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わたしとMARGARET HOWELLと同調圧力の話

 この四月で職場が変わった。今までの職場は服装的に自由で、女性も多く、幅広いジャンルの服を着た方々がいた。カジュアルな服装もOKだったし、わたしも何も疑問を抱かず、のびのびと好きな服を着て通勤していた。

 四月から、異動で職場が変わって驚いた。建物の中がオフィスカジュアル一色なのである。

 うちの会社は制服がなく、基本的に服装は自由だ。あれこれとうるさく服装に注文を付けられるような社風でもない。

 なのに、どうして、みんなの服装が、オフィスカジュアル1択なの??

 わたしは考えた。異動したばかりで周りから浮きたくはない。郷に入れば郷に従うべきなのか……。
 実家に眠っていたかつてのオフィスカジュアルな服装を引っ張り出し、少し服などを買い足し出勤をはじめたのだが、どうにもオフィスカジュアルを着ている自分がピンとこない。

 ちなみにわたしが好きなブランドはMARGARET HOWELLである。
 ここ数年、古着を買いあさって暮らしていたのだけれど、MARGARET HOWELLの服は古着でもほとんど傷んでいない。丈夫である。さらに素材がよくて着心地がいい。何よりわたしに似合う。
 そう、自画自賛するようだがわたしはMARGARET HOWELLの服がものすごく似合うのだ。このブランドはわたしのためのブランドなのかもしれないと思うほどである。

 閑話休題。
 オフィスカジュアルという服装に悩んだわたしは、友人が昔誕生日プレゼントに送ってくれた「1年3セットの服で生きる」を再読した。本を読みながら、わたしの似合う服と、着たい服と、なりたい姿は全部既に一致しているんだよなと思った。
 つまりわたしは、MARGARET HOWELLの服が好きで、MARGARET HOWELLの服が似合い、MARGARET HOWELLの服を1年365日着て生きていきたいのである。1年3セットでいい。お気に入りのMARGARET HOWELLの服があればわたしはおそらく幸せに生きていける。
 というか、前の職場ではほぼMARGARET HOWELLの服しか着ていなかったのだ。

 そんなことを考えながら五月。ある日わたしはオフィスカジュアルにキレた。というより、何もかもどうでもよくなってきた。そろそろ職場に馴染んできて、まわりとも少しは会話をするようになった頃である。
 その心の緩みとともに、わたしのストレスは爆発した。

 どうしてわたしは周りにあわせようとしているのか? 職場の女性がみなオフィスカジュアルだからといって職場がそれを規定しているわけではない。うちの社風はどちらかというと、人は人、である。いわばわたしは勝手にオフィスカジュアルという同調圧力を読み取り、勝手に同調圧力に屈している状態である。
 なにより仕事が嫌でたまらないのに服まで特に好きじゃないものを着ていたんでは会社人生になんの楽しみもない! 絶望の人生だ!

 ぶち切れたわたしはある日、見た目はしゅっとしたラインのタイトスカートなのだが、よく見たらパンダがころころと遊んでいる、というスカートで職場に行った。
 職場の女性数人に、「パンダだー!」と話し掛けられた。みんな笑顔だった。

 なんだ、パンダでいいんじゃないかと思った。

 パンダでいいならMARGARET HOWELLでもいいだろうとも思った。別にMARGARET HOWELLは、オフィスカジュアル的な素材ではないだけで形的にはベーシックだし、そこまで会社で着ていておかしな服装ではないはずだ。
 そうだ、わたしは好きな服を着て生活していこう。1年3セットは無理かもしれないが、別にワンシーズン3セットくらいでいい。
 そのくらいなら新品でMARGARET HOWELLの服が買える。
 そう決意して、さっそく、MARGARET HOWELLに行って新品のカーディガンを買った。店員さんは優しく、買い物をしていてとても気持ちがよかった。
 吊ってある服はどれも好みで、この服を着て1年365日暮らせたらほんとうに幸せだろうなと思えるものだった。

 わたしがまわりの雰囲気に流されていただけで、MARGARET HOWELLは別に、TPOに合わない服ではない。繰り返しになるが、わたしが気にしていたのは、TPOではなく、同調圧力だとおもう。
 だが、わたしが思うほど、まわりはわたしの服装を気にしていない。わたしは1年3セットの服で生きるを再読するまでの一ヶ月ほど、一体何と戦っていたのか。

 わたしは同調圧力がきらいだ。Twitterでもそれを見かけると反発し距離を取ろうとする。
 けれどわたしは簡単にそれに飲み込まれる人間だ。
 本の趣旨とはまったく違うところで納得し、落ち着いたが、友人はとてもよい本を誕生日プレゼントにくれたと思う。
 大変ありがたいことだという思いと、同調圧力に吞まれがちな自分への自戒を込めて、これを記した。

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