クエスト・オブ・ネオサイタマ・アンダーグラウンド #2

「ドーモ、アマクダリの小僧共。ヴァルゲイトです。」見事なアンブッシュによってシュトルヒを葬り去ったニンジャはアイサツした。翡翠色の鱗鎧めいたニンジャ装束、そしてその目は非人間的な黒色であった。
「ドーモ、ヴァルゲイト=サン。アルタナタィブです。」「クレアボヤンスです。」二人のアマクダリニンジャはすかさずアイサツを返した。アイサツはされれば返さねばならない、古事記にも書かれた絶対的礼儀である。「ヴァルゲイト=サン、貴様はアマクダリ秩序には不要な存在だ。排除する。」アンブッシュ時の動揺から回復したアルタナタィブはそう冷たく宣言した。「しかし、貴様を殺す前に聞かなければならないことがある。この実験設備はなんだ、何が目的だ。」

「何を問うかと思えばそんなことか。この獣人どもが答えよ。」
アルタナタィブはニューロンを高速回転させた。一度とはいえニンジャと切り結べた獣人、それを作り出すことが目的?確かモータルを改造するジツは存在したはず。それにあの市民証、つまり。
「ヴァルゲイト=サン、お前は非ニンジャのクズどもをこの研究施設で獣人にした。戦力にでもするつもりか?確かにクローンヤクザよりは強いようだが、それに何の意味がある。」「前半は正解だな、アルタナタィブ=サン。私は地上のモータルをこうして獣化させた。しかし目的は戦力ではない。そうさな、私の人生の探求とでも言っておこうか。」「探求だと?狂人め。」「何とでも言うがいい、もとより貴様等の理解など求めておらぬ。」

そしてイクサは再開する!先手を打ったのはアルタナタィブ、一気に距離を詰め近接カラテに持ち込む。ヴァルゲイトも即座に対応、激しいカラテラリーが始まった!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
BEEP!BEEP!BEEP!無線IRCによる信号だろうか。ヴァルゲイトがカラテ戦闘の最中にIRC端末を操作したのだ。研究所内の檻が開き三体の獣人が解き放たれようとしたその時!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「アバーッ!」」」
彼らが飛びかかるより早くクレアボヤンスのスリケンが眉間に刺さる!獣人はソクシ!しかし、いかなニンジャ反射神経とはいえこの反応速度は異常である。これこそがニンジャソウルがクレアボヤンスにもたらした力、トオミ・ジツである。視界に入ったもの、その少し未来を見通す恐るべきジツである。
「イヤーッ!」そのままクレアボヤンスはヴァルゲイトにスリケン投擲、対応を強制し2対1のアドバンテージを生かす構えだ。ヴァルゲイトとアルタナタィブのカラテラリーに差し込まれるスリケン、ヴァルゲイトはそれをブレーサーで弾いた。そこで生まれた僅かな隙を狙うアルタナタィブのカラテストレート!ガントレットによる重打がヴァルゲイトを襲う。
「イヤーッ!」「ヌゥーッ!コシャク!」
それをクロス腕でガードするヴァルゲイト、重大なダメージこそ負わなかったもののイクサのイニシアチブがアマクダリニンジャにあることは明らかだ。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
カラテラリーは続くがイクサの流れはアルタナタィブとクレアボヤンスに傾いている。漆黒の鎧に身を包んだアルタナタィブのカラテは極めて重く、ヴァルゲイトは対応を余儀なくされる。さらにやや遠距離、タタミ3枚分の距離を維持するクレアボヤンス。こちらはトオミ・ジツで得たビジョンに従い致命箇所へのスリケン投擲を続ける。当然ヴァルゲイトはこれを防御するが、そこで的確に襲いかかるガントレットによる重打撃。恐るべきコンビネーションである。
ヴァルゲイトは思考する。このままではジリー・プアーである、と。彼は強硬策に出る!
「イヤーッ!」アルタナタィブはカラテフックを繰り出す!同時にヴァルゲイトの心臓を狙うスリケン!CLING!弾いた、そしてアルタナタィブのカラテを敢えて受ける!
「グワーッ!」
キドニーに痛烈なカラテフックを受けたヴァルゲイト!並のニンジャならばスタン、悪ければ爆発四散する威力である。だがヴァルゲイトはそのニンジャ耐久力で受け止め、必殺の攻撃機会を得た!
「イィィィヤーッ!」
シュトルヒを斬り伏せた断頭チョップである。そしてそれはアルタナタィブを…捉えた!しかし、その手応えはまるで空を切るようである。否、これはアルタナタィブではない、これは彼のジツが生み出した幻影だ。そして本物のアルタナタィブがヴァルゲイトの背後から迫り来る!
「イィィィヤァァァッ!!」「グッ…グワーッ!!」
アルタナタィブは飛び蹴りを浴びせかける!ヴァルゲイトは隙だらけの背後からそれをまともに受けた。ワイヤーアクションめいて吹き飛び、壁に叩きつけられる!
「グッ…グワーッ…ウツセミ・ジツか。ウカツ。」
ヴァルゲイトは壁にもたれながらそう言った。ウツセミ・ジツ、致命打を受ける際に幻影を呼び出し、自らは敵の背後へと瞬時に移動する。
「知っていたのか、ヴァルゲイト=サン。このジツは短期間にそう何度も使えるわけではないからな、一度で仕留められそうで安堵しているよ。」
アルタナタィブとクレアボヤンスはカイシャクのためにヴァルゲイトに近付く。決して油断はしない、熟練のニンジャである彼らはカイシャクの読み間違いで死ぬニンジャが実際多いことを知っているのだ。
クレアボヤンスはトオミ・ジツで抜かりなく未来を視る。タタミ6枚の距離。ヴァルゲイトは変わらず動かない。安全だ。更に近付く、タタミ5枚分、ヴァルゲイトはやはり動けない。
タタミ4枚まで近付く。ビジョンが見える、恐竜めいた脚、そして巨大な爪…?しかもハヤイ!タタミ4枚の距離をものともせずに襲い来る!ナムアミダブツ!ヘンゲ・ヨーカイ・ジツの類であろうか、ヴァルゲイトは瞬時に巨大なT-REXめいた存在へと変身した!この奇襲のためにヴァルゲイトは極限まで殺気を消していたのだ!
「GRRRRRRRR!!!!」「下がれ!アルタナタィブ=サン!」「…!イヤーッ!」
クレアボヤンスはバック転で回避しつつ叫ぶ。すかさずアルタナタィブも回避行動を取る。しかし…未来視から即座に動けたクレアボヤンスと違い、警告を受けてからのアルタナタィブの行動はほんのコンマ1秒遅かった、そしてそれが彼らの命運を分けた。巨大な爪がアルタナタィブの鎧をいともたやすく切り裂き、肉を抉った。
「グワーッ!」「GRRRRRRRR!!!」
STOMP!STOMP!STOMP!怒り狂った恐竜は怯んだアルタナタィブを巨大な質量で踏みつける!
「グワーッ!…グワーッ!アバーッ!サヨナラ!」
アルタナタィブは爆発四散!ヴァルゲイトは巨大な恐竜からさらに変身、人間と恐竜の歪なハイブリッドめいた存在となった。巨大で鋭利な爪、鋭い牙、長い尾、そして鱗鎧めいたニンジャ装束。
「GRRRRRRRR!!!…小僧共、手こずらせおって。単なる憂さ晴らしのつもりがここまで傷を負うとは。」「なっ、このイクサが憂さ晴らしだと!?」「言っただろう、貴様等が不快だと。これは憂さ晴らしだ、貴様等にここを発見された時点でここはもう使えないも同然。留守にしてる間にデータを盗まれるか破壊されるか。完全なウカツよ。喜べ小僧、貴様は既にアマクダリの望む成果は挙げているのだ。私はここを去るだろう。」「ならば貴様を殺せば手土産が増えるわけだ。」「「イヤーッ!!」」

クレアボヤンスには勝機があった。シュトルヒもアルタナティブも爆発四散、数的優位はもはや無い。しかしヴァルゲイトは相当なダメージを負っている。それに彼はトオミ・ジツによって少し先の未来を視ることができる。当然カラテにおいてもそれは圧倒的な優位を生む。
未来を視る、ヴァルゲイトのカラテアッパー。逸らす。カラテストレートを差し込む…否、攻撃機会ではない。恐るべき速度の回し蹴りをビジョンとして得る。回避する。今度こそ攻撃を…否、ヴァルゲイトは手負いではないのか?攻め手が早すぎる!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
何故だ!未来を視て、最適解を選んでいるはず!なのに何故私は守勢に回っている!なぜ攻撃機会がないのだ!奴は手負いではないのか?手負いの上でこれほどまでにカラテが張るというのか!?
「小僧め!未来を視てそれで強くなったつもりか!?そんなもの、カラテで踏み潰してくれるわ!」
まるで詰めショーギだ、とクレアボヤンスは思った。互いに最善を尽くし、最後にはどちらかがオーテ・ツミとなる。今までは勝つ側だった、未来を視て最適手を選んできた。今回は?選択を間違えたはずはない。
「江戸時代にも貴様のような手合いはいたが、やはり厄介なジツよな。」
江戸時代?まるで見てきたかのように。クレアボヤンスは気付く、ヴァルゲイトとは我々憑依ニンジャとは違う、リアルニンジャなのではないかと。そしてビジョンを得る。ヴァルゲイトの荒々しく肉を抉るようなカラテフックを。その恐るべき爪を。避けることはできない。まるで詰めショーギだ、逃げ道を丁寧に潰され、極大の一撃を浴びせられる。
「アイエエエエエエエエ!」
クレアボヤンスのソウルは恐怖に呑まれた。その未来に自らの死を視たからだ。ヴァルゲイトに心臓を抉られ惨たらしく死ぬ未来を。ナムアミダブツ!
「イイイイイィィヤァァァッ!!!」
クレアボヤンスの心臓は巨大な恐竜めいた爪に抉られる!
「サヨナラ!」

イクサは終わった。獣人の死体とニンジャの爆発四散跡。戦闘に巻き込まれたUNIX機材。残ったのはただ一人、アグラを組むリアルニンジャ、ヴァルゲイトである。

2終わり エピローグとなる3に続く

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