見出し画像

大麻の効能:カンナビス編 アントラージュ効果

こんにちは!

本日はカンナビスの効能【カンナビス編】ということで、カンナビスの「アントラージュ効果(Entourage effect、アントラージュ・エフェクト)」について解説致します。このアントラージュ効果は前回ご紹介させていただいたエンド・カンナビノイド・システムとともにカンナビスの効能を語る上で欠かせない要素になります。

本稿を読まれる前に予備知識として「【基礎編】 — アメリカの大麻業界を理解する上で欠かせない5つのキーワード」と「大麻の効能 【人体編】 エンド・カンナビノイド・システム」に目を通しておくことをおすすめ致します。

*本ノートは日本語で詳細なカンナビスの情報を少しでも多くの方にお届けしたいがために、無料で掲載しております。少しでも「チップ」という形でご支援頂けるのであれば本ノートを続けるモチベーションにも繋がりますので、サポートが可能な方は是非よろしくお願い致します。

アントラージュ効果とは

まずこのノートを読んで頂いている方やカンナビスに精通している方は、THCが大麻に含まれる唯一の陶酔作用を起こすカンナビノイド(カンナビス由来の化学物質)であることを既にご存知かと思います。それであれば、THCを除いだものだけを医療用等に活用すればいいのでは、考えられる方も中にはいるかと思います。確かにTHCを完全に除いたCBD(もう一方の代表的なカンナビノイド)の製品はあり、それらが小児てんかんや様々な健康上のメリットがあることは色んな研究結果で明確になっています。実際に、イギリスのGW Pharmaceuticals(GW製薬)が開発したCBDが主成分である「Epidiolex(エビディオレックス)」は2018年6月にFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、医者が処方できる薬になった程です。

【参照:GW PharmaceuticalsWebmd

画像1

FDAが承認したCBDを主成分とするEpidiolex(GW Pharmaceuticalsより)

アメリカの一部の州はTHCの含有量が限定的でCBDを主成分とした医療大麻の合法化をしていますが、その他多くの州ではTHCの含有量の制限を特に設けず医療大麻を合法化しています。その理由にはTHCにも医療効果があることはもちろんの事、この「アントラージュ効果」と呼ばれるカンナビスの相乗効果が影響しています。アメリカの各州の医療大麻のアプローチを分かりやすく示した図がNational Conference of State Legislatureのサイトにがありますのでご紹介致します。(2019年4月29日時点)

画像2

濃緑色=嗜好用・医療用の合法
=医療用の合法
黄緑=CBDの合法・THCが限定的な大麻の合法
黄色=大人の使用に限定(北マリアナ諸島)
灰色=違法もしくは非犯罪化

カンナビスは本来、植物由来の薬です。カンナビスに含まれる様々なカンナビノイドテルペン(植物や昆虫、菌類などによって作り出される生体物質)、フラボノイド(ポリフェノールの一種で天然に存在する有機化合物群の植物色素)、などの成分がそれぞれ相乗効果を生み出し、カンナビスの効能を高めます。業界で良く例えられるのが、一つ一つのカンナビノイドやテルペンなどが「独奏者」で、それぞれが集合体として合わさって始めて様々な病気や治療に役立つ「音楽」を奏でられることです。1+1の効果が2ではなく、それ以上の4や6にすることを可能にするのがアントラージュ効果です。これは1つの成分を抽出して摂取する時より、多くの成分が含まれた状態で摂取する時の方がより大きな効果を得られるということです。

画像3

カンナビノイドやテルペンなどの「独奏者」が集まり相乗効果を生み出す(UC Mercedより)

このアントラージュ効果を詳しく説明するには欠かせない人物を2人、ご紹介します。

アントラージュ効果を発見したイスラエルの研究チーム

1人目は前稿でもご紹介した、THCとCBDを世界で初めて分離することに成功したイスラエルのミシューラム博士です。ミシューラム博士は半世紀以上に渡りカンナビスの研究を重ね、「カンナビス研究の父」と呼ばれている存在です。
ミシューラム博士が住居を構えるイスラエルやイタリアからの国際的な研究チームが1998年に世界で初めてカンナビスの「アントラージュ効果」についての論文を発表しました。

【ミシューラム博士らの論文:An entourage effect: inactive endogenous fatty acid glycerol esters enhance 2-arachidonoyl-glycerol cannabinoid activity

この論文では、カンナビスの効能においてこれまであまり関係が無いと思われていた「不活性」な成分などが内因性カンナビノイド(エンド・カンナビノイド)であるAnandamide(アナンダミド)と2-AGを著しく活性化させる相乗効果を生み出すということを世界で初めて明らかにし、それを「アントラージュ効果」と名付けています。

尚、ミシューラム博士らは、世界で初めてTHCを始めとする様々なカンナビノイド(CBDなど)の分離に成功し、カンナビノイドの受容体であるCB-1やCB-2を発見し、「体内に生産されるカンナビノイド」ことエンド・カンナビノイドであるAnandamideや2-AGを発見し、生物の根幹の生態系システムであるエンド・カンナビノイド・システムの発見に貢献し、さらに1998年にアントラージュ効果を発見しました。カンナビス業界の発展においてミシューラム博士らを始めとするイスラエルの研究チームは現在のカンナビス研究の礎を築き上げました。

【参照:Cannabis Business TimesEthan Budd RussoPÁL PACHER, SÁNDOR BÁTKAI, and GEORGE KUNOSSanjay Gupta

画像4

「カンナビス研究の父」と呼ばれるラファエル・ミシューラム博士(The Leaf News より)

アントラージュ効果の研究をさらに進めたEthan Budd Russo博士

次にご紹介するのがミシューラム博士らの研究をさらに進めた、Ethan Budd Russo博士です。2011年に発表した彼の論文によって「アントラージュ効果」という言葉が世界的にさらに認知されるようになりました。Russo博士はカンナビノイドとテルペンの相互作用を調べ、痛み、炎症、鬱病、不安、中毒、てんかん、癌、や細菌感染症を治療するための相乗効果を研究しました。その結果、テルペンがカンナビノイドの効能に対して相乗効果があることを発表しています。下記に論文の一部を引用致します。

【原文】
“Terpenoids are quite potent, and affect animal and even human behaviour when inhaled from ambient air at serum levels in the single digits ng·mL−1. They display unique therapeutic effects that may contribute meaningfully to the entourage effects of cannabis-based medicinal extracts. Particular focus will be placed on phytocannabinoid-terpenoid interactions that could produce synergy with respect to treatment of pain, inflammation, depression, anxiety, addiction, epilepsy, cancer, fungal and bacterial infections (including methicillin-resistant Staphylococcus aureus). Scientific evidence is presented for non-cannabinoid plant components as putative antidotes to intoxicating effects of THC that could increase its therapeutic index.”

【和訳】
「テルペノイドは非常に強力であり、一桁のng / mL -1の血清レベルで周囲の空気から吸入されると、動物の、さらには人間の行動にさえ影響を及ぼします。それらは、大麻草の薬用抽出物の効果を引き出すことに有効に貢献するかもしれないユニークな治療効果を示します。この研究は疼痛、炎症、鬱病、不安、嗜癖、てんかん、癌、真菌および細菌感染症(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む)の治療に関して相乗効果を生み出す可能性のある植物性カンナビノイドとテルペノイドの相互作用に特に焦点を当てている」

【参照:Ethan B Russo. Taming THC: Potential Cannabis Synergy and Phytocannabinoid-Terpenoid Entourage EffectsProject CBD

画像5

テルペンなどの成分がアントラージュ効果に貢献していることを発見したEthan Budd Russo博士(Forbesより)

なぜアントラージュ効果は重要か

アントラージュ効果の具体的な例としては、CBDはTHCがCB1(体内にあるカンナビノイドの受容体)と結合しにくくさせる効果があります。一見、これによりTHCの効能(痛みの緩和、高揚など)が弱まってしまうかと思われますが、CBDとTHCを合わせて摂取することによって、THCにおける効能の高まりを緩やかにし、ピークを抑えることで継続的な効果を得られるようになります。医療の現場においてこの効果は大変重要なことです。THCの効果は通常、2時間程で収まってしまうため、数時間毎にカンナビスを摂取する必要があったのが、CBDと合わさったアントラージュ効果を利用することで、一日に2, 3回摂取することで十分になり、尚、効能がとても緩やかで安定的になります。カンナビスには500以上の成分が発見されており、その配合バランスの組み合わせは理論上無限にありますので、これからさらなる研究が進められるかと思います。THCとCBDがCB1に対してどのような作用をもたらすか分かりやすくした図をAnalytical Cannabisのサイトにありましたのでご紹介致します。

画像6

【参照:Ethan Budd Russo. Project CBDCannabis, cannabinoids, and healthDissociable effects of cannabis with and without cannabidiol on the human brain’s resting-state functional connectivity

また、カンナビスと分離されたカンナビノイドの医療用の効能を検証する世界最大の調査(31カ国、953名が対象)が2013年に発表されました。これはTHCだけを分離した合成THC医薬品であるMarinol (Dronabinol) やCesamet (Nabilone)と、カンナビスの植物そのものを(吸引、抽出などにより)摂取した時の効果を比較したものです。この調査によると、カンナビスの植物そのものを摂取する方が好ましい・望ましいと答えた人は全体の98.2%でした。しかし、この調査では、合成THC医薬品をそもそも使用しなかった治験者も多くいたので、これからさらに研究が進められると思います。

【参照:The medicinal use of cannabis and cannabinoids--an international cross-sectional survey on administration formsLeafly

Emerald Cupで語られたカンナビスの未来

私は昨年12月に開催された北カリフォルニア最大のカンナビスイベントであるサンタローザ市の「Emerald Cup」に仕事で参加してきました。「Analytical Breeding Programs(分析育種プログラム)」のトークイベントでは、カンナビスのラボテストや研究開発を行うSteep Hillの会長をはじめとする壇上者により、アントラージュ効果に焦点を当てた今後のカンナビスの育種のヒントが語られていました。

カンナビスは長年、嗜好利用の目的が中心であったため、長年のCrossbreeding(交配)活動によって以前と比べ、偏ってTHCの含有量が多くなり、CBDの含有量が減ってしまいました。Reggie Gaudino博士はこれについて「Chase for THC may not be getting us where we really want to go」(品種改良でTHCの含有量を増やしていくことは自分たちが目指すところではないかもしれない)と言っており、昔のカンナビスは例え4~8%という少ないTHC含有量の場合でも、カンナビノイドやテルペンが豊富に含まれていることで、バランスの取れたアントラージュ効果によって現代のようなTHC含有量の多いカンナビスと匹敵するほどのハイを感じる事が可能であったと証言していました。

【参照:Changes in Cannabis Potency over the Last Two Decades (1995-2014) - Analysis of Current Data in the United States

画像7

Steep Hillの会長であるReggie Gaudino博士(Canna Techより)

今後はアントラージュ効果に焦点を当てた、様々なカンナビノイドを含んだバランスの取れたカンナビスのCrossbreedingの研究が進んでいくと思います。

Emerald CupのAnalytical Breeding Programsのトークイベント(英語)

画像8

Emerald Cup 2日目のAnalytical Breeding Programの登壇者(筆者撮影)

画像9

Emerald Cupの授賞式の様子(筆者撮影)

前稿でも述べた、人それぞれ異なる「エンド・カンナビノイド・システム」とカンナビスの配合バランスを文字通り無限の組み合わせで行える「アントラージュ効果」を鑑みると、カンナビスの効能の奥深さをお分かり頂けたかと思います。

本日はカンナビスの効能の【カンナビス編】をご紹介しました。

また次回のノートをお楽しみに!

気に入ってくださった方は、↓から「サポートをする」、「フォロー」してください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?