私はなぜ香港民主派を支持しないか

 2020年8月11日。いつもの私なら、ツイッターのタイムラインに来る、野党各党や政府批判のツイートの大半を、リツイートや「いいね」しまくっていたはずだった。しかし、この日は違った。なぜならば、タイムラインが、香港民主派のリーダー、スポークスマンとして日本で有名な、周庭氏の逮捕と、それに対する抗議で溢れていたからだ。

#FreeAgnes
#周庭氏の逮捕に抗議する

 こんなハッシュタグを見て、普通の日本の知識人であれば、「民主化を訴えただけなのに逮捕されるなんて、中国共産党はひどい!香港政府はひどい!」と怒りに震えるのかもしれない。しかし私は違った。

 少し考えてみてほしい。以下は、たとえであり、実際にそういう事が日本の地で起きている、という事ではない。あくまでも思考実験である。

 

202X年、沖縄で、日本からの独立を主張する政治運動が起きた。「日本政府は基地を沖縄に押し付け、沖縄県民を守ろうとしない。それならば、かつてこの地に琉球王国があったように、琉球国として日本から独立しよう!」という、琉球独立派の若者たちの主張である。

 ここまでは、日本国憲法でも「思想・信条の自由」が保障されているので、問題なしとしよう。はじめは、那覇市にある県庁の周りを、黄色い雨傘で覆いつくすなどのパフォーマンスで終わっていた。だが、琉球独立派と、失業中の若者や、日本各地から理想に共鳴した若者たちが合流し、それによって、どんどんパフォーマンスはエスカレートし、平和的な手段ではなく、モノレールや沖縄県庁、自衛隊や米軍基地施設、デパートや観光地で、殺人以外のありとあらゆる破壊行為を行うようになった。制止しようとする警官と至るところで衝突するようになった。彼らは証拠写真を撮られないように、黒いマスクで顔を覆っていた。

 衝突は激しさを増し、連日連夜、テレビは琉球独立派の若者たちと、警官との対立をこれでもか、とばかりに報道していた。沖縄のテレビや新聞は、若者たちの行動を称賛し、取り締まる警官たちを非難する報道に傾いていった。警官の警棒や催涙ガスに対抗するため、若者たちは高校や大学で習った化学知識を生かし、濃硫酸を警官にかけたり、小規模な爆弾を作って爆発させたりするなどして対抗した。逮捕者は増える一方で、沖縄本島で収容しきれず、九州や日本各地へ送られる若者もいた。

 琉球独立派の若者たちは、英語や中国語、韓国語の知識をフル活用し、アメリカや台湾、韓国、ヨーロッパ各国に、弁が立つスポークスマンを送りこみ、日本政府の非道を非難するよう訴え、沖縄の独立と、日本への経済制裁も合わせて訴えた。

 沖縄各地は、主力の観光がボロボロになっていった。いつ、どこで、琉球独立派が、独立デモという名目で、施設破壊テロを行うかわからない、という危険と隣り合わせだったからである。既に日本政府は、沖縄各地への渡航を自粛要請するほどになっていた。沖縄の知識人は2つに分かれ、特に左派の人は、どれだけ琉球独立派が破壊行為を繰り広げても擁護していた。一方、ごく普通の沖縄県民の7割程度は、琉球独立派によって経済的に脅かされていたので、迷惑に思っていたが、口に出すと琉球独立派の若者たちに襲撃されるかもしれないので、黙って耐えていた。経済活動は、独立派が黄色、独立反対派(警察支持派)は青色のラベルを店に掲げていた。

 ついに日本政府は我慢の限界を迎え、沖縄安全維持法を閣議決定、徹底的な琉球独立派の封じ込めが始まった。スポークスマンたちや、警官の非道をこれでもか、と書き、時には記事を捏造してまで報道していた新聞社の社長まで逮捕されていた。英語が堪能で美人なA・Cさんは、琉球独立派の女神と称され、アメリカのテレビ局で日本政府の非道さをある事ない事、時には誇張して伝えていたが、ついに逮捕されてしまった。その逮捕は、アメリカ各地で大きく報道され、ツイッターには「#FreeAC」というハッシュタグで溢れかえり、わざわざ日本語で「#ACの逮捕に抗議する」というハッシュタグまでもが、世界各国で広がった・・・


 さて、ここまで読んだ方は、このたとえ話で、琉球独立派と日本政府、どちらを支持するだろうか。「若者たちの情熱は素晴らしい。日本は琉球を独立させるべきだ!」と思う人がいてもおかしくはない。中国の文化大革命みたいに、「革命無罪!」を唱えて、「若者たちを解放しろ!」と、沖縄県警及び沖縄県、日本政府そのものを非難するかもしれない。

 しかし、それは安全な外野席から見た発言であり、実際そこに住む人にとっては、危険と隣り合わせで、迷惑この上ない、という感想が多いのではなかろうか。また、たとえ目的が「琉球国」独立のためとはいえ、やはり現行の法ではただの犯罪にすぎないから、日本の法に従って取り締まり、刑罰を与えよ、という感想をもつ方も多いはずである。私もその一人である。

 実はこのたとえ話、「琉球」を「香港」、「日本政府」を「中国政府」に変えるだけで、ほぼそのまま現在の香港の政治経済に当てはまる。

 このように、海外での話を日本に置き換えてみたら、日本の野党各党の政治家や、人権活動家たちが言う、香港民主派のリーダー的存在が逮捕されるのは不当逮捕だ、というのはお花畑発言でしかない。実は人権侵害でも弾圧でもなく、単に刑法違反であることが明確になる。

 「いや、相手は中国共産党ではないか。強大な武力と警察力をもつ彼らに対抗するには、人を殺さない程度に、ああいった破壊活動が必要だったのだ!」と思うかもしれない。しかし、「民主主義=善、共産党=悪」という無意識のフレーム、色眼鏡で物事を見ていないだろうか。

 仮に、今の自民党政権が腐敗と無能を極めているからといって、かつての連合赤軍や三島由紀夫の「盾の会」、あるいはオウム真理教のように、テロで政権を覆そうとする団体が出てきたら、読者の皆様、それでもテロ組織を支持するだろうか。たとえ目的は正しくとも、手段は暴力であり、少なくとも私は到底容認できない。それならば、中国共産党だって同じである。平和に暮らす権利がある。

 周庭氏は、日本語が堪能なので、日本のテレビ局でもよく取り上げられていた。だから彼女に同情的な人が多いのであろう。しかし、日本語ができるから無罪放免ではない。むしろ彼女の事を我々がどれだけ知っているであろうか。香港では、既に「裏の顔」も明らかにされている。

 そもそも、中国政府は、イギリス政府との条約を遵守し、少なくとも雨傘運動の時までは、忍耐強く香港政府の自治対応に任せていた。また、もっと言えば、元々香港には、一定の自由しかなかった。イギリス統治時代には、総督がいて、選挙で体制を選べなかった。返還後は、中国政府の庇護の元、一定程度の自治に甘んじていた。「自由な香港」すなわち、日本や米国のような政権交代ができる政治体制など、最初からなかった。それを、あたかもあるかのように言っていたら、それこそ詐欺である。ちょうど、イスラエルとパレスチナの問題で、元々「パレスチナ」という国があって、それをイスラエルが占領してパレスチナの人々が困っている、イスラエルという国はひどい!と思うのが幻想にすぎないように。(元々パレスチナという国は存在しない。)

 公共施設(特に地下鉄!)の破壊や、警察への攻撃があまりにも酷くなったので、やむなく中国政府が動くことになった、というのが実情である。同じことを日本でやって、もし警察が何もしないで手をこまねいていたら、むしろ警察の方を非難しないだろうか。

 仮に一歩引いて、中国政府、香港政府はひどい!ということにしても、我々日本国民が、中国国内の政治に何か言う権利があるのだろうか。それこそ内政干渉である。たとえば、北朝鮮の将軍様がその国内でどんなにひどい事をしていようとも、我々が口を出す権利など微塵もない。アメリカの憲法で保障されている、「銃で身を守る権利」という愚かなものも同様である。

 香港の現地メディアは、ほとんど民主派に牛耳られていて、民主派に都合が良い報道しか出さない。多くの一般市民の声は、なかなか海外まで届かない。日本での報道とは逆に、蘋果日報の社主が逮捕された事に安堵する市民も多いようである。相当、偏向報道が多かったらしい。

 香港では、警察官とその家族もひどい扱いを受けている。警察の宿舎にひどい暴言が落書きされたり、投石を受けたり、警察官の住所が勝手に公開されたり、その妻が勤めているところまで無断で公開されたり、しまいには、子どもが学校で差別的な待遇を受けているとのことである。日本でも、かつて、自衛隊員の子どもに対して、教師が差別的な扱いをしていたことが問題になっていたように。

 なぜここまで、日本で報道されている事と真逆な主張を私がするかと言うと、私には香港人の親族がいるからである。ある意味、香港は第3の故郷である。私は香港を愛している。だからこそ、せっかく与えられている権利を自ら放棄し、美しい香港を醜く汚し、自分で自分の首を絞めることになった、民主派の行動を許せない。実際、民主派のテロ活動に巻き込まれそうになった親族もいる。

 余談だが、香港人の意識には、中国本土の人々への優越感と見下す態度がある。だから、中国国民なのに、中国の国旗国歌への尊重ができない人が多い。

 私自身は広東語がほぼわからないので、現地メディアの引用をすることはできないが、少なくとも伝え聞くところによると、民主派の破壊活動は、一般市民の大多数にとって、迷惑でしかないようである。最近では、YouTubeで民主派の悪行を批判する動画もたくさん出るようになってきたようである。

 香港民主化デモには、アメリカからの資金が大量に流れ込んでいる、とも聞く。単純な民主化=正義という図式ではなく、もっとグローバルに、米中摩擦の最前線としての香港、という視点でみると、また違って見える。金融センターとしての香港をなんとしても没落させたい、というウォール街の意思が、民主化のバックということもありえる。

 遠くの民主化を云々するよりも、まずは、日本の無能な政権を何とかすることが、我々にできる真っ当な政治活動である。単純な、民主化=正義、共産党=悪といった、東西冷戦時代の見方をするのは最早時代錯誤である。

 

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