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立ち読みのお知らせ

こんにちは、Frankです。

本日は拙作の長編社会派ミステリー小説『謎のルージュ』に続いて、短編ラブロマンス小説『離れられなくなっちゃう』の立ち読みを公開します。

ご興味を持たれましたら、Kindle版もしくはソフトカバー版でご一読頂ければ幸いです。Kindle版は専用アプリのダウンロードでPCでもご覧になれます。

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【立ち読み】

第一章 出会い

 その朝、高井奈了は右眉がやたら痒くなって目が覚めた。
 寝ぼけ眼で天井を見ながら、ごしごし、ごしごしと何度も右眉を擦った。  暫くして痒みはひいたが、その日は毎週二回の決められたゴミ出し曜日だったことに気付き、そそくさと浴室に飛び込んだ。
 サッと朝シャンを浴びて、仕事モードに切り替える。それから透明のゴミ袋に入れた生ゴミを持って、一階に降りた。
 降り切ったところでプーンと異臭が鼻につき、目の前の光景に、思わず腹の中で唸ってしまった。
 ――なんだ、こりゃ!
 なんと、昇降階段左手の畳三畳ほどの狭い駐輪場に、てんこ盛りの人糞が垂れてあったのだ。
 そして、その周囲には、尻を拭いたとおぼしきちり紙が、あちこちに散らばっていた。
 新聞配達ならぬ、朝一番のクソの配達?
 持っていきようのない苛立ちが、高井奈の脳天を熱くしていった。
 警察にクソの落し物なんて被害届けを出したところで、所詮、笑い者になるだけだ。
 瀟洒な三階建て賃貸マンションの二階に住む高井奈は、マンションと不似合いの汚物を黙って放置するわけにもいかず、仕方なく二階にかけ上がり、バケツに水をいっぱい入れて駐輪場に戻った。
 “ジャバー!”  勢いよく水をぶっかけ、『参った、参った……』と繰り返した。
 出勤前のクソ忙しいときの洒落にもならない糞掃除。大きな溜息が漏れた。
 そこに道路向かいのクリーニング屋の女店長が生ごみを持ってやってきた。彼女は旦那と中学二年生の娘との三人暮らしである。高井奈と彼女の共通点は、ごみの収拾場所が同じだということと、年齢も四十前後と変わりないということだった。
「知りませんよね、誰か」と訊く高井奈に、「いゃ、知りません」と答えるスッピンの店長。お互い“知り”に力を入れて発音したように聞こえたのは錯覚だろうか?
 高井奈のスーツとバケツのアンバランスな出で立ちに、彼女は、もうかける言葉を失っていた。
 そんな訳で、いつもより十分遅れでマンションを出た。
 スーパーの特売で買ったママチャリに跨り、最寄りの駅まで全速力。
 主だった建物のない閑散とした住宅街だが、今の高井奈には心安らぐ街並みだ。
 カーデガン姿が急に目立ち始めたこの通勤時間、何だか秋の気配を肌で感じ取っていた。
 この町に越してきて早三年。確かに、この歳で一人暮らしも侘しいものだが、家族のごたごたから解放されたというホッとする気楽さもあった。
 駅の五十メートル手前から緩やかな上り勾配になり、そこから思いっきりペダルを踏み込む。
 ここが毎朝毎晩、高井奈が乗降しているK駅だ。
 駅の駐輪場に着いた時、大学生風の女性がひとり叫んでいた。 「どうなってんの、これ。最低――!」
 目を遣ると、彼女の自転車のバスケットに、チラシがいっぱい詰め込まれていた。
 チラシの内容を一瞥するまでもなく、彼女は紙をくしゃくしゃに丸め、その場に捨てようとした。
「これが資源の無駄遣いっていうの!」
 いつもなら完全に無視する高井奈だが、何を血迷ったのか、咄嗟に変な申し出をしてしまった。
「もしよかったら、捨てときますよ」
 この、何の変哲も無い言葉が、高井奈のこれからの人生を変えてしまうプロローグの始まりだった。
「えっ? おじさんは関係……いや、けっこうです」
 急によそゆきの声になった。
 彼女は丸めた紙くずを握り締め、慌てて改札口に向かった。
 何とも言えない心地よいα波を彼女から感じ取った高井奈は、日常のストレスが自分の身体からスーッと抜けていくのがわかった。

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日曜日の今日、まったりと《Frank☆World》をご堪能ください。

Frank Yoshida

#短編ラブロマンス小説
#実践文学の達人
#離れられなくなっちゃう

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