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その先へ届くように

水面の波紋が、
静かに周囲に広がってゆくように。

雲が大空を、
ゆったりと流れてゆくように。

小鳥が木陰から、
四方へのびのびと羽ばたいてゆくように。


一つの場所からその周囲に広がっていく。


そんな自然の営みを眺めていると、
自分の中に深く染み入るものがあります。

「伝わる」ということ。

当たり前のことだけれど、
それがどれだけ難しいことか。


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人は誰かと関わる以上
常に何かを「伝え」ながら生きています。

時に感情を訴えかけたり、
何かの価値を知らせてあげたり。
知識を教えることもそうかもしれませんね。

でも悩まされるのが、
「うまく伝わらない」ということです。

思いはあるのだけれど、
相手は理解してくれない。
いいものなのに、
誰も手にとってくれない。

商売をするにしても、
相手におもいを伝えるにしても、

伝えたいのに伝わらない。

人々はいつの時代もおもいを抱え、
それをどう伝えるかに悩み、苦心してきました。

時代の変革期、
新しい価値を伝えようとして苦心した
ある商売人のお話です。

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明治のはじめまで遡ります。

日本が開国をし、
様々な価値観が流入する新しい時代の中で、
日本のある大学で「味覚の研究」が進められていました。

昔から味覚には甘味、酸味、苦味、塩辛味がありましたが、
そんな中で、どの味覚にも属さない、
「うまみ」という新しい成分が発見され
グルタミン酸を主成分にして
そのうまみが科学的に再現されたんですね。

その「うまみ成分」を
調味料として世の中に広めれば、
日本中の家庭料理がますます美味しくなる。

新しい時代の、新しい調味料として、
その研究成果は、あらゆる可能性に満ちていましたが、
どのように世の中に広っていくかまでは見えていませんでした。

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そんな時代の中で、
代々、薬品で商売を続ける一家がありました。

「この明治という時代に、
新しい価値を提供でるものはないだろうか」

その家では、祖父の代から、
時代の変革期に武士の時代の終わりを見届け
価値観の大きな変化を感じながら
新しい可能性を日夜模索していました。

そんな折に、
大学が研究を続けていた「うまみ」という
新しい成分の話を耳にするんですね。

この新しい「調味料」によって
人々の味覚を潤し、やがて世の中の生活を変えられるかもしれない。

彼はその研究成果に希望を見出し、
自分の商店でその新しい調味料の製造をし
事業化することを決めます。


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誰も知らない「うまみ」という成分
それを手軽に料理に加えられる新しい化学調味料。

その商品は可能性に満ちていましたが、
そこで問題になったのが
「世の中への宣伝」でした。

いつの時代も、
新しいものに抵抗を持つ人はいるもの。

料理とは人の心がつくり上げるもので、
そんな化学調味料を料理に入れることへの抵抗も
当時の人々にはあったのでしょう。

どのように世の中に広めていくか、
どうしたら理解してもらえるか。

その商店の若い三代目は
必死になって色々な宣伝方法を模索していました。

ある時は、宣伝広告を工夫しようと、
割烹着姿の女性のイラストとともに
親しみやすく人々に受け入れられないだろうかと表現してみます。

またある時は、鳴り物で派手に音を鳴らしながら、
全国を歩きまわり、調味料の実演販売もしましたし、
看板に派手な電飾を輝かせながら
人目を引きつけるなんてこともしました。

今のようにマーケティングという言葉がなかった時代。

彼はその「未知の商品」をいかに世の中に
広めていくかを必死に考え続けていました。


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いく通りもの宣伝方法を試していく中で、
彼はふと、あることに気がつきます。

それは「生活者の視点」で
その価値を伝えるということでした。

今までは、ただただ広めることだけに
必死になりすぎていたのかもしれません。

そう考えた彼は、
商品の伝え方を工夫するようになります。

考えてみれば、
若い女性は将来、家庭で料理を作り家族を支える存在になる。
それならばと、その調味料に「調理本」を添えて
若い女性に広めたらどうだろう。

そうすれば、
彼女たちの調理にも役立つし、
料理の楽しさも知ってもらえるかもしれない。

また、彼は商品の魅力を伝えるために
キャッチコピーも工夫します。

「耳かき一杯分でカツオ節の数倍のうまみがでる」

この宣伝文句は、
シンプルながらも印象的な一文でした。

その言葉のインパクトとともに新しい調味料は、
次第に毎日の料理に苦心する主婦の心を捉えていきます。

やがて時間をかけながら、
その調味料は「怪しい」イメージを払拭していき、
民衆に親しみやすい名前とともに広がっていくんですね。

その商品の名前は「味の素」。

あらゆる宣伝方法で、
日夜この調味料を伝え続けた人物こそ
「味の素」三代目社長の鈴木三郎助さんです。

彼が大切にしていたこと、
それは「人の役に立つこと」「消費者とともに歩むこと」

その思いで、商品を広め続けた結果、
今日では日本中の食卓に豊かな時間を与えてくれています。


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僕も企画の仕事をしていた関係で、
伝えることの難しさは
痛いほどよくわかります。

また、たった数行のキャッチコピーで
価値が伝わる感動を何度も垣間みてきました。

例えば夏のレジャー「プール」の宣伝広告。
「プール冷えてます」というシンプルな表現に
人々は清涼を感じ、週末を待ちわびながら
家族とともにプールに向かいました。

また京都に向かう新幹線の中で
「日本に、京都があってよかった。」という広告に触れ、
しみじみとその歴史の蓄積された都と、
この国に生まれたことのありがたさを感じたものです。

何かを伝えるために、
人は多くのことを伝えようと考えがちだけれど、
それでは肝心なことがぼやけてしまうんですよね。

大切なことは、余計なことをせずに、
素直に受け取る側の気持ちになって伝えること。

例えば、一人の人間が、
自分の持つ魅力やスキルを
どのように身近な人に伝えられるか。

そうしたことにも、
日常が豊かになっていくヒントのように思います。


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早いもので、この島に来てから、
もうしばらく経ちました。

ちょうど一年前、
ここでの投稿を前に
みなさんにどのように記事を発信しようか
しばらく考えていたことがあります。

例えば、
この場所をどう伝えようかということだったり。

この場所は「小島」なのか、
それとも「自由の島」なのか。

いや「孤島」かもしれない。

色々な伝え方がある中で、
自分にとっては「孤島」という理解と、
伝え方が自然な気がして今日まで歩んできました。

「独りで向き合う」時間を大切にしながら、
世の中の「一人ひとりと向き合いたい」

この孤島には、
そんな僕なりのおもいが込められています。


みなさんは、
手にして入るものを、
どのように伝えていますか?

思いをきちんと伝えられていますか?

正しい伝え方で
みんさんの価値が正しく伝わりますように。
ともに歩んでいきましょう。


それでは、
今日も素敵な一日になりますよう。


遥か孤島から感謝を込めて。


いつもありがとうございます。



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言葉をしれば、世界は広がる
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最後までお読みいただきありがとうございます。毎日時間を積み重ねながら、この場所から多くの人の毎日に影響を与えるものを発信できたらと。みなさんの良き日々を願って。