パッションリップは藤丸を庇うように位置取る。メルトリリスも臨戦態勢を崩していない。アルトリアとは特異点で敵対したり、カルデアで味方として共に戦ったこともある。共通してるのは彼女は常に油断なく、隙を見せれば即座に最適解で戦闘を終結させるという点だ。この場合、もっとも脆弱なのはただの人間であるマスターである。
「俺はカルデアのマスター、藤丸立香だ。この事態を収束させようと思ってここに来た。」
だから臆してはいけない。目線を外さずに藤丸は答える。
「ほう、奇遇だな。私もこのふざけた事態は収めたいと考えていた。」
「なら、殺し合わずに協力する余地はないのか?」
無駄だとわかっていても問わずにはいられない。本当の目的が一致しているのなら…
「貴様とてわかってるはずだ、主催者…BBと名乗ってたな。そいつは最後の一人を勝者として聖杯に招くと。その聖杯とやらの真贋はともかく、そこで初めて元凶と接触できるわけだ。どちらが勝っても負けても目的は同じ、憂いなく戦えるというものだ。」
「なら、死ぬのは貴女よ可愛い騎士様?」
刹那、メルトリリスはアルトリアに到達していた。バネめいて飛び出したメルトリリスの赤熱した棘を、しかしアルトリアはいとも簡単に受け止めていた。メルトリリスはそれ以上の追撃を許されず弾き飛ばされた、アルトリアが全身から魔力を迸らせ弾き飛ばしたのだ!
「…毒か、しかし焼けば問題あるまい。」
「チッ、どうかしらね。あなた、本当に人間なのかしら。私の最速の奇襲をかけたつもりなのだけど。」
メルトリリスはアルトリアを強襲し、更に接近してメルトウィルスでドレインを仕掛けるという二段構えだった。しかし彼女は攻撃を受け止め、更に全身から迸る魔力の熱でメルトウィルスを焼き尽くしてしまったのだ!

このようにして戦いの火蓋は落とされた。

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((メルト!彼女の真名はアルトリア・ペンドラゴンだ、彼女のことはよく知っている。))
((なんでもいいわ、知ってることを教えてちょうだい。))
メルトリリスはアルトリアに猛攻を仕掛け釘付けにする。そうしなければアルトリアはすぐさまマスターの首を刎ねるであろう。念話で藤丸はアルトリアのことを伝える、彼女の能力や戦い方など全てを。
((特に彼女は異様なほどに勘がいいんだ、前はそれに何度も助けられたんだけど。))
マスター不在による魔力不足の様子もない。むしろ膨大な魔力で身体能力を引き上げメルトリリスの速度に追いついてすらいる。
「獲った、まずは一騎。」
「しまっ…!」
攻めを焦ったメルトリリスの蹴りを見切り、一閃。メルトリリスの姿が見えない。藤丸は駆け出そうとする、彼女を助けなければ。しかしそれを押し留めるパッションリップ。
「その目でよく見えている。」
無感情に騎士王は言葉を紡ぐ、或いは褒めているだけなのかもしれない。ロケットのような速度でマスターを狙う、パッションリップはそれを迎え撃つ!
「アアアァァ!」
マスターに到達させてはいけない、その想いだけを胸にパッションリップは前進する。その拳を叩きつける!
グシャリ、と床が砕ける。躱したが、一目でアルトリアは彼女の怪力を理解する。まともに当たれば相当なダメージになる。
「やはり楽はさせてくれないか。」
決意に満ちた顔でこの騎士を睨みつける。本来の彼女は非戦闘的な性格だ、痛い事も嫌いだ。しかし自分達を見つけてくれた尊い人を消させるわけにはいかない、メルトリリスがいないなら自分が倒すしかない!
「パッションリップ、叩きつけてやれ!」
藤丸は可能な限り魔力を回す。メルトリリスの姿は依然見えないが繋がりは消えてない、なら大丈夫なはずだと信じるしかない。パッションリップはその拳を撃ち抜く、一撃必殺の正拳突きだ!だが機動力で勝るアルトリアはコンマ1ミリでそれを回避し、そして藤丸へと迫る。
叫びをあげるパッションリップが遠くに聞こえる。藤丸の主観時間は何倍にも引き伸ばされていた。かつての人理修復の思い出が蘇る。
((ああ、これは走馬灯というやつか。))
ただ、悔しいと彼は思った。その思考を最後に彼の人生は幕を閉じる、そのはずだった。
「…!」
奇妙な事にアルトリアは突撃を中断し飛び退いた。直後、ギロチンのように刃が彼女のいたはずの位置に叩きつけられる。
「なんなのよ貴女!恥を忍んで暗殺なんて手を選んだのに。私にリップみたいな気配遮断スキルがないのが悪いとでも!?」
悪態をつくメルトリリスがそこにいた。
「メルト!嬉しいけどどうして。」
「心配かけてごめんなさい、でもこれが一番いい手だと思ったから。」
「貴様…確かに二つに裂いたはずだが。」
先程の奇襲が通用しなかったのか苦虫を噛み潰したような顔をしたメルトリリス、せめてカラクリを見抜けなかったことで鼻を明かしたかったのだろう。
「ええ、確かに私は真っ二つ、プリマは舞台から転げ落ちてさようなら。でも私の身体は流体で構成されているの、斬撃なんて痛くもないわ。貴女は哀れにも私が舞台から降りたと勘違いしてたけど、私は最初からこの水に潜んでた、ただそれだけよ。」
「ほう、そんなサーヴァントもいたとは。ならその身体ごと蒸発させてくれよう。」
微かに眉を動かすが、彼女に動揺はない。更なる魔力を聖剣に込める、過剰な魔力はぶすぶすと暗く弾ける。
「そうね、それなら流石の私も死ぬ。でも覚悟するのは貴女の方、首を切られて終わりなんて愉しくない綺麗な死なんて望まないことね!」
再びアルトリアに飛びかかる。速度で上回るメルトリリスは休みなく攻め立てアルトリアを拘束する。しかし、メルトリリスの話には嘘が混じっている。聖剣に斬られて無事であるはずがない。彼女は疲労も痛みも感じないが身体には限界がある。だから。
((マスター、次に大きな一撃で決めます。そのためにどんな手でもいいから隙を作ってください。))
((メルト、それより怪我は大丈夫なのか。))
((…ありがとう、でもそれは後にしてちょうだい。わかってるわねリップ、アレをやるわよ。))
パッションリップは頷いた。「アレ」とは何なのかわからないが、ともかく仕留める手立てはあるらしい。ならあとは隙を作って欲しいと頼まれたマスターの役目だ。
とにかく足留めが必要だ、ガンドを当てられる実力さえあれば簡単だったが、この高速戦闘でメルトリリスを巻き込まずに当てる自信はない。こちらの手札で見せてないのはパッションリップの能力だ。トラッシュ&クラッシュは危険すぎる、だがこの戦闘では一度も見せてない手があったはずだ。
「頼む、避けてねメルト。撃って!」
アルトリアは迫り来る拳に刹那、動揺する。すぐさま回避運動に入る、直撃を受けてはひとたまりもない。
「逃す…ものですか!」
メルトリリスはついに騎士王を捉える!その棘で腹を貫き、抱きつくようにして彼女の逃走を阻む!
「貴様、心中する気か!」
「恋のためならギリギリ許容範囲ね、でもここで死ぬのは貴女だけよ!」
パッションリップは慌てて減速させるが、遅かった。トン単位の質量を前に鎧の有無など些細な差だ、諸共に打ちのめされ吹き飛ばされる。
「メルト!」
回復に魔力を回そうとする藤丸。しかしメルトリリスはそれを拒否した。
「いいえマスター、回復は後よ。ここは攻め時。たぶん、最後のね。」
彼女は痛みを感じない。どれだけのダメージを負ったか想像もつかないが、彼女はパッションリップの元へと光の速さで駆ける。アルトリアが体勢を立て直した時、メルトリリスはパッションリップの巨大な手の上に立っていた。そして最後の強敵、騎士王を指差して宣言する。
「さすがの騎士様も殴られたらそんないい顔をするのね、いい気分よ。そして次の一撃で終わりにしてあげる。喜びなさい、貴女は私達の最高の輝きの前に倒れるの!」
アルトリアは二人の莫大な魔力を感じ取る。距離を取られ、時間を稼がれたのは失策だった。だから彼女も切り札を切る。
「いいだろう、ならば星の聖剣を破ってみるがいい。」
「そうさせてもらうわ?これはリップの鉤爪を弓として、私自身を槍として撃ち出す合体宝具。さあ、私の最高の跳躍を目に焼き付けることね!ヴァージンレイザー・パラディオン!」
「知ったことではない、卑王鉄槌。極光は反転する、光を呑め!エクスカリバー・モルガン!」
流星の如く輝き、光の速度で飛翔するメルトリリス!それを飲み込まんばかりの暗黒の光芒!両者はぶつかり合い拮抗し、つかの間幻想的な光景を生み出す。光と暗黒が混じり合う、星の誕生を見るような光景は掛け値無しに美しい。
「くだらん、そんな曲芸など…?」
アルトリアは膝をつく、身体に力が入らない。宝具の勢いが僅かに落ちる。
「ようやくこじ開けられたみたいね、どうかしら私の蜜の味は?蕩けるように甘いでしょう。さあ、フィナーレよ!」
暗黒を切り裂く白い閃光。パラディオンの槍はついに騎士王に到達し、彼女を跡形もなく消滅させる。

「勝った…?」
「ええ、私達の勝ちよ。」
メルトリリスはボロボロになりながらマスターの元へ帰ってくる。すぐさま彼女に治癒の魔術をかけながら言わずにはいられなかった。
「前に俺に無茶するなって言ったのに、メルトの方が何倍も無茶してるじゃないか。宝具に自分から突っ込むなんて…」
「アレが私の、私達の勝機だったからよ。本当は私だって使いたくないの、これは私にも負担が大きくてね…あと一回か二回使えば私は完全に壊れてしまうでしょうね。」
「そんな…」
「大丈夫よ、もう使うつもりはないもの。こんな奥の手を出すような敵がそうそういてたまるものですか。」
メルトリリスに可能な限りの治療を施す。少しは傷も塞がっただろうか。
「それにしてもメルト、アルトリアに対して言った蜜って?」
「ああ、それは単純よ。リップの拳に打たれる前にあの女を刺したでしょう?その時に体内に仕込んでおいた私のウィルスのこと。」
メルトリリスによると、彼女はあの瞬間にウィルスを仕込んだという。アルトリアの防壁は強固であり、宝具を撃ち合った時にようやくこじ開けられたとのことだった。
「本当にあの女の防壁は固くてね、リソースを全部魔術回路の妨害に回してやっとだった。お陰で全くドレインはできなかったわね、せっかくの逸材なのに。」
「ははは…それにしてもあの一瞬でよくもそこまで。」
「ふふふ、もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

ピンポンパンポン、と気の抜けた音が流れる。システマチックなBBの声。
「おめでとうございます、あなた達は聖杯戦争の勝利者です!さて、商品の聖杯をお渡ししますので会場まで案内しますね。本当に…おめでたい人達。」
ふざけたアナウンスに抗議する暇もない。視界は暗転する…

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「初めまして、勇敢なマスターさん?」
視界が戻ると、蕩けるような声で挨拶をする尼僧がいた。

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