ドイツ料理「死んだおばあちゃん」を作って食べてみた
はじめまして、オカダマと申します。
私は現在、仕事の関係でベルリンに滞在しています。
みなさんもご存知の通り、冷戦中のベルリンは壁によって東西に分断されていました。
私が住んでいるのは旧東ドイツに属するエリアなのですが、ある日「死んだおばあちゃん」という東ドイツ時代によく食べられていた料理があると聞きました。
「死んだおばあちゃん」ってなに……?
調べてみると、「死んだおばあちゃんみたいな見た目だから」という理由で名付けられた料理だということがわかりました。
さらに、ドイツには他にも「貧乏騎士」や「冷たい犬」といった奇妙な名前の料理がいくつも存在するようです。
死んだおばあちゃん、貧乏騎士、冷たい犬……。
名前からはどんな料理なのかまったく想像がつきません。
そこで、せっかく現地にいることですし、そんな変わった名前の料理たちを作って食べてみることにしました。
ということで、まずは食材の調達のため、近所のスーパーに行きます。
壁が落書きだらけなのがこのエリアの特徴です。
そして、こちらが「死んだおばあちゃん」の材料です。
結構シンプル。
・ブラッドソーセージ
・ベーコン
・ザワークラウト
・じゃがいも
・たまねぎ
・各種調味料
さっそく「死んだおばあちゃん」を作っていきましょう。
1. 材料を刻む
まず、たまねぎやブラッドソーセージをみじん切りにします。
ブラッドソーセージはドイツ語で「ブルートヴルスト」と言います。
豚の血を加えて作った腸詰です。通常のソーセージより色が濃いですね。
この色合いが死んだおばあちゃんらしさを醸し出すのでしょう。
ベーコンはあらかじめダイス状に加工されているものを使用しました。
2.たまねぎとベーコンを炒める
たまねぎが透明になるまで炒めます。
ここでベーコンも一緒に炒めていきます。
3.スープを加える
たまねぎとベーコンに十分に火が通ったところで、野菜スープを投入してひと煮立ちさせます。
ここまでは特に変わったことはありません。
4.ブラッドソーセージを加える
具材とスープが馴染んだところで、ようやく要となるブラッドソーセージを投入します。
馴染みのない食材なので、どうなるのか予想がつきません。
しばらく火を通していくと、固形だったブラッドソーセージがだんだん溶けていきました。
そうか、血だから熱を通すと溶けるのか。
これに塩コショウやマジョラムなどのスパイスを加えます。
煮詰まったところで完成です。
うーん……。
名前通り……おいしそうに見えない……。
この「死んだおばあちゃん」は、東西ドイツの統一後、旧東ドイツでも多様な食材が手に入るようになったことでわざわざ食べる必要がなくなり、廃れてしまったそうです。
あとはこちらをザワークラウトやじゃがいもと一緒に盛り付けるだけなのですが、これだけでは見た目が素朴すぎるので、ちょっとテーブルアレンジに凝ってみることにしました。
このあとに作った「冷たい犬」や「貧乏騎士」などの料理も一緒に並べて、いざ実食です。
本日のメニュー
Arme Ritter(貧乏騎士)
Tote Tante(死んだおばさん)
Verlorene Eier(失われた玉子)
Kalter Hund(冷たい犬)
Tote Oma(死んだおばあちゃん)
あれ?
ちょっといい感じじゃない?
ちょっといいレストランに倣って、皿にやたらと粉を散らしてみたりしたら、見た目はどうにかいい感じになった気がします。
それでは、ここでそれぞれの料理を紹介していきましょう。
Arme Ritter(貧乏騎士)
作り方:溶き卵に牛乳を加え、そこに硬くなったパンを浸し、バターを溶かしたフライパンで両面を焼く。仕上げにシナモンと砂糖を振る。
要はフレンチトーストです。
ただし、実はフレンチトーストはフランスとはあまり関係がなく、このようなパンの調理法は昔から世界各地で見られたそうです。
ちなみに、こちらの「貧乏騎士」の歴史はなんと14世紀にまで遡ります。
硬くなってしまったパンを卵と牛乳で柔らかく復活させる調理法は、まさに質実剛健なドイツ人の気質を色濃く反映したものでしょう。
Tote Tante(死んだおばさん)
作り方:沸かした牛乳にビターチョコレートを溶かし、ラム酒で香りをつけたものをグラスに注ぎ、クリームを浮かべる。
ドイツ料理ではおばさんも死にます。
遠方で亡くなった女性の遺骨の輸送費を節約するため、ココアの箱に入れて自宅まで送り、葬儀でラム酒とクリームを入れたココアを振る舞ったことが名前の由来だそうです。
「死んだおばあちゃん」のように見た目から名付けられたのかと思いきや、実話に基づくレシピだということで予想外でした。
ココアとクリームの甘さに、ラム酒のアクセントが加わった大人の一品です。
Verlorene Eier(失われた玉子)
作り方:沸かしたお湯に少量の酢を入れ、卵を静かに割り入れる。そのまま白身が固まるまで数分間茹でる。
ファンタジーに登場しそうな名前ですが、先の「貧乏騎士」と同じパターンで、要はポーチドエッグですね。
卵の殻が失われてしまったような見た目から、このように名付けられたそうです。
今回はオニオンとマスタードのソースを合わせています。
マスタードの酸味が半熟の黄身の甘みとマッチしておいしく仕上がりました。
Kalter Hund(冷たい犬)
作り方:溶かした製菓用チョコレートにココナッツオイル、生クリームを加えたチョコレートクリームを用意する。ローフ型にビスケットとチョコレートクリームを交互に重ね、冷蔵庫で一晩冷やす。
「ドイツには『ホットドッグ』ならぬ『コールドドッグ』が存在するらしい」と、台湾人の友人が教えてくれたものがこちらでした。
冷蔵庫で冷やして作ることや、ココナッツオイルの冷却効果から、「Kalter」(冷たい)という形容をされるようになったそうです。
今では犬という意味の「Hund」と呼ばれていますが、元は鉱山で使う「Hunt」(トロッコ)のような形だということが名前の由来だそう。
ビスケットとチョコレートを重ねただけのシンプルな味わいですが、どっしりとした食べ応えがあり、少量でかなりの満足感があります。
Tote Oma(死んだおばあちゃん)
作り方:上記を参照のこと。
最後に本命の「死んだおばあちゃん」です。
あ、意外においしい!
ブラッドソーセージは少し臭みがあるのですが、ザワークラウトの酸味がそれを中和しています。血のコクが味に奥行きを出していて、素朴ながらもしっかりおいしいです。
名前と調理中の見た目からあまり期待はしていなかったのですが、うれしい誤算でした。
「物資がない時代だから食べられていた、あまりおいしくない料理」という前評判でしたが、現在でも十分通用する料理だと思います。
結論
今回ご紹介したものだけでなく、「尼の屁」、「ミンチになったピーター」、「男の子のペニス」など、他にもまだまだ奇妙な名前のドイツ料理があります。
今後もいろいろと試していきたいです。
みなさんもまずは「死んだおばあちゃん」から作ってみてはいかがでしょうか。
ちなみに、食べる時は草がめっちゃ邪魔でした。
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