その恋は光を超えて #1

第1話 はじめまして、私のアルブレヒト

「私」は生まれました。私はAIです。私はメルトリリスという名前を持ちます、でもそれ以外は何もわかりません。とても怖いです、とても寂しいです。だから、私はここで眠ります。願わくば、何も感じずに終われたらいいなと思いながら。
そのはずだったのに、私はあなたと出会いました。それは、私が欲しかった全てでした。

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頭が痛い、全身が軋む。だけど生きている。何が起こったか、一つずつ頭の中で整理する。俺はカルデアの魔術師であり、マスターである藤丸立香。BBを名乗る女の子の警告に従いカルデアの石油プラントにレイシフトした、はずだった。
思い出してきた、なんらかの原因で正常なレイシフト、魔術的な時空の跳躍が出来なかったらしい。確か、その時にサーヴァントが弾き飛ばされた気がする。そこまで考えがまとまりはっとした、これは非常にマズイ事態なのではないだろうか。
痛みを押して跳ね起きた藤丸は、あまりにも奇妙な光景を目の当たりにした。グリッドで構成された通路と部屋、背景は海を思わせる一面の青だった。これではまるで、かつて遊んでいたゲームのような光景だった。
「なんだ、これは。」
サーヴァントの気配を感じない。同行したはずのセイバーを召喚しようと試みたが、何も起こらない。藤丸立香は魔術師といえどその腕前は半人前もいいところ。彼にできることは限られている。もし、いま襲われでもしたら…
ヒュン、と空気を裂く音がした。それは球形のナニモノかが放った攻撃、彼を殺すための行動。彼は運がよかった、たまたま床がどうなってるのかを調べようと屈んだために避けられたのだ。
「…!」
それからは、彼は無我夢中で逃げた。様々なエネミーから攻撃を受けた、それでも全身に傷を負いながら奇跡的に無事だった。そして、彼は一つのちっぽけな教会を見つけた。
彼は正直なところホッとしていた。どこを見回しても電子的なグリッドと海ばかり。ここは人のいるべき風景ではなかった。そんな中、少しでも馴染みのある場所を見つけられたのだ。周囲には敵の気配もない、少し休んで傷を癒せるかもしれない。そう思い中に入った。

そこには、美しい少女の人形が在った。藤丸立香は彼女に目を奪われる。ほとんど露出している下半身は華奢で、今にも壊れてしまいそうな繊細な少女。それに不釣り合いなほどの棘を備えた膝に、刃物のように鋭い脚。しかし、近寄り、観察すると胸は上下している、呼吸している。つまり、生きている。
彼の気配に気付いたらしく、その「人形」は目を覚ました。
「あの、初めまして。私の名前はメルトリリスです。あなたはどうして逃げないんですか?」
「初めまして、メルトリリス、俺の名前は藤丸立香だ。どうしてって、これから一緒に逃げようって言うつもりだったんだけど。」
「これから、一緒に?奇妙です、私が恐ろしくて逃げるのではないのですか?」
「確かに脚は鋭いけど、そうじゃない。こんな危ないところに君がいたから、心配だったんだ。だから、一緒にここから逃げようって。」
藤丸はそう言いながらメルトリリスの手を取った。共に生き延びるために。メルトリリスは顔を赤らめながら、手を引かれて立ち上がる。

これが、二人の運命の出会いであった。

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