Album of the year 2020
ハロー、あけましておめでとう。
2020年は音楽ファンとしてのオレの転機の年だった。CDを買うのをやめて、Apple Musicをはじめた。コロナでタワーが試聴機を中止していたからだ(現在は試聴機は復活している)。
かつては週5で通っていた(働いていたからだけど)タワーに行くことがほとんどなくなり、Apple Musicがレコメンドしてくる曲たちに「はぁ?本気でオレにコレ勧めてんの?」とウチでひとり舌打ちをしながら、新しい音を探すのはあんまいい体験じゃなかった。
オレが本当に求めてんのは、どこかのアーティストのフォロワーやルーツじゃなくて、まったく聴いたことのない新しい音楽なんだけど、Apple Musicのラジオチャンネルやヒットチャートでは、先述の「だっさ!」みたいな曲がまあまあ混ざるのでしんどかった。
なので一時期はショパンばかり聴いていた(逆にショパンはほんとに好きになった)。
というわけで、これまでtwitterでただ流れていくだけだった音楽メディアの情報をちょいちょい読んでは音源をチェックするようになって、ようやく新しいアーティストとの出会いを作れるようになった。
やれやれ。ネットは広大だわ。
No.8 Tame Impala / The Slow Rush
このご時世、サイケって言ったらエンパイア・オブ・ザ・サンかテイム・インパラよ。オーストラリアン、サイケ大好きだな。
No.7 ラブリーサマーちゃん / THE THIRD SUMMER OF LOVE
90年代っぽいディストーションギター、ビタースウィートなメロディ、けだるげで舌っ足らずな女性ボーカル。知ってる、それ。ブリグリでしょ。
えっ違うの
ブリグリじゃん。
No.6 Machine Gun Kelly / Tickets To My Downfall
もう掘るところないだろと思ってたパンクシーンから新しい音が出てきた。 すごい。音楽は無限。
No.5 Phoebe Bridgers / Punisher
Beach Houseを思わせる、美しくナイーヴなメロディ。喉の奥にタメがあるようなちょっと変わった歌い方が良いよね。でもビデオがクソダサなんだ、マジで。
嘘みたいだろ? Officialなんだぜ、それで。
No.4 Mura Masa / R.Y.C
Blurが2020年にデビューしたとしたら、こういう音になるんだろうね。このビート、ヤバくない?
No.3 beabadoobee / Fake It Flowers
ベッドルームミュージック的なナイーヴなメロディラインと、舌っ足らずな女性ボーカルに、オルタナのカタルシスを取り入れるって、それ昔あったなGiant Dragって言うんだけど。もしくはブリグリ。あれ、これさっきも書いたんじゃ…
1曲めのCareとか如実なんだけど、デビューアルバムでしかありえないメロディってあるじゃん。超絶シンプルなのに、なんかカッコいいみたいな。
そういう勢いが全編にわたって感じられたのでとても良かった。
しかし、まったく聴いたことのない新しい音楽を求めてるとか言っておきながら、ブリグリっぽさに弱すぎ。
No.2 Taylor Swift / folklore
オレが知っているテイラー・スウィフトは、美人で、良いメロディを書く、アメリカのポップスターだった。ブロンドの髪に、赤いルージュ(重複)のリップ、白い肌。キラキラして、ブイブイ言わしてる、高嶺の花子さんの代表みたいな。
その日、Apple Musicから流れてきた曲は、Bon Iverのジャスティン・バーノンが、抑制の効いたボーカルで、ピアノだけをバックにメロウなメロディを歌っていた。
続いてどこかで聴いたことのある女性ボーカルがインしてきて、美しいコーラスワークを織りなした。繊細に、穏やかに。それがテイラーだった。オレが知らないテイラー・スウィフト。
オレはすぐにアルバムをダウンロードして、何度もなんども聴いた。ミニマルなサウンド、フォーマットに則ったコーラス。新しさはないはずなのに、間違いなく傑作だった。
勢い余って、過去作もほとんどダウンロードしたが、このアルバムは群を抜いてオレの心を捉えた。「仙道君を一番活かせるポジションはPGかも…!」という彦一の姉ちゃんのセリフがオーバラップする。
テイラーを一番活かせるフォーマットはフォークミュージックかも…!
ジャケからも本作の内容が伺われる。目を凝らさないと、それがテイラーかどうかはわからない。
No.9 Taylor Swift / evermore
年末に突如リリースされたfolkloreの続編。たぶん好調なfolkloreの売上に気を良くして、二匹目のドジョウを掬いに行ったんだろう。優秀なマーケターがついていらっしゃるようで。さすがやわ。
内容的にはほぼ一緒。ついに後ろ向いちゃったよ。
No.1 羊文学 / POWERS
オレが高校生の頃、J-POPシーンは空前の好景気に浮かれていた。
小室哲哉が高低差の激しいメロディと転調の濫用で、素人が歌うには難易度の高い、かつキャッチーな曲(すごい)でカラオケファンの心を鷲掴みにして、ミリオンヒットを連発していた。
ミスチル、スピッツ、グレイ、ラルク、ジュディマリ、イエモンといった王道のポップバンドが台頭し、サザンやB'z、ドリカムもまだまだヒットを飛ばす、そんな時代だった。
それらのポップスターが音楽産業にもたらした富は、新たな才能の発掘と育成に資した。ミッシェル、ブランキー、スーパーカー、ナンバガ、ブンブン、くるり、pre-school、挙げたらキリがない。紅白に出場するにはクセの強すぎるバンドたちでも、50万枚セールス、横浜アリーナを埋めるくらいは夢ではなかった。
Dragon Ashはやがて時代の寵児となってヒップホップをJ-POPに根付かせ、ハイスタは英語詩にこだわりメジャーレーベルのオファーを無視しながらも、ストリートのキングとなった。
それから20年 //////
羊文学の2nd アルバムはオリコンで初週32位、推定売上2570枚。7月に出たBTSの31位と、同日発売の声優のアルバム33位の間だった(2020/12/7-12/13)。iTunesのアルバムチャートでは164位で、少し下にパスピエがいた(2020/12/20)。商業的にはかつてのオルタナシーンの巨人たちには遠く及ばない。
それでもオレはこのPOWERSは今年を代表する1枚に挙げる。
3ピースバンドならではの隙間の多いサウンドスケープに、技術や声量をひけらかすわけでもなく、感情も抑制された、ただただ声色が印象的な塩塚モエカのボーカルが馴染む。意味よりは音の響きを重視していると思われるリリックもオレ好みだ。
音でいうとくるりが近いかと思う。1st, 2ndくらいだろうか。歪んだギター、装飾はほとんどない。メロディはユーミンっぽさを感じる。これあんま共感されないかもだけど。
要するに、くるりをバックにユーミンが歌ってる、そんな感じだ。悪いはずがないだろ?
Single of the year 2020 羊文学 / 銀河鉄道の夜
言わずと知れたGoing Steadyの名曲をカバー。原曲よりドシャッとしたビートで始まる展開に「おや…」と思いきや、微妙にフェイクするシーンもあり、原曲ファン(オレ)を唸らせる。
クライマックスは「裸のまま、涙も枯れた」のときの塩塚モエカのボーカルの煌めかせ方だ。ヤバい、これは震えるというのが比喩ではない。胸の深いところがゾクッってするのが癖になって、毎日3回は聴いていた。
コーラスをレイヤーしたら偶然できたものかと思ってたら、POWERSに収録の「あいまいでいいよ」でもかなり近い音を再現をさせてたので確信犯だと思う。しゅごい、悪魔か。
要するに、2020年は羊文学の年だった。
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