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優しい人、断れない人
"☆ちゃんって優しいよね"
幼い頃から私は、優しい人だと言われることが多かった。
そういえば、小学校の卒業アルバムか何かで、みんなの投票で決まる
"優しい人ランキング"の上位に名前が上がっていたこともあった。
でもそれはただ、自分がされたお願いを断れない性格だからだったのかもしれない。
そんな私は、たまに人に利用されているように感じることもあった。
二十歳になった私は就職をして、社会人になった。
車が無いと買い物にもいけないような田舎に引っ越した。
同じ学校から私と同じ就職先に行く子も何人かいて、皆んな同じ会社の寮に住んでいた。だから初めは、その子たちとばかり集まって買い物に行ったり、遊びに行ったりしていた。
ここに引っ越してきて最初に車を持ったのは私だった。東京の祖母から譲り受け、ここまで持ってきていた。
皆んな社会人になりたてでお金も無く、買う気配も全く無かったため、近くにはバス停も、寮にはカーシェアもあったが、楽だったから私の車で運転して出かけることがほとんどだった。
ある日、仲良くしていたメンバーの1人が、
"今度地元帰るから空港まで送迎してほしい"と申し訳なさそうに言ってきた。
その日私は、慣れない仕事終わりで疲れていたけど、車がないし仕方ないかと思い送迎をした。
入社したばかり、新しい環境、みんなが良い気持ちでいられるように、助け合いだと思っていた。
しかし、またある日は
”彼氏がくるから車貸してほしい”
”病院行くから車貸してほしい”
”仕事間に合わなそうだから会社まで送ってほしい”
その子は事あるごとに私と、私の車を求めてきた。
求めるというか、私は使われていると感じてしまった。
ガソリン代を出してくれることもあまり無くて、
これってありなのか?って思っていた。
彼女は自分の車を持っているわけじゃないし、私が月にガソリン代でいくら使うか、人の送迎のために割いた時間が私にとってはどれだけ大切か、そんなことは考えもしなかっただろう。
私は正直に嫌だった。
突然LINEが来て、片道高速で1時間かかる空港への送迎をお願いされることも、
他人であるその子の彼氏に私の車を運転されることも。
でも、そんな事が重なっても私は、はっきり"嫌だ"と伝える事は出来なくて、
そんな自分が嫌で、ただただストレスが溜まる一方だった。
嫌という気持ちを伝えれば良いだけなのに、いつも断ることに対しての申し訳なさが邪魔をしていた。
同じ会社で働き同じ寮に住む彼女とのその後の関係が不安で、私は何も変わることは出来なかった。
入社から半年も経たない頃、”彼女は地元に戻りたい”と言って会社を辞め、同時に私のストレスもなくなった。
優しさで始めたつもりのことが、いつの間にか利用されている気がした。
きっと彼女にも悪気はなかったし、何より断ることも出来ず自分の気持ちを伝えることが出来なかった私が良くなかった。
それから私は人に車を貸すことは一切無くなったし、ある程度常識のある人としか付き合わなくなった。というより、正直に私の人生に必要だと思う人としか関わらなくなった。
今はそれでいいと思っている。
こんなに嫌だった思い出があっても、私の中には 断れない心 はまだあるし、
誰にでも常に気さくで優しい人間でいたいから、これからもきっと
断れない気持ちに悩まされることはあるだろう。
それでもいつかは、人を傷つけたりすることなく自分の思いをしっかり伝えられる
そんな人になりたい。
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