シャワーヘッドをあなたに

いつか大切な人に
高価なシャワーヘッドを送りたい。

それはわすれな草のように。

彼の生活に、居座るわたしのかけらを日常として、一部として、同化する。

それで、
いつになるかはわからないが、お風呂をいつも以上にピカピカにしようと決めた日。

ふと「シャワーヘッド」を見つめて、彼は思い出す。そういえば、これは「彼女」がくれたものだったなって、少しその場に立ち止まって、わたしとの記憶を思い出す。

ラブホテルのお風呂。2人の顔がかろうじて見えるくらいの暗闇。その空間を人工的なライトが照らしていて、あなたは、後ろから抱きしめたわたしの身体の感触、肌の質感、潤んだ目、熱も、声も、鮮明に思い出す。

その甘い記憶に浸る数秒の回想の夢から、ちくっと針のような無機質な痛みで、目を覚ます。

…少し熱くなった身体。あなたはムラムラして、何度見たか分からないお馴染みの動画で自慰をしてみるけど、いつも以上にすっきりはしない。
自慰した後の自分というものは、どうしてこんなにも滑稽なのだろうか。
心のもやもやを吐き出すようにため息をつき、天井を見上げた。少しホコリが溜まってきた蛍光灯カバー。そろそろ掃除しないとな。

君との思い出は、あの「優秀なシャワーヘッド」でもきれいに流すことはできそうにないなんて、くそみたいな寒い考えを思いつき、不意に笑いがこみ上げてきて、1人でぷっと吹き出した。

なんだか、お腹がすいてきた。
今日はいつもより頑張って、酒のあてでも作るか。
彼は重い腰を上げ、ふんっと一度大きく腕を広げ、動きだした。

日曜日の休日。

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