【ネタバレ】主人公一家をにまつわる、「GOAT」の呪いとは…? ー『ウィッチ/The VVitch』(2015)の考察。ー


*ネタバレあり。

*現在、都合により下記動画は非公開となっております。(2021年7月11日追記)

*映画本編とYouTube動画、『【ネタバレ】【朗読・映画フル解説】赤子をすり潰す残酷な魔女に魅入られた家族の物語。『ウィッチ』【Netflixおすすめホラー映画】』をご視聴いただいてから本記事をお読みになることを推奨します

本記事の内容は上記動画内容と重複する点が複数存在します。あらかじめご了承ください。

導入。

つむぎん

つむぎ
「みなさん!こんにちは!白魔つむぎです!今回から、映画を通じてこの人間界について学んでいきたいと思います!

…とはいうものの。ちょっとあんたらが持ってきた映画、さっぱりチンプンカンプンだわ…」

野崎くん
「僕が持って行った『ティアーズ・オブ・ザ・サン』はどうだった。」

つむぎ
「なんであれを持ってきたのよ!

…ああ、思い出した…、胸が

もう、この人間界が怖くてたまらなくなったわよ!」

野崎くん
「フィクションでありながらも、この世界の残酷さを描いている…」

72
「僕が持って行った『マネー・ショート 華麗なる大逆転』はいかがでしたか?」

つむぎ
「にっちもさっちもだよ!人語翻訳機を通しても何を言ってるのか全く分からなかったわ…雰囲気でなんとなくスカッとしたけど…
ていうか!あれを見せて私にどうさせたいわけ!?」

72
「いや、経済とか、ホラ」

つむぎ
「アンタらの持ってくる映画は極端すぎる!
…まあ、その中でもいくらか理解できたのは『ウィッチ』ね」

画像2

野崎くん
「親近感が湧くいたの。」

つむぎ
「いや、あんなにおどろおどろしい魔術は専門外だけど、
人間界と魔法界の繋がりに興味を持てたかな」

72
「ちょっと振り返ってみましょうか!」


概要。

野崎くん
「『ウィッチ(The VVitch : A New-England folktale)』は2015年公開。
ロバート・エガース監督。A24配給。」

72
「私と野崎くんは義務教育をA24の映画で終えてますからね!」

つむぎ
「なるほど、人間界では教育も映画で済むのね!画期的!」

72
「冗談を言ったんですよ」

つむぎ
「私も、冗談を言ったのよ?」

一同
「…。」

野崎くん
「映画の舞台は新大陸開拓時代の1630年。まだまだ『アメリカ』っぽさはない、木々の生い茂る北東部、ニューイングランド。」

72
「アメリカってそういうイギリスから持ってきた地名、結構今も残ってますよね。ニューヨークとか、ニューハンプシャーとか、ニュージャージーとか」

つむぎ
「新横浜もその類?」

72
「新横浜は横浜だしなぁ…まあ、『横浜村』から離れてるし、間違っちゃないのかもしれませんが、今は無関係です!」

野崎くん
「本作の光や陰影の使い方は、奇しくもこの前後の年代、活躍していた画家レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レインの絵画作品を彷彿とさせる。」

72
「レンブラントってファーストネームだったんですね。村上春樹を『春樹の新作面白かった!』っていう感じで馴れ馴れしいですね。」

つむぎ
「アンタ、芸術に詳しいのね」

野崎くん
「もうそんな感性も、心も、なくなってしまったけどね」

一同
「…。」

野崎くん
「ニューイングランド地域に移住したのは、イギリスから逃れてきた清教徒
通称ピルグリム・ファーザーズだった。」

72
「清教徒はピューリタン(Puritan)とも呼ばれますね。語源はピュア(Pure)で、教会権力や王権との繋がりが強かったイギリス国教会と訣別し、純粋に神と聖典への信仰を求めたプロテスタントだったわけです」

つむぎ
「プロテスタントって、聞いたことある。あれ、でも
イギリス国教会もプロテスタントって聞いたけど?」

72
「そこぉ、ややこしいんですよね。
ローマ教会にプロテスト(抗議)してイギリス国教会が成立し、
そのイギリス国教会にプロテスト(抗議)したのがピューリタンなわけです。
まあ、プロテスタントと一口に言っても、かなり宗派や分派がありますから、
ローマ・カトリック、東方正教会、そのほか原始キリスト教以外…
…って括りでひとまずの解釈としては良いのかなって。」

つむぎ
「ちょっと待って!『清教』と『正教』があるの!?」

72
「そこも日本語の罠なんですよね。
これ以上続けると世界史チャンネルになっちゃうので、この辺にしときますが」


魔女という存在について。

72
「ピュアって話ありましたけど、街を壁で囲って森を怖がっているあたり、ある意味ピュアな人たちですよね!」

野崎くん
「というより、単に野生動物や先住民が現実的な脅威としてそこにいたんだと思う。」

72
「それもあるでしょうが、森の中の魔女を怖がっているというのはちょっとピュアみありますよね」

野崎くん
「だからそれも、あの時代、または映画の中では魔女が実在していて、それが現実的な恐怖であったに過ぎない。まして、開拓地という過酷な環境では警戒心が強くて当然。」

72
「そっか、そもそも、私たちだって魔女が存在する世界に生きていますよね」

つむぎ
「アハハ!」

72
「けどまあ、あの魔女はそもそもはなんなんでしょうかね?
アメリカ先住民や現地の信仰なのか、それともヨーロッパ的信仰が作り出した怪異だったのか…」

つむぎ
「そういえば、映画に登場する魔女は確認できる限り
主人公含めて白人だったね」

野崎くん
「白人女性が多かった理由はなんともいえないけど、
欧州人が持ち込んだ価値観でもって、先住民の文化や野生動物・災害や疫病などの自然の脅威を目の当たりにして生み出した、脅威の具現化かもしれない。」

72
「そういった危機を単なる不運や恣意的なものの連続としてではなく、
悪魔・魔女という存在を作り上げ責任を押し付けた訳ですね。そして映画の中ではそれが具現化している…
ある意味、生きていく上の知恵というか、思考資源の節約というか。
つまり魔女はそう言ったことのスケープゴー


…ん!?


トマシンは家族から非難されていました。両親から責任を追求され、魔女と疑われ…一方で、弟のケイレブや双子のマーシー・ジョナスはお咎めなし。
つまり、トマシンはスケープゴートにされていた訳ですよ!
そして、そんなトマシンを誘惑して魔女の世界へ導いたのも黒ヤギ、ゴート(goat)な訳です!

…何かが繋がった気がします!」

野崎くん
「気づいちゃったね。」

つむぎ
「何やら盛り上がっているわね」


映画の中の動物について。

72
「これは面白くなってきましたよ!この映画の重要なキーって、動物であると思うんですよ!」

つむぎ
「確かに、この映画にはたくさん動物が登場するね」

72
「ちょっと挙げていきますか。

、忠誠心の象徴ですね。主人公一家に飼われているけれど、うさぎを追いかけて森に入り、何者かに殺されてしまった。

、まあ物語上そこまで重要なファクターではないですが、一家を町から郊外へ連れ出した。ケイレブが一人で納屋から出そうとした時に手間取ったので、トマシンに見つかってしまった。
そういえば、トマシンが落馬してからは行方不明ですね。

、家族の前に現れます。森の中、時には納屋の中にも。兎が出て来るとそのあと大体不吉な展開になりましたよね。

山羊、映画には数匹のヤギが出てきますが、特筆すべきは血乳のでた白い牝山羊と、気象の荒い黒い牡山羊・ブラックフィリップですね。
特にブラックフィリップについては、あれが悪魔の化身だったのか、あるいは悪魔からコントロールされていたのか、考察の余地がありますね

カラス、どこからともなく現れ、ケイレブとサムの幻を見ているキャサリンの乳首を啄んでいました。まあ不吉の象徴とされがちではありますね。

鶏、というか。中には死んでしまった雛が入っていました」

野崎くん
「卵。雛は産まれたのに死んでしまった。サムと同じ。それは背負った罪が大きかったから。もしかしたら、洗礼を受ける前に一家が村を出てしまったのかもしれない。原罪の罰を負ったのかも。」

72
「卵はイースターの装飾で用いられますね。復活の象徴として。しかし、その復活もこの異教徒の地では叶わないのでしょうか…イースターといえば兎も出てきますね。」

つむぎ
「兎は、魔女の使い魔だったんじゃないかしら?」

野崎くん
「魔女の使いとして、家族を監視していた、と考えられる。また、中盤で納屋の中に兎がいるのは、魔女が家族に接近している、とも考えられる。」

72
「うーん、逆にあれは何か魔女に対するものの象徴だったんじゃないですか?不吉な出来事の前に現れ、家族に警告しようとしている。
けれど、その度に鉄砲を撃たれたり、犬に追い払われたりして、結果警告に失敗している、とも取れますね」

つむぎ
「そう考えると、兎が重なるのは母親のキャサリンかなあ。魔女からの危機に翻弄されながらも家族を守ろうとしているし。
兎といえば子沢山で有名でしょ?一家には5人も子供がいるし」

野崎くん
「子沢山…///」

一同
「…。」

野崎くん
母親は、白山羊とも考えられる。キャサリンは胸をカラスに啄まれて出血していたけれど、それと重なる部分があるのかも。」

つむぎ
血乳が出ていたから、確かに共通点はあるわね」

72
「どうやら山羊は複数飼われていたようですが、もしもあの牝山羊とブラックフィリップが番いだったとしたら、牝山羊がキャサリンで牡山羊はウィリアムに重なりますね」

野崎くん
「黒山羊は悪魔や不幸の象徴とされる。それこそ、バフォメットのように。」

72
「父親が悪魔の使いだったんですかね、不本意であったにしても。または、無意識だったにしても。
だから、村の人々とも対立して、郊外へ移動した。その時点で悪魔によって操られていた。」

野崎くん
「そういう、カマキリやカタツムリに寄生する生き物がいる。宿主の行動を操ってしまう。」

つむぎ
「そう考えると、悪魔や魔女は様々な角度から家族に近づいているようね。
それこそ、ブラックフィリップなんて家族を品定めしているようにすら思えるわ」

72
「全方向からの包囲ですね、あるいは、実は内側からの攻撃だったのかもしれません」

つむぎ
「どういうこと?」


トマシンが魔女だった?

72
「実は、トマシンが初めから魔女だった、という考えもあるようです」

つむぎ
「えっと、キャサリンとの惨劇の後の、黒山羊に導かれるシーンが、本来はもっと以前の場面だったってこと?」

72
「ええ、意図的に順番を並び替えているのではないか、と。実際、そのシーンではトマシンの顔に返り血がついていないんですよね」

野崎くん
「惨劇後に拭ったのかもしれないし、制作時のミスだとしたら、ほじくり返すべきじゃない。」

つむぎ
「それに、だったらなんで顔以外は血塗れなのよ?」

72
「実はそれが、トマシンに訪れた『月のもの』の隠喩だったんじゃないかって。旧来キリスト教では月経は『穢れ』とされたようですし」

つむぎ
「けど、それでどうして魔女なのよ?」

72
「これはちょっとした言い伝え的なことらしいんですが、月経、というのはすなわち周期を持った体の変化であり、それは蛇の脱皮を連想させる、とか。
旧約聖書の創世記に登場する悪魔はアダムとエヴァを誘惑したあと、神からの罰として手足を奪われ、地を這うものとされました。まあ、一般にも創世記の悪魔は蛇の姿で描かれてますが」

野崎くん
「そこは道理というよりも、感覚として穢れ=悪魔・魔女という連想で持っていく方がいいのかも」

つむぎ
「それだけで魔女になれるなら、苦労しないわよ、全く。」

72
「そう考えると、冒頭のトマシンの神への懺悔の言葉もなんだか違って聞こえますね」

野崎くん
「自分の弟妹を魔女たちに売り渡し、悪魔と協力して両親を殺した。とんでもないやつ。」

つむぎ
「バターや洋服、世界を見ることのためにそこまでできるかしら…、いや、できたのよね。あの物に乏しく、きょうだいの中でも自分ばかり非難される過酷な生活の中では、悪魔だって神様よ」

72
「この映画は逆から読み直すとまた面白いですね」


そのほか、面白いところ。

つむぎ
「何よ、この見出し。突然雑になったじゃん」

72
「考察は以上なので、ここからは取り上げたいところを見ていきましょう」

野崎くん
「一家は七つの大罪を犯した、という考察があるけど、ケイレブだけはその罪が軽いものだと僕には思える。現に、ケイレブはトマシンとの関係にヤキモキしていた。姉と弟でありながら、同時に自分がトマシンを女性として見るようになったことを、ケイレブは恥じているようにも見てとれた。だから、ケイレブは最期に神の御許へ招かれたんだと、僕は思う。」

72
「私は同じくケイレブについて、森から生きて帰ってきたあと、家族は彼の額を切って瀉血を行っていますねぇ。瀉血って結構面白い…っていうと不適切かもしれませんが、興味深い民間療法なので、ぜひ皆さん調べてみてください」

つむぎ
「私は、キャサリンがウィリアムと口論した際にした、かつて見た夢の話が印象的だったわ。イエスが彼女のもとに訪れた。そしてそのことを、彼女は人生のピークであると語ったのよ。それは実質、ウィリアムとの夫婦生活や現状の郊外での生活への抗議でもあった。彼との生活はどこをとっても幸せに思えなかった、ということなのかしら。まあ、神様を前にしたらなんでも退屈には思えるかもしれないけど、信仰の手前あまり声高言えないけど、自分との夫婦生活を貶されて、ウィリアムはあの場面からおかしくなっていくように思うわ」


最後に。

72
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

また、後記として、動画投稿と同時に投稿予定であった本記事の投稿が遅れまして、大変失礼しました。」

つむぎ
「もはや軽い読み物なんて域じゃないね、お腹いっぱいよ」

野崎くん
「これを毎週やるんだから、頭かどこかが相当おかしい。」

72
「破綻しない程度に気をつけなくちゃですね。けど、好きなことはいくらでも活力が湧いてくるものです!」

野崎くん
「いつかこれも嫌になって、映画も嫌いになる。かも。」

つむぎ
「そんなことさせないわ!私たちにはまだまだ映画が必要だし!これからもごっそり考察していこうと思います!

それではまた次回!

さよなら!」

野崎くん
「さよなら。」

72
「さよなら!」


白魔つむぎ Twitter
https://twitter.com/ShiromaTsumugi 

野崎 Twitter
https://twitter.com/sicksroom 

公式YouTubeチャンネル


(ライター:髙橋アンゼ(みつかったフィルム。))

*この記事はフィクションです。実在の人名、団体とは関係がありません。
*また、この記事に登場する人物の思想・行為はフィクションであり、本記事はそれらを助長するものではありません。

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