辛辣脳内会議とエエヤン菩薩

2017年の秋。目眩と吐き気、食欲不振、睡眠障害、慢性的な焦燥感と不安感、それに伴って自分自身の不甲斐なさに涙が出て止まらなくなって、精神科を受診して「鬱」ですねと診断された。
私がですか。仕事上ちょっと生活が不規則で、毎日残業がある程度のことで、頭の中がうるさいだけで、鬱になんかなるんですか。

もう7年経つ。夕食後に抗うつ剤を2錠、寝る前に睡眠導入剤を1錠。
いつか良くなって薬なんかいらなくなると思っていたけど
今でも毎月病院へ行って一ヶ月分薬をもらってくる。
薬を飲んでいれば、めまいはおこらないし、涙が止まらなくなることもない。薬のおかげで夜も寝ることができる。

でも、日常生活・仕事をしていればどうしてもストレスが積み重なって体調に支障をきたすことがある。逆流性食道炎。過敏性腸症候群。からの食欲不振、口内炎、ニキビ、蕁麻疹、エトセトラ。胃腸がもろに影響を受ける。そして胃腸の不調でストレス追加されて悪化していく負のスパイラル。

どうしてこうもメンタルが軟弱なのか。自分でも嫌になる。
7年も鬱と付き合ってるとわかる。考えすぎが原因。
わかってる。でも、どうやって受け止めすぎずに受け流せるのかがわからない。気持ちとしては「そんなこと考えなくていい」とわかっているし意識を逸らそうとするけど、頭の中はずっとうるさいままでまとわりついてくる。

頭の中でずっと言葉がダラダラ流れているのはみんな標準装備だと思っていたが、ネット情報によるとなんだかそうでもないらしい。

ちょっと強めの口調で不平不満をぶつけられると焦燥感と不安感で吐き気がしたり、頭の中がより一層うるさくなって数日引きずってしまうのも、心の処理がうまくいっていないってことらしい。

あと、現実が嫌になったときに空想にふけって、自分で作り上げた空想に感情移入しすぎて泣いたりすることも少数派らしい。

ネットの記事になるぐらいだから一定の人数はいるのだろうけど。
そして、だいたいこういう症状で調べると出てくるワードは


統合失調症
ADHD
HSP

こんなところである。
鬱に関しては診断済みだからまぁわかる。そのほかは断定するには時期尚早というか、だとしてもだいぶ軽度というか。だって自分より厳しい環境に身を置いている人なんて山ほどいるし、不調の症状がもっと重い人だっているし。自分のあれこれなんてたいしたことないでしょ。

正直言って、自分が「それ」であると認めたくない気持ちが強い。
それをお飾りにして、あるいは免罪符にして、誰かに助けてもらうのを待って居たくない。配慮してくれと自分の欠けた部分を相手に押し付けて負担させるような人間が一番嫌い。大嫌い。
だから自分の力でなんとかしたいし、周りに迷惑なんかかけたくない。
「祟り神になんか、なりたくない!」というサンの気持ち、すっごいわかる。ほんとそれな。

でも、どうなの。
朝起きた瞬間から、頭の中がムズムズして、体の内側に生えたカビがどんどん肺や食道を侵食していくようなゾワゾワ感、吐き気。目から入ってくる情報が全て煩わしい。家の外を走る車の音から冷蔵庫のブーーンという音、耳を塞いだら手から自分の血流の音がゴーッと聞こえてくる。うるさい。

髪をかきむしっても、頬をビンタしても頭を机にぶつけても治らない。吐き気がする。じゃあいっそ吐いてしまえばいいじゃない。トイレにいっても胃からはなにも出てこない。どうしたらいいの。
結局目を閉じて体育座りで膝の間に頭をはさんで頭の中の声を消すことに集中してみるけど、こういう時の脳内会議は辛辣。
「またなの?何回目?また会社休むの?何回目?」
「お前だけが辛いと思うな?」
「会社の人はみんなお前より忙しいし大変なんだぞ?」
「っていうか会社行ってもお前たいして仕事ないじゃん何をそんなに嫌がっているの。ただのわがままじゃん」
「鬱逃げですか、いいですねぇ免罪符」
「仕事ないならなんで出勤するの?」
「吐いて熱出て、とかどこかからおびただしい出血があって、とかならわかるけど今お前気持ち的に行きたくないだけじゃん。」
「なんのために生きてるの?」
「時間通りに出勤してデスク座ってるだけで給料でるのにそれすらできないのはなんなの?」
「いっそ机の角に頭でもぶつけて出血すれば許される?」
「かまってちゃん乙」
「会社に欠勤の連絡する方がめんどくさくない?」

そうこうしているうちに出勤時間に間に合う電車の時間は通り過ぎ、
今度はスマホのそばで項垂れる。
「出勤時間までに上長に連絡しなきゃならなくなったね」
「なんて言うの?欠勤理由なに?出勤ダルいとか言うの?」
「体調不良って言っときゃいいだろ」
「『わかったよ、お大事にね(またかよ)』が透けて見えますなぁ」
「死にたくはないけど生きてたい理由もないよな」
「それな」
「ハズレの派遣引いちまったと思わせとけばいいやん」
「重めの仕事振られなくてすむぞ」
「お前頑張ってるつもりかもしれんけどアレぐらい普通だからな?」
「思い上がるな?」
「数年後、仕事なくなって詰むんだからな」


こうなった場合はどうすればいいの。
みんなどうしてるの。
どうやって社会人としてやっていけばいいの。たすけて。

あ、そうだ。抗うつ剤と眠剤のほかに、頓服剤ももらってたんだった。
こういうときに飲むものなのでは。

頓服を飲んでしばらく経つと、
頭の中のネチネチ、グズグズの声が弱まった。
これまで身を潜めていた「ベツニエエヤン菩薩」が現れる。

「ちゃんとしてなくてもエエヤン」

「先週がんばってたからエエヤン」

「あとでポテチ買いに行こな」

結局、頭の中の声がなくなることはないのだけど、
チクチク言葉は弱くなり、ゆるめの言葉が流れるようになる。

そうか、メンタル強い人の頭の中ってこんな感じなのかな。
いいなぁ。おだやかで。

薬を飲んで良くなるなら飲んだ方がいい。
束の間の平穏でも、気持ちが晴れるならそれでいい。
落ち着かないよりだいぶマシ。

わたしが思っているよりもっと、
みんなボーッと生きてるはず。
相手のことなんか考えもしないで。
心の中に、ベツニエエヤン菩薩が常駐してくれてるんだろうな。
私の中にも常駐してて欲しいな。
勝手にどこかへ行かないで欲しい。

鬱克服漫画によく出てくる
「理解ある彼/彼女(または配偶者)」なんかおらんしな。
そもそも自分の脳内にこんなに飼育困難なメンヘラがいるのに
自分以外の面倒は見れないと言うか、
大事にしたい人ほどそばにいてほしくないと言うか。
だからせめて心の中のベツニエエヤン菩薩だけはいて欲しい。

なんてことを考えていたらもうお昼だ。
頓服飲んで時間経ってきてるから、心の菩薩も消えかかってきている。
完全に消えてしまう前に、せめて昼ごはん食べよう。

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