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税制が改正されても、”区別”は続く

配偶者に対する扱い

ライフスタイルの多様化を反映し、日本でも、結婚せずに同居生活を営む”事実婚”が珍しいことではなくなりました。しかし、”内縁の妻”の場合にはパートナーが亡くなっても法定相続人にはなれないなど、法律上では、婚姻関係にある場合と、いわゆる「パートナー」には大きな扱いの差が存在します。

配偶者と税金

税金における配偶者は民法上の婚姻関係があること

所得税の配偶者控除

 配偶者に所得があっても、配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であれば配偶者控除が受けられます。

 ここでいう配偶者とは以下の要件があります。

  • 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。

  • 納税者と生計を一にしていること。

 所得税には、ほかにも以下のように、民法上の夫婦であることを要件とするルールがあります。

  • 寡婦控除;死別や離別した夫婦に適用

  • 配偶者特別控除;配偶者の収入(所得)が”配偶者控除の要件”より多額の時

贈与税の配偶者控除

 婚姻期間20年以上の夫婦間に認められている贈与税の優遇制度です。「居住用不動産(マイホーム)現物」か「居住用不動産を買うための現金」を夫婦間で贈与する場合は、2,000万円までは贈与税がかからない制度です。

 一生のうちで最も高い買い物と言えるマイホームの購入には、夫婦の協力は不可欠だからという解釈でしょう。仮にマイホームの名義が夫(または妻)であっても、妻(または夫)も資産の形成に貢献しているとの考えです。

贈与税の配偶者控除は”居住用の不動産”関連のみ適用されます

 贈与税の配偶者控除は、夫婦の婚姻期間(法律上の婚姻)が20年を過ぎていることが要件の一つです。ちなみに、CFP®試験では「贈与税の配偶者控除」に関する出題が毎回のようにあります。覚えておいたほうが良い事例ですね。

相続税における配偶者の税額軽減

「配偶者であれば相続税が軽減される」と聞いたことがあると思います。夫婦間であれば税額が軽減される特例です。

 配偶者の税額の軽減は、被相続人の配偶者(民法上の婚姻関係がある者)が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次(1)(2)の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからない制度です。
(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額

 1億6,000万円までの遺産について軽減されるのではなく1億6,000万円を超える額の遺産を相続した場合でも、配偶者の法定相続分(通常は1/2)までは軽減されます。配偶者には、やはり多額の優遇措置があるわけですね。

相続税における配偶者の税額軽減」に関しても、CFP🄬試験での出題が多くあります。

社会保険における配偶者

社会保険では”事実婚”であっても、同居や生計を重視

 税金では婚姻関係にある配偶者が要件でしたが、年金や健康保険などの、いわゆる社会保険では内縁であっても配偶者とされることが通例です。

健康保険の場合(扶養親族)

 健康保険では、扶養親族という考え方があります。被保険者(世帯主)が扶養している親族については、特段、保険料を支払わなくても保険の適用対象となる仕組みです。

 健康保険での扶養親族の範囲は、主に以下の通りです。

  • 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(同居は要件ではない)

  • 被保険者と同一の世帯(同居)で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
    ・被保険者の三親等以内の親族
    ・被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
    ・上記配偶者が亡くなった後における父母および子(後期高齢者医療制度の被保険者等である人は除く)

公的年金の場合

 厚生年金保険法では、以下のように定義されています。

「配偶者、夫および妻には婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。」

 このように、健康保険や厚生年金保険では、配偶者の実態を重視し、事実婚の相手でも、それに含めます
 ※健康保険、厚生年金保険とは、サラリーマンなどが加入する制度で、自営業者などが加入する国民健康保険には、扶養家族の概念がありません。

生命保険での”受取人”

民間の保険は、受取人になれる傾向

 生命保険契約では、内縁関係などの”民法上の婚姻関係がない”場合でも、受取人になれるようになりつつあります。もし受取人になれないようであれば、養子縁組をしたり、遺言を残す方法のほか、同居・生計一・その期間などを考慮して受取人になれるケースがあります。

 ただし、保険金を受け取って相続税の課税対象になる場合に配偶者の税額軽減の特例を受けることはできません

 損害保険に関しても、生命保険と同じ傾向が見られます。

"婚姻関係にない=他人”との解釈が主流

 内縁関係のほか、LGBTのパートナーシップについても、自治体によって多種メリットがあるとは言え、税金においては法的なメリットを受けることができません。一方の社会保険や、一般の生命保険・損害保険では、認められる要件が緩和されるつつあります。

 パートナーシップは、”多様性”の観点から認められつつありますが、依然として租税を中心として、依然”他人”との解釈が主流です。政府・自治体が本気で、”多様性”を容認する社会の実現には、まだ時間がかかりそうです。

 国会での議論で、こうした議論がほとんど行われていないことに、違和感を憶えます。

多様性・権利・主張・・・票田狙いかもね

 べつに、理想や正義を語るつもりはありません。権利や主張を認めよう!と言っているわりに、税制を中心に議論が進まないことが不思議でなりません。これでは、票田狙いと言われても仕方ありません


 あらためて「税と社会保障における男女差」についても考えてみたいと思います。ここまで読んでくださってありがとうございました。

YouTube「平等と公平」も、ぜひご覧ください。


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