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『出口入口』(永井龍男著)を読んで

短編集の巻末にある、薀蓄のある書評を引用しながら、感想を述べさせていただきます。

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――前年の暮から1月2月と、雪らしいものは一向降らなかった。

こんな冒頭で始まるこの掌編は、短編小説の名手と知られた永井龍男氏の真骨頂と言えます。

心臓系統の故障で急逝した部長の通夜を舞台に、ドラマが始まる。

黒いイメージの通夜を、雪の夜の出来事にして、如何にもありそうな靴の取り違えから、人間ドラマが作られています。白と黒の世界を見事に表現した作品です。

サラリーマン世界の、私自身、好きな言い方ではないですが、勝ち組み・負け組みみたいなものを仕事で鎬(しのぎ)を削っている場ではなく、葬式で出しているところが上手い。

《雪の残骸を蹴散らして疾走する車の窓から、何か黒い物が続けて二つ、後を追うような形で投げ捨てられた》

この荒涼としたエピローグも中々いいです。・・・只、我侭な私は、掌編としての、もう一歩突っ込んだ落しどころが欲しかった、といったところでしょうか。

▶名短篇、さらにあり (ちくま文庫)

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