格差是正と経済成長

日本は長期にわたってデフレ不況である。すなわち、供給に対して需要が過少であるため継続的に物価が下落していく状況である。すると、買い控え・設備投資控えが生じる。買い控えとは現在の国民が貧困化することに他ならない。また、設備投資を縮小することで未来の国民が貧困化する。このような状況を20年以上にわたって続けている国は日本くらいのものであり、日本の経済成長は世界最低水準である。

処方箋は簡単で、財政出動をして公需を増やすことである。明らかに必要な公共事業(防災対策・老朽インフラの更新など)が山積みであるし、公務員が足りていないわけだから雇えば良い。とにかく使い道がなんであれ政府が財政を拡大することでデフレ脱却が達成される。それこそ穴を掘って埋め直すだけの公共投資でさえ、デフレ下ではやらないよりましなのである。デフレ脱却を達成すれば、日本も世界のほとんどの国と同じように年に数%の経済成長を再開していくことができるはずで、国力のこれ以上の衰退を食い止めることができるだろう。財政赤字が増えすぎると財政が破綻すると嘘を流布してきた財務省をはじめとした一部の連中が国を衰退に追い込んできたことに対しては怒りが尽きることはないし特に財務省の歳出削減は国家の破壊であると考える。しかしこの話題は議論としてはさしたる面白みはなく、三橋貴明さんがいうように単なるプロパガンダ合戦であるので、必要以上に拘ることはせずに次の話題に進みたい。

仮に政府が緊縮をやめてめでたくデフレ脱却が達成されたとしよう。デフレ脱却を果たせば万事良くなっていくと言っている藤井聡さんみたいな人もいるが、私はそこまでことは簡単だとは思わない。最大の問題である安全保障を今回は取り上げるつもりはないが、それを抜きにして経済面の問題に絞ったとしても問題は山積みである。それはアメリカやヨーロッパの状況を見ると非常によく理解できる。国としては経済成長をしているものの、国内情勢はよくない。その根本にある問題が格差である。

格差の原因論に入る前に、簡単に格差の弊害を述べたい。まず初めに、格差が開きすぎて貧困層が生じているような社会は決して豊かな社会とは言えない。富を分配すればもっと貧困層は幸せになれるはずであるから、国民の幸福の観点から問題である。このことは日本においては特に少子化を考える上で重要である。次に、格差があまりに開くと社会全体として統合を失ってしまう。映画「ジョーカー」で描写されたのは貧困層が富裕層のエリートに対して反乱を起こす様である。庶民とエリートが分断されれば、統治機能自体に危機が起きかねない。エリートである政治家や官僚が庶民から分断され価値判断を共有できなくなれば、民主主義は成り立たなくなる。最後に、格差は経済成長につきものだという書き方がよくされるが、実は経済成長へも悪影響である。普通の百倍の所得を得たからと言って普通の人の百倍消費をするのは不可能であるので、格差には消費抑制効果がある。また、格差により教育段階で差がつけられるとフェアな競争がある社会ではなくなってしまう。さらに当然社会の安定がなくては経済成長は難しい。以上を鑑みると格差を是正することは明らかに重要である。

ではなぜ格差は開いてしまったのか。急に共産党みたいなことを言って恐縮だが、近年の先進国では大企業と資本家が労働者に分配されていた富を搾取しやすいように社会の仕組みが変えられてきた歴史がある。我が国で最も象徴的なのは竹中平蔵のパソナと非正規雇用の拡大だろう。企業が目先のコスト削減のために安い使い捨ての労働力を自由に使えるようにしたということである。不安定な将来と低い収入に悩まされている非正規雇用者は今では全体の4割にもなるという。この上でもっと安くで働かせる労働力が欲しいと言って移民を入れるのだからどうしようもない。さらに、正規雇用の労働者の所得も減少している。原因は主に二つ: 1. 税金  2. 株主資本主義 である。まず税金については言うまでもなく社会保険料と所得税の負担である(これは正規雇用の労働者の所得減少だけでなく、非正規雇用の増加の原因ともなっている)。この負担は非常に重い。次に株主資本主義について。利益が向上しても、配当や株主への還元が行われて労働者の賃上げに結びつかない構造がある。これは労働者の所得を資本家に移動する最も直接的な仕組みであって、もっと問題視されてしかるべきだと思う。このように資本家に移動する富にかかる税金も法外に安い。株式の取引では年にいくら儲けたとしても利益に20%しか課税されない。これは一般的な労働者の手元に残る手取りが額面の75%~80%と言われるのと比べれば異常な低水準であると言える。また、日本においては消費税が所得税減税と法人税減税の穴埋めとして使われてきたことは紛れもない事実である。所得税の累進課税を弱めたことは明らかに格差是正と逆行する。消費税は庶民の暮らしを苦しくする逆進性があることはよく知られているし、消費税は正規雇用の賃金で控除はされないが非正規雇用の費用の分差っ引いて課税される。これに対し法人税は企業の利益に対して平等に課税される。したがって消費税を強めることは非正規雇用を推進することだと言える。

格差対策は上に述べた原因を裏返せば良い。すなわち、「労働規制の強化」「移民受け入れ停止」「社会保険料を減らす」「金融所得課税の強化」「消費税減税」「所得税の累進強化」「法人税増税」などなど。さらに言えば、デフレ脱却・インフレーション自体が格差対策になりうる。インフレーションによって基本的には資産家の資産の実質価値は目減りするはずだからである。繰り返して言うが、社会の安定なくして成長はない。岸田文雄が言った「株主資本主義の是正」「新自由主義からの脱却」は(本人が十分理解できてるかは置いといて)非常に重要な政策課題なのである。


p.s. 金融所得課税を嫌がるサラリーマン投資家たちへ

君たちがいくら頑張っても、資本家には勝てません。持っている金が多ければどんなアホでも莫大な利益が出る、それが投資というものです。配当金というのは皆さん労働者の賃金を削って、その分を資本家に与える仕組みです。労働者の得ることができるキャピタルゲインなんて雀の涙みたいなもんですから、キャピタルゲインへの課税を強化することは実質的には資本家に対する増税であって労働者の負担は大きくありません。むしろ、政府がしっかりと支出を行うならば増税分は平等に公共サービスとして分配されるわけですから、労働者は利益を得ることになります。目先のしょぼい金を追いかけて金融所得課税の強化に反対するのは目の前にぶら下げられた人参を追いかけ続ける馬みたいに間抜けな態度だってことを認識した方が良いです。


p.p.s. ちゃんと読めばわかるので必要ない注ですけど、NISAの制度とかを無くせって言ってるわけではありません。資本家のえぐいキャピタルゲインに課税せよっていう話なのでね。

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