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Francis“Bolero”について語ります。M11「アネモネ」

先日、ムーンライダーズ日比谷野音ライブを観せていただきました。本当に素晴らしく、長年のファンの心を鷲掴みにしながらも新しいことにチャレンジし続ける姿はさらに心打たれるものでした。

ムーンライダーズとはこの世界に入ってからなかなか接点が無いままでしたが、2007年に鈴木博文さんと直枝政広さんのユニット「政風会」のアルバムにベーシストとして参加させていただいたのをきっかけに面識が出来、以降モノクローム・セットなどライブハウス規模で来日公演する海外アーティストの会場に限ってちょいちょい偶然お会いして軽くご挨拶するぐらいだった鈴木慶一さんに、年月を経て今回のFrancis “Bolero”リリースに向けてそれはそれは有難いコメントを書いていただいた時にはさすがに大感激。言葉には表せられないほど嬉しかったです。それというのもそもそもが私、ムーンライダーズに対して特別な想いがありまして、、、

1980年、日本のニューウェーヴ全盛期、私が高校生の頃、この記憶が間違いでなければ、テレビでいきなりフルフェイスのヘルメットをかぶり「彼女について知っている二、三の事柄」という奇妙なタイトルのナンバーを演奏。まだヌーベルパークを知るか知らないかの段階の若者にとって、むしろむむっ、これは何かあるぞと気になりました。

ただ彼らは当時のNWバンド、プラスチックスやP-Modelなどとはどこか違う空気を醸し出していたのも確かでした。さっそくムーンライダーズの旧譜を買うのと同時進行のようにしてヌーベルバーグに関する知識も徐々に増えていき、アルバム「ヌーベル・バーグ」「モダーン・ミュージック」そして出会いの一曲が入っている「カメラ=万年筆」と、まさにこの頃の私のようなヨーロッパ映画にかぶれかけている若者にとっては気にならないではいられない存在としてどんどん膨らんでいきました。

ほどよいニューウェーヴ感を出しつつ、幅広い音楽性、実験精神、歌詞のイマジネーション、それぞれのメンバーの個性を遺憾無く発揮しつつ保たれるバンドのスリリングなバランス。どれもこれも絶妙で魅力的ながら、中でもとりわけかしぶち哲郎さんのヨーロッパテイスト溢れる楽曲に痺れ、傾倒していきました。特にこの「バック・シート」(アルバム「モダーン・ミュージック」)の描写と旋律、そしてドラマチック過ぎるアレンジ。ルイ・マルの映画「鬼火」からインスパイアされたとも言われるこの曲のなんともいえない、死を目前に意識しながらもクールな視点で「見慣れた幸せ」を俯瞰で眺める若者ならではの無情感。こんなにセンチメンタルにノックアウトされた曲はなかなか他には無い。

かしぶちさんはその後、『リラのホテル』という素晴らしいソロアルバムをリリース。バンドで見せていた以上の世界観をこのアルバムで見事に開花させました。

Francisのこの「アネモネ」。実は1stミニアルバム“Burning Bear!”をリリースした直後に出来た楽曲で、当時のライブでも弾き語りで披露したこともありました。それから27年、えらいことじっくりと温めてきましたが、いざ作品化するにあたりこれを自分でアレンジしたらきっと何のひねりもない凡庸な曲になってしまうような懸念がしてなりませんでした。

ザ・コレクターズを辞めてそれほど経って無い頃、友達のDJ Duck Rockこと山ちゃんに用事があり、その日に彼がDJする現場だった原宿ストロボカフェに立ち寄った時、出演のバンドのひとつに「カメラ=万年筆」という名前を見つけ、気になりすぐにネットで調べました。それは実にモダンで、一筋縄ではいかないながらもとてもセンスのいい新しい感触のPOPS。さてこれはどんな人たちがやっているのだろうと気になっていた矢先、カーネーションのライブでそのメンバーの佐藤優介くんがなんとサポートKeyで参加してるじゃないですか!そんな運びで、ステージ上なのにマスクをしたままプレイする独特な姿が印象的な優介くんとすぐに知り合えたわけです。

2018年、Francisが不定期に下北沢風知空知で主催するイベント“Francis's Playhouse”のゲストに、優介くんと姫乃たまちゃんのユニット「僕とジョルジュ」をゲストにお招きした時には二人にお手伝いしてもらい、優介くんの伴奏でかしぶちさんのソロアルバムの「冬のバラ」そして、たまちゃんにも参加してもらってムーンライダーズの「砂丘」を歌わせてもらいました。いやー、気持ちよく自己陶酔して歌えました。

そんな経緯もあり、長年あたためていたこの曲を優介くんにアレンジしてもらったら新鮮な息吹が吹き込まれるのでは!?と、なかば直感でお願いしてみました。自分にとっても自ら作った楽曲を完全に他人に委ねることは初めての経験。さすがに若い頃なら気が気じゃないかもしれないけど、この年齢なったらむしろ自分では思いつかないプロセスを楽しみに待てる気持ちの余裕すらあってか、今回はもう楽しみでワクワクでしかなかったです。そして実際に優介くんから送られてきたアレンジを聴き、自分が予期していたレベルを遥かに上回りつつ、自分の思い描く世界感からは全く逸脱していない豊穣なアンサンブルに仕上がっていて感激!もちろん姫乃たまちゃんのボーカルも心地いいバランスで配置されていて、、本当に「僕とジョルジュ」と出会えて良かったと心から感謝しました。

そんな経緯で完成した楽曲が「アネモネ」です。

これを書くにあたって確認して気づいたのだけど、この曲も「アネモネ」のように、かしぶちさんの作詞作曲でありながらも白井良明さんが中心にアレンジして出来てるんだな。これも大好き。かしぶちさん、ご存命中にお会いしたかったなぁ、、、、

Francis “Bolero” は引き続き絶賛発売中です。

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