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1.散文詩 ≪サプライズ≫

#幸せエッセイ
美智子は片田舎の山裾に一人で暮らしている。
三人の娘はすでに嫁ぎ、美智子の夫は三年前に亡くなっている。
 
春のとある日曜日、今日もひとり、畑の手入れに出かけていた。
昼前になって、長女のひとみが突然、
畑にやってきた。
『母さん一緒にお昼食べようよ』
『えー、どうしたん、だんなと喧嘩でもしたんかいな』
『まあーね』
と言いつつ、鍬や肥料の袋を片付けた。
そして、うちに着いた。
次女の恵と三女の香織がお昼の準備をして、待っていた。
『あんたらどうしたん、何かあったんかいな』
 
時を置かずに、三台の車が到着。
三人の婿たちとその子供達が次々と広い庭先に降り立った。
 
『エーッ、何事かいな』
みんなが、うちの中に入り、
居間に勢ぞろい。
そして、三組の夫婦と、合計五人の孫たちが、美智子の周りを囲み、
『おばあちゃん、お誕生日おめでとう』
『還暦、おめでとう』
みんなが口々に。
 
そのあと、小学生の孫三人、それぞれが描いたお婆ちゃんの似顔絵、そして三組の娘夫婦たちが相談して買った、大きな、真っ赤なバラの花束やプレゼント。
それだけではありません、
みんなが書いたお祝いの色紙、そして、大きなホールケーキ。娘たちの、腕によりをかけた手料理。何よりも仲の良い娘たちの優しい言葉、みんなの賑やかな談笑、ついに何かが切れた。
 
美智子は、もう声が出なかった。
そう、還暦のお祝いに、みんなで打ち合わせて、
サプライズで、来てくれたのだ。
 
夫が亡くなって以来、全員が揃うことは一度も無かった。
ひとりで、ほそぼそと暮らしてきた。
今日も、いつもと同じように畑仕事を黙々とやっていた。
 
私のために、みんなが集まってきてくれた。
『お父さん、私だけこんなにしてもらっていいのかいね』
仏壇の前で手を合わせながら呟いた。
 
美智子は、それ以上言葉が出なかった。
とっくに枯れていたはずの涙が、止めどなく溢れた。
 
 
幸せ詩集 『愛おしき人々』 著:中村とうご   より
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普段、何も口に出さなくても、本当は人は優しいのです。
時に、それに気づくことがあります。
人の世は、こんな話が一杯、一杯、溢れています。
捨てたもんじゃないんです。
 
もっと、本当の人の心の奥底にある優しさを信じましょう、
そして、感じましょう。
 
キット、あなたにも幸せが来ます、
もう来ているかも、ネ。
折角の二度と無い人生、仲良く楽しく幸せに生きましょう
(H/P 書窓けやき通り)   

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