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うまれかわらなくてもここにいてよ。/短い小説

いつもと変わらない帰り道。
5人とも同じ制服のスカートをゆらしながらわたしたちは階段をのぼる。

その階段は見上げるほどに高く、のぼりきった後は必ず「ついたー!」と声をあげるほどだった。
そうして、夕日にてらされる校舎を見下ろしながらおしゃべりが始まる。

「生まれ変わったら何になりたい?」

ひとりがふと、そんなことを聞いた。

それは「今日の夜ご飯なんだとおもう?」と同じ部類の他愛もない質問。
くだらないけれど、今のわたしたちにはそれくらいがちょうどよかった。

石油王と結婚する人生やらお金持ちの家のねこだの、好き勝手な答えが飛びかった。

誰かが答えるたびに笑いがはじけたが、彼女の答えだけは違った。

「わたしは、うまれかわってもここにいたいかな」

転がり出たような言葉に、思わずその子の顔を見た。夕焼けに照らされて、暖かい色をした顔。

「なにそれ!いい答えすぎるよ!」
「そんなこと言われたら、もうなんも言えないじゃん!」

一緒にいた子たちも、何か感じたのだろう。わたしの反応の50倍は超えるような勢いで、まぜっかえす。

「でも、こうやってみんなでおしゃべりしながら帰るの楽しいし」

責められたわけでもないのに、友人らの反応に慌てて彼女はつけくわえた。


おしゃべりは続き、次第に足元のかげが伸びていく。
それはまるで、いつまでも動こうとしないわたしたちを家にひっぱっているようだった。


・ ・ ・


あの日と同じように、わたしは夕焼けをながめていた。
母校の中学校と、そのグラウンドを見下ろしながら、あそこに通っていた毎日をすこしだけなつかしんだ。


中学を卒業して6年がたった。
毎日のように一緒に帰った友人たちとも、連絡をとることはなくなった。

それでも、「生まれ変わったら何になりたいか」と、ふざけあった日は今もよく覚えている。


「うまれかわってもここにいたい」


彼女の言葉と、そのオレンジ色の顔はあまりに鮮明に残っている。
中学生にもかかわらず、よくそんな答えが出てきたなと今になっては思う。


いまの彼女なら、どんなこたえがでるのだろう。


浮かんだ疑問は、すぐさま冷たい風にさらわれる。
静まり返った校舎に光はなく、夕焼けの反対側では夜が始まろうとしていた。


彼女は、もう、この世のどこにもいなかった。

文字通り、もう、この世のどこにも。


そんなこと、あるわけないと願ういっぽうで、うすうす予感はしていたのだった。
連絡をとってもいっこうに返ってこない返事と、
彼女がSNSに書きこんだひとこと。それ以降とだえる投稿。

もしかして、と思った。
もしかして、に続く言葉を確認するのに、ずいぶん時間がかかった。
事実を知ってからも、どう受け止めたらいいのかわからないままだった。


わたしが途方に暮れている間に、この中学校は廃校になっていた。
生徒数がたりないために廃校が決まり、2年前にさいごの生徒が卒業した。

運動部のかけごえも、下校中の生徒のおしゃべりも聞こえない。
夕焼けの中で、ただただ校舎があるだけだった。

風がもう一度つよくふいて、かじかむ指先をポケットに突っこんだ。


廃校になった中学校はいまもここにあって、

沈んでいく太陽はあすも空にのぼって、

夕日にてらされたあのこはもうここにいなくて、

あの日と同じ夕焼けをわたしだけが見ていて。


「うまれかわらなくてもここにいてよ。」


かなわぬ願いは、誰に届くこともなく、夕焼けにとけこんだ。
沈みゆく太陽も、きっと聞いてはいないだろう。
それでも、願わずにはいられなかった。


うまれかわらなくてもここにいてよ。




清世さんの企画「絵から小説」に参加させていただきます。

見出し・挿絵は清世さんの絵です!

清世さんの絵は、はっとするものが多く、今回の企画の絵(3種類)のどれも素敵です!!

100人を描く路上の旅」で、会いに行こうと思っていたものの都合がつかず、ざんねんがっていたらこの企画を知りました。
企画してくださりありがとうございます!
期日に間に合ってよかったです!


・ ・ ・


これで2つ目の小説です。
どうかnoteのかたすみにおかせてください。

読んでくださり、ありがとうございます。







たいしたものはお返しできませんが、全力でお礼します!! 読んでくださり、ありがとうございます!