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病院薬剤師が語るアンサングシンデレラの舞台裏(第5巻)

皆さん、こんにちわ。病院薬剤師だまさんと申します。

本ブログ(note)にアクセスしていただき、ありがとうございます。

本ブログは、2020年4月よりフジテレビ系でスタートする木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」を10倍楽しむためのブログです。

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Rp.19 嫌われてでも納得してもらえ!?~医療用医薬品の価値とリスク~

(あらすじ)
窓口で患者から「ケチ」呼ばわりされても、湿布薬の追加を毅然と断る刈谷に固まるみどり。ある日、ステロイド入りの花粉症の薬を6歳の息子に分け与えていることを知ったみどりは、父親に注意するも理解してもらえない。その時、刈谷が父親に語った悲しいエピソードとは・・・。

今回は再び「鉄の女」こと刈谷が主役です。

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医薬品には「医療用医薬品」と「一般用医薬品」の2種類があります。

医療用医薬品とは
主に病院などの医療機関の医師の診断と処方に基づき使用される医薬品のこと。効き目が強く、時に重大な副作用を起こす危険性があるため、医師が患者の症状や体質などに応じて使用を指示する必要がある。

一般用医薬品とは
医師による処方箋がなくても薬局・薬店で購入できる医薬品。一般薬、大衆薬、市販薬、更には薬局・薬店のカウンター越しに手渡されることもあるためOTC(Over the Counterdrug)と呼ばれることもある。医療用医薬品に比べて効き目は穏やかで、副作用の心配も比較的少ない。患者やその家族が病気の初期の段階や、軽い頭痛や下痢、けがなどの場合に、自覚症状に基づいて自らの判断で購入して使用する。



ただ、ややこしいのは、薬によっては薬局でも病院でも手に入るという点。

冒頭の「ケチ騒動」にしても、患者が湿布薬を保険の上限を超えて希望したことが発端でした(しかも他人への譲渡目的だし・・・)。

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「薬は薬局で買うより病院でもらった方が安い」

ある湿布薬(24枚入り)の場合
●処方薬:90円(3割負担として)
●市販薬:2,530円

負担額だけ見れば確かにそうですが、みどりも言っているように「税金」で賄われていることを忘れてはいけません。

また、医療用医薬品を他人に譲るのは「違法行為」であり、万一何か重篤な健康被害が起こったとしても、どこからも保証されないのです。


湿布薬だけではありません。

近年では医療費削減の流れから、「市販薬で代用できるものは保険適用外にすべき」という議題にあがる医薬品も増えてきました。

みどりたちが話題にした保湿剤「ヒルドイド」もそうですし、昨年は花粉症の薬も俎上に載せられました。

「働き盛りを狙い撃ちだ」と世間の批判を浴びて今回は見送られましたが、「アフターコロナ」ではどうなるかわかりません。


・・・突然ですがCMです(笑)。

花粉症の薬については下記のブログを公開しています。

件(くだん)の「花粉症薬の保険適用外」論争についても触れていますので、よろしければあわせてお読みください。


「本人たちは悪気はないから、あんま強く注意もできないしね~」

ところが「死角」でみどりたちの会話を聞いていた刈谷が、その認識の甘さをチクリと刺します。

「言いづらいなんて言い訳ですよ」

いやいや、ブレませんね~、刈谷さん(眼鏡外すとどんなお顔やろ?)


さて、窓口対応で花粉症患者・増田が自分の薬(セレスタミン)を息子に分け与えていることを知ったみどりは注意を喚起します。

「自己判断で安易に子供に使わないでほしい薬なんです」

しかし、出産間近で妻不在の中、余裕のない増田はみどりに喰いつきます。

「じゃあ、何回までならいいんですか?」
「そういう(副作用が出た)子、実際見たことあるんですか?」

すると刈谷が割って入ります。

そして、過去に刈谷が関わった(セレスタミンの長期服用で成長抑制を生じた)事例を挙げ、ようやく増田に納得してもらうのでした。


セレスタミンの添付文書には確かに下記のような記載があります。

小児等への投与
(1) 幼児・小児の発育抑制があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。 
(2) 長期投与した場合、頭蓋内圧亢進症状があらわれることがある。

ただ、小児にセレスタミンを絶対使用してはダメという事ではありません。

(話の腰を折って申し訳ありませんが)セレスタミンは元々小児にも適応のある薬なんですよね(もし服用中の方がいたら誤解するので念のため)。

よって、今回は「医療用医薬品は処方された患者だけに使用されるべき薬である」ことを伝えたかった話、ということで理解しておきましょう。


後で刈谷はこう語ります。

医薬品はリスクと規制だらけ。でもそれによって生活が助けられている人がたくさんいる。ひとつの薬を開発するのにも、様々な人の努力と時間と費用がかかってる。そういった「医薬品を守る」ためにも、適正に使われるように私たちが目を光らせなきゃいけないの。嫌われてでも、納得してもらわないといけません。

薬の価値とリスク、そして薬剤師の責務を再認識したみどりでした。


今回の舞台裏は「スイッチOTC」です。

スイッチOTCとは
医療用医薬品として用いられた成分が、OTC医薬品に転換(スイッチ)された医薬品のこと。 代表例は、H2ブロッカー(胃薬の一種)「ガスター10」や解熱鎮痛薬「ロキソニンS」など。

先程の説明とは矛盾するようですが、医療財政が「火の車」の厚労省は、「セルフメディケーション」の名目で、「薬剤師が情報提供する」という条件付きで医療用医薬品の市販化に踏み切ったのです。

ところがこれに「患者が減ったのはスイッチOTCのせいだ」と一部の医師は猛反発、更には市民団体「薬害オンブズマンパースン」が「5割以上のドラッグストアで薬剤師が不在」という事実をすっぱ抜き論議となりました。

すると、これに危機感を覚えたドラッグストア各社は「大同団結」してあの手この手で厚労省を突き上げ、収拾のつかない事態にまで陥りました。

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最終的には、店舗に許可を与える従来の「薬種商販売業」を個人が取得できる新資格「登録販売者」に改組することで、第1種医薬品以外は薬剤師不在でも店舗を営業できるようになったのです。

更にドラッグストアは、従来からあった「ポイントサービス」の対象を患者が薬局で支払う「一部負担金」にまで拡大することで消費者や患者のハートを鷲掴みにし、調剤併設ドラッグストアは躍進することとなりました。

まさにドラッグストアの「大逆転勝利」だったのです。


今回はここまで。

次回(Rp.20)では、みどりが・・・織姫になります。


DREAMS COME TRUEによるドラマ主題歌『YES AND NO』と、原作漫画のスペシャルコラボが実現したMMV(MANGA MUSIC VIDEO)フルVer.が公開!



Rp.20 嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ~喘息治療の落とし穴~

(あらすじ)
喘息発作で小児科病棟で入院中の海くんはイラついていた。口うるさいみどりも、先生も看護師も、病院にいるヤツはみんな嫌いだった。理由は母親が出張中で会えないから。・・・でも一番嫌いなのは体が弱い自分自身だった。

ファンには怒られるかもですが、「ど、どしたの?」と心配するほど内容の薄い回でした(取材が間に合わなかったのかも)。

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喘息を取り上げるのだって、これで二度目だし・・・。

オホン、こんな時こそ現役の薬剤師がカバーしてあげねば。

そう勝手に思って、気合いを入れて書かせていただきました。


いきなりですが、「舞台裏」のコーナー。

今回のテーマは「喘息と吸入薬」です。

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以前勤めていた病院では、私は喘息患者の服薬指導をしていました。

特に吸入指導は、外来患者も含め何十回・何百回やったかわかりません。

歪(いびつ)な喘息の薬の進化
20年の歳月を経て感じるのは、喘息の薬の進化が歪だという点です。内服薬の新薬は全く発売されなくなりました(オノンにせよキプレスにせよ、20年も昔の薬です)が、片や吸入薬の新薬は、毎年のように登場しています。この事実を見ても、喘息治療にとっていかに吸入薬が大切であるか、重視されているかがわかります。なので、私は吸入指導でデモしたり、吸入補助器を提案したり、悪戦苦闘して患者さんを指導していた訳です。

浸透しないステロイド吸入薬の重要性
ところが少し困ったことがありました。それは治療上最も大切なステロイド吸入薬が疎かになっていることです。調べるとすぐわかりますが、喘息死って結構多いです。そんな方がどのような吸入薬の使い方をしているかというと、「ステロイドは効かないから吸わない」とβ2刺激薬ばっかり吸っているのです。喘息死とは言いつつ、実はβ2刺激薬の副作用で心臓がヤラれて亡くなる例も多いのです。いくら注意しても伝わらない。困ったものです。

⇒ 今回のお話で海くんが使用しているフルタイドもステロイド吸入薬です。

幸い最近では長時間作用型β2刺激薬(LABA)の合剤のように効果の実感が得られやすい薬も登場しましたし、心毒性の低い薬や貼り薬の開発も進みました。しかし今も昔も薬剤師として最も重要な指導ポイントは、「ステロイド吸入薬を毎日きちんと使用してもらう」ことに尽きるでしょう。

⇒ なのでみどりも久保山先生も小うるさいのです(海くんがウザがる訳)。

「ぜんそく日記」が大切な理由
さっき「実感」という話をしましたが、皆さんは喘息治療に「ぜんそく日記」が推奨されている理由ってわかりますか?じつは喘息発作の自覚症状ってあまり当てにならないのです。「しんどい」と思っても実は軽症だったり、「大丈夫」と思っても重症だったり。「ぜんそく日記」を毎日つけるのは誰にでもできることではありません。でも「本気」で治したいのなら、客観的に症状の経過を追える「ぜんそく日記」は重要なツールとなり得ます。

⇒ 海くんは「平気」だと過信しているから、日記が疎かになるんですよね。

ステロイド吸入薬への誤解
今日は「小児喘息」がテーマなので小児患者の話も少し。家族は子供の治療に協力的なので、通常は心配ないのですが、唯一の落とし穴は「ステロイド」です。強力なステロイドを吸入する訳なので、副作用が心配な親は少し症状が落ち着くと、自己判断で中止・減量してしまう可能性があります。

しかし、吸入薬に含まれるステロイドは、(前回のセレスタミンと違って)吸収されてもすぐ失活するので安全です。吸入後のうがいは必須ですが、巷で流れているステロイドの副作用の心配がないことは事前に伝えておくべきでしょう。むしろ発作がひどくなると、内服や点滴のステロイドを投与されるハメとなり、こっちはしっかり副作用が出てしまいます。なので、(逆説的ですが)ステロイドの副作用を防ぐためにもステロイドの吸入をしていることを理解してもらうとよいでしょう。

⇒ 実は私も小児喘息でした。でも、ほとんどが成長と共に自然治癒します。


さて、喘息発作で臥せっている海くんに笹の葉と短冊を届けたみどり。

「カイくんの願いごとがかないますように! 葵みどり」

なのに、夢の中で(嫌いだった筈の)織姫みどりと遭ってしまう海くん。

訪室したみどりに顔を赤らめ、二度と病院に戻らぬことを誓うのでした。

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今回はここまで。

次回(Rp.21)は、みどりがついに小野塚と初デート!?




Rp.21 現在・過去・未来~薬剤師の「自分軸」の見つけ方~

(あらすじ)
大学時代の友人たちより今後の展望を聞かされたみどりは、目の前のことに追われ将来のビジョンを持っていなかった自分に焦る。そんな時、笹の葉薬局への転職を決めた小野塚よりLINEが入る。その時みどりは・・・。

巷では「終身雇用制度の崩壊」や「45歳定年制(早期退職制度)」など、別の意味での「働き方改革」が進められています。

薬剤師とて例外ではなく、「薬剤師になれば安泰」という訳ではなくなりつつあります(薬学生さん、ドキッとしましたか?)。

つまり、目の前の仕事を漫然とこなしているだけの状況は危ういのです。

例えば認定・専門薬剤師など、キャリアを積んで自分の「強み」を作るとか、自分の「好き」をとことん追求するとか(ほぼ同義ですが・・・)。

とにかく「特別な存在」にならない限り、近い将来、「(自分にとって)不本意な仕事」しか残っていない可能性があるのです。


冒頭の大学時代の友人たちの語った「長期的な目標」はこうでした。

青木(ドラッグストア勤務) 結婚を機にかかりつけ薬剤師を取得して異動
柿崎(調剤薬局勤務) カフェ併設の薬局経営(日経ウーマンに掲載!?)
黒須(製薬会社勤務;MR) 外資系の製薬会社への転職を視野

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みどり「ううっ、みんなおいてかないで!」

焦るみどり。

そんな時、小野塚からLINEが入ります。

小野塚「どうもです。11月から笹の葉薬局で働くことになりました」

みどり「ぐぅぅ・・・!」

「取り残され感」やるかたないみどりは、ファミレスで勉強中だった小野塚の元へと押しかけ、不安な心情や生い立ちを小野塚に打ち明けます。

そんなみどりの気持ちを受け止め、励ます小野塚(代償にフルーツget)。

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そして次回の合同勉強会の企画を打ち合わせる2人でした(いい雰囲気)。


今回の「舞台裏」は、みどりも悩んでいた「自分軸」です。

欧米ではとかく「ビジョン」(目標)が重要視されています。

「ビジョンなくして成功はあり得ない」と思われている向きもあります。

しかし、実際には「自分軸(=やる気の源)」は次の2つが存在します。

ビジョン型:ありたい姿を目指すタイプ
価値観型:自分らしさを大切にするタイプ

特に日本人には「価値観型」が多いとのこと(みどりもこっちですよね?)

アクションプランも「ビジョン型」と「価値観型」とでは正反対です。

ビジョン型:インプットが有効(目標に近付いている⇒充実感)
価値観型:アウトプットが有効(自分らしさを発揮している⇒充実感)

仮にビジョンを定めたしても、やがて時代と共に移り変わるものです。

友人たちの姿に動揺してしまいましたが、今後みどりは日々の業務の延長線上に目標を見出していく筈です(それが彼女の持ち味ですから)。

※参考図書:「成功するのに目標はいらない!~人生を劇的に変える「自分軸」の見つけ方~」(平本相武著)


ええい、私のお気に入りのりゅうけんくんの動画も紹介しておこう(笑)。


その翌日のこと。

前十字靭帯損傷のため靭帯再建術を終え、本日からリハビリ開始の女子中学生・夏目を担当することとなったみどり。

夏目は推薦枠でバスケ強豪高への入学が決まっているほどの有望選手で、高校バスケで国体に出るのが目標だった。

そんな夏目から出た言葉は、みどりの予想しなかったものでした。

「(ドーピングに引っ掛からないか)確認取れるまで、薬飲みませんから」

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今回はここまで。

次回(Rp.22)、ついにみどりが「目標」を見つけます(最終回間近?)。




Rp.22 これが私の生きる道~葵みどりの布教活動~

(あらすじ)
ハクのサポートもあり、服用薬の中にドーピング被疑薬がない旨を回答できたみどりは、ようやく夏目からの信頼を得ることに成功する。そして今回の体験からみどりは自分の生きる道を見つけるのだった。

今回のテーマは「ドーピング」です。

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ドーピングとは
スポーツにおいて禁止されている物質や方法によって競技能力を高め、意図的に自分だけが優位に立ち、勝利を得ようとする行為のこと。
※公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構ホームページより引用

禁止薬物を「意図的」に使用することだけがドーピングではありません。

むしろ、アスリートは「知らぬ間に」ドーピングを犯していないかをとても恐れるのです(それまでの努力が水の泡になってしまうからです)。

夏目に「ドーピングに引っ掛からないか」を尋ねられたみどりは、慌てて薬品情報室に駆け込み穂上(DI担当薬剤師?)を探しますが不在。

たまたまその場にいたハクが「スポーツファーマシスト」の認定に向けて勉強中ということもあり、色々と指南を受けます。

ちなみにみどりが探しに来た資料がこれ。

薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2019年販

ハクに教えてもらったサイト「Global DRO」がこれです。

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息を弾ませて戻って来たみどりを見て、夏目の表情は和らぎます。

「こう見えて薬剤師はけっこう使えるから!」

薬剤師が相談相手になれることを精一杯アピールするみどり。

「笑顔が出てよかった。ちょっと信頼してもらえたかな・・・。」

ただ、その裏ではまだ知らないことばかりであることを痛感するのでした。


その後、ハクからスポーツファーマシストを目指すこととなった経緯や学校薬剤師に有資格者が多いことを聞き、みどりの心は揺れます。

ただ、興味は湧いたものの、認定を取るには時間もお金もかかることから、いったんは断念しようと決意したみどりでしたが・・・。

「お母さんも薬剤師さんの話ちゃんと聞いた方がいいよ」

退院日、夏目が母親にそうアドバイスする姿を見て、みどりは気づきます。

「そうだよ・・・」

そしてハクに下記の3つのことを宣言するのでした。

・スポーツファーマシストの認定を取ること
・学校薬剤師を目指すこと
・自分の目標「子供や若者に薬剤師を身近に感じてもらう布教活動!!」

※「響きはヤバイ人っぽいですね」(目がイッちゃってるし・・・)(ハク)

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・・・という訳で、懸案だった「長期的な目標」をめでたく見つけられたみどりですが、正直な話、読者としては複雑な気持ちです。

みどりは(最近出番のない)瀬野の背中を見て育っただけあって、「感性」「知性」「根性」を兼ね備えた、患者の心に寄り添える病院薬剤師です。

※豊中にも「(他の薬剤師は)何も考えず杓子定規な仕事するだけ」(第1巻より)なぁ~んてディスられてましたしね。

読者としては、病棟薬剤師としてますます伸びて欲しいと願います。

そんなみどりが、「布教活動」って・・・(確かに大事なことですけど)。

※いや、今の私だってこんなブログ立ち上げて似たようなことしてますけど(さりげないCM・わざとらしいCM・あきれかえるCM)。

DI業務のこととか、製剤業務のこととか、取り上げるべきテーマはまだまだ沢山あるというのに、まさかこのまま最終回へと一直線?

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次回以降の展開が気になります。



今回の「舞台裏」は「認定制度」です。

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常に知識のアップデートが必要な薬剤師にとって
認定制度は自己鍛錬の足がかりのひとつになる


認定薬剤師は、「がん患者と家族」編で登場したがん薬物療法認定薬剤師・江林のように特定領域のエキスパートという意味合いですが、物語の中でも触れられているように自己鍛錬の足がかりとしての一面もあります。

薬剤師業務は年々多様化を極めており、それと共に認定制度も膨張し続けています(太字は私が持っている認定です)。

がん薬物療法認定薬剤師/プライマリ・ケア認定薬剤師/外来がん治療認定薬剤師/HIV感染症薬物療法認定薬剤師/漢方薬・生薬認定薬剤師/研修認定薬剤師/救急認定薬剤師/腎臓病薬物療法認定薬剤師/糖尿病薬物療法認定薬剤師/ 日病薬認定指導薬剤師/日病薬病院薬学認定薬剤師/緩和薬物療法認定薬剤師/ 公認スポーツファーマシスト/小児薬物療法認定薬剤師/感染制御認定薬剤師/ 抗菌化学療法認定薬剤師/在宅療養支援認定薬剤師/精神科薬物療法認定薬剤師/日本医療薬学会認定薬剤師/妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師/認定実務実習指導薬剤師 etc 

ただ、みどりも述べているように、資格を取得・維持するためには費用(単位取得・申請・更新・学会の年会費等)や時間的な負担がかかります。

※スポーツファーマシストは比較的にラクに取れる部類の認定です。

ぶっちゃけ、嫌々努力したって長続きしません。

自分がのめり込める分野、「天職」をできるだけ早く見つけ、他の誰にも負けない「知識」と「経験」を積むことが肝要です(ビジネスも同じです)。

よく「単位」や「試験」のことを過度に心配する方がいますが、「その道の第一人者」なろうと思ったら、足りない知識を補う努力は怠らない筈。

「単位」も「試験」をパスできるだけの知識も後からついて来るものです。


今回はここまで。

次回(Rp.23)では、みどりが産科病棟に配置換え!?



『葵みどりのお薬講座』、第3回は「目薬のさし方」です。



Rp.23 「閑職」だなんてとんでもない!~産科病棟の人間模様~

(あらすじ)
産休入りする鶴田の代役として産科病棟を兼任することとなったみどり。産科病棟の特殊性を語る鶴田の言葉にみどりは戦慄する。切迫早産の治療薬に懸念を抱える初産婦・星名に不安をぶつけられたみどりは・・・。

今回より、みどりの舞台は産科病棟へと移ります(最終回でなくてホッ)。

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かく言う私も、通算すると約3年間、産科病棟を担当しました。

「え?男が産科を担当していいんですか?」

後輩からそんな風に驚かれることもありますが、ノープロブレム。

当時は妻(早期破水)の出産直後だったので、妊産婦の周辺事情が理解できる分、逆に有利でした。

「先生方、さようなら」※勤め先(A病院)の産婦人科がB病院に移転
            ↓
「先生方、またよろしく」※A病院とB病院が統合してC病院に

なぁ~んて、サラリーマン川柳(!?)みたいな出来事もありました(笑)。


だからこそ、ですが・・・

「産科は薬剤部的には軽く見られてるとこあるから」
「難易度は高くないし算定取れるから誰かしら置いておきたい、が本音」
「薬剤師にできることはほとんどないって思う人には任せたくなかった」

この鶴田の発言、私には理解できます(そんな風潮は確かにあります)。

ただ、「経験しないとわからないことがある」「産科は産科なりに薬剤師にも特別な役割がある」という点は強調しておきたいと思います。


鶴田に産科病棟を案内されるみどり。

看護部長と産婦人科医(※第1巻「ギネの林事件」で登場した当時研修医だった道場先生!)に紹介された後はいよいよ患者との対面・・・。

・産後で会陰切開による疼痛と便秘を訴える初産婦・三戸
・切迫早産のため子宮収縮抑制剤を投与中の31週目の初産婦・星名
・同じく切迫早産だがハイリスクで訳アリで絶対安静の初産婦・向坂

それぞれに問題を抱える患者たち。

向坂のように、他人には手出しできないような問題に直面しているケースに、これまで私も数多く遭遇してきました。

その意味では、「病気の治療」が前面に出ている方が、(医療従事者としては)まだ気が楽なのかもしれません。


切迫流産の患者は分娩可能となるまで子宮収縮抑制剤(リトドリンかマグセントかその両方)を持続点滴します。

24時間欠かさず、何週間、場合によっては何か月間も!

リトドリンには副作用(動悸・ほてり・手のふるえなど)も結構ありますし、仮にお腹の張りが和らいだとしても頚管長によっては絶対安静(トイレ・食事以外は歩行不可)となるため、外泊・外出も一切できません。

当然出産後の準備もできませんし、自宅に残して来た家族も気になります。

入院中のストレスは想像を絶するものがあります。

私はそんな妊婦さんと接する時、相手に合わせてこんな話をしました。

・子宮収縮抑制剤の流量や検査値の推移(「一喜一憂」を患者と共有)
・過去の担当患者のエピソード(「自分だけじゃない」は重要な情報)
・自分の妻の体験談(「いい旦那さんね」と逆に褒められたりして・・・)
・子育ての話(当時まさに奮闘中だったので共感されやすい話題)
・ちょっとクスッと笑える話(苦手な分野ですが一生懸命おトボけて)
・薬に関するミニレクチャー(便秘の薬や痛み止めがツボ) など

振り返れば当時の私は、少しでも妊婦さんの不安を取り除き、笑顔を取り戻してもらうことを最優先に考えていたように思います。


今回の「舞台裏」は「不妊症治療と薬」です。

薬をあまり使わない、いや使えない診療科ならではの話です。

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本県は全国屈指の老人県で、かなり昔から人口も自然減に転じています。

統計を見てもその傾向は顕著で、結婚率・出生率はいずれも全国ワーストクラスです(逆に離婚率はトップクラスですが・・・)。

胎児死亡率が抜群に低いことが「せめてもの」救い。

奇跡的に恵まれた子宝を手厚く育てる県なのです(流出しちゃイヤよ)。


必然的に不妊治療も盛んで、高年齢出産の方も少なくありません。

そんな方はとりわけ薬に神経を使っている場合が多いですね。

ただ、「過剰」とも思える警戒ぶりに驚かされることもあります。

今回のお話でも、患者(星名)がネットの情報を鵜呑みにしてマグセントの危険性を恐れる様子が描写されていました。

やっと授かった子宝、わかっていても不安になる気持ちはわかります。

薬の専門家・責任者として、エビデンス(科学的根拠)を理解しやすい形で示して、患者の不安を取り除くこと。

これこそが薬剤師の担うべき役割ではないでしょうか?


※これは実習生によく紹介するエピソードです。

ある日、産科にある患者が入院してきました。

その患者は不妊症治療中で、排卵誘発薬による副作用の一つである卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症していました。

点滴はずっと輸液1本のみ(1~2週スパンで種類が変更)。

さて、皆さんならば、この患者にどのように関わりますか?

A.輸液の内容(成分・点滴時間など)を説明して終わり
B.(説明すべき薬がないので)問診のみで終わり

たいていは質問の真意を図りかね、無言に陥ります(無理もありません)。


OHSSは、排卵誘発薬(ゴナドトロピン製剤など)の影響で卵巣の肥大や腹水・胸水を来す病態です(発現頻度:約5%)。

自覚症状
毛細血管の透過性亢進による血液濃縮
⇒ 腹部膨満感・下腹部痛・悪心・嘔吐・口渇・乏尿など
※重症例においては血栓症、肺水腫などによる死亡例も

血液がドロドロなので水分補給をしたいけど、更に腹水を増やしかねない。

そんなジレンマの中、血液濃縮の補正と尿量(30mL/h以上)の確保を図る目的で投与される輸液は、単なる末梢栄養とは意味合いが全然違います。

その話をすると、患者は頻繁に尿量や体重チェックをさせられている理由にも思い当たったのか、「説明を聞けて良かった」と満足されました。


一方私は、入院後指示薬を一度も使用していない点にも疑問を感じました。

腹水はあるため、患者の表情が優れないのは仕方がないにしても・・・。

果たして、その患者は入院以来ずっと腹痛を我慢していたのです。

理由は「不妊治療や赤ちゃんに悪影響が出たら困るから」でした。

私は指示薬(アセトアミノフェン)の安全性と腹痛を我慢するデメリット(不眠・食欲低下等)を説き、懸念を取り除くことに成功したのでした。


いかがでしたでしょうか?

「薬剤師は薬だけを見てたらダメだよ」という好例です。


さて、みどりが病状悪化した星名の心に寄り添っている時、隣のベッドではハイリスク患者・向坂の母親が娘にこう語りかけていました。

「あなたには育てられない」




最終話の感想

やっぱり、病院薬剤師って素晴らしい!

#11 「大切な日常、それぞれの未来」のあらすじ
 葵みどり(石原さとみ)が瀬野章吾(田中圭)の承認を得て抗がん剤治験薬の投与を始めてから2年が経過した。その頃、みどりは萬津産婦人科医院で働いていた。そこに小野塚綾(成田凌)が訪ねて来る。喫茶店に行くと、小野塚は萬津総合病院薬剤部に簑島心春(穂志もえか)が研修に来ていることからみどりに話し出す。心春の指導担当が相原くるみ(西野七瀬)と聞いたみどりは嬉しそう。だが、瀬野が不在なので自分が救急薬剤師を任されていると話す小野塚に、みどりの顔が曇る。みどりは瀬野に行った治験薬の投与に責任を感じていた。小野塚は萬津総合病院に戻って来るよう促すが、みどりは今の仕事が大事だと断る。そんな時、みどりは産婦人科から呼び出された。
 みどりが病院に戻ると、妊娠35週目の向坂千歳(土村芳)が家でお腹を打って倒れたと、母の世津子(朝加真由美)に連れて来られていた。幸い母子ともに大事はなかったが、てんかんの既住を持つ千歳が立ちくらみで転倒したと聞いたみどりは、抗てんかん薬をきちんと服用しているかと尋ねる。千歳と世津子は服用していたと答えた。萬津産婦人科医院の常勤医師は、道場健太郎(前原滉)。道場は、てんかん合併の妊婦を小さな産婦人科で診ることに自信がない。みどりは、スタッフは道場を信じていると励ます。入院した千歳はこっそり抗てんかん薬を捨てた。それを同室の星名優(入山法子)が見てしまう。しかし、服薬を確認するみどりに、千歳は飲んでいると嘘をついて・・・。 

今回は、産科で奮闘するみどりを描いた原作第25話「新しい戦場」・第26話「「母」ということ」・第27話「親になること」と、サプライズ満載のオリジナルストーリーが同時進行します。

最終話は
瀬野のその後は?
みどり、なぜ産婦人科?
薬剤部は再び一つになるのか?
販田部長、念願のロボットは?
の四本立てでお届けします
・・・公式Twitterより


❶評価されない(!?)産科担当

あれから2年後。

みどりは本院の系列施設「萬津産婦人科医院」で働いていました。

原作では産休入りする先輩を引き継ぐ形で担当することとなった産科。

しかしその際、その先輩(鶴田)より気になる発言がありました。

「産科は薬剤部的には軽く見られてるとこあるから」
「難易度は高くないし算定取れるから誰かしら置いておきたい、が本音」
「薬剤師にできることはほとんどないって思う人には任せたくなかった」

みどりの左遷先としては最適だった、ということなのでしょうか?

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いやいや。

「そうではない」ことは、みどりの働きぶりが証明してくれてますよね?

・薬(リトドリン・デパケン)に対する患者の不安に応えている。
・リトドリンの代替薬(テルブタリン;β2受容体作動薬)を提案している。
・妊婦特有の背景を理解して患者・家族に介入している。

※現役の薬剤師ならではツッコミ(笑)
「なぜにデパケンだけ商品名?」「今時ブリカニール皮下注置いとる?」

かくいう私も、かつては産科病棟を担当していました。

これは先日したツイートです。


❷【ネタバレ注意】ハッピーエンド

・瀬野の奇跡の生還で、みどりと小野塚は更なる躍進が約束
・販田は念願のロボッツGET(わかる~)
・治験成功で七尾は面目躍如(ニヤッ)
・ハク改め龍ちゃんは姉さん女房・工藤とゴールイン
・刈谷は最後の最後で満面の笑顔
・荒神は最高のマジックを披露(はい~)
・くるみは(みどりのパクリで)指導役として開眼

ちなみに原作「アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」は、現在も好評連載中です(現在第29話まで進行中)。

原作者の荒井ママレ先生、ドラマ化で難易度上がったね(笑)。


❸薬剤師不足の解決策は結局・・・

全話を通して描かれてきた「薬剤師不足」問題。

先日私もこんなツイートをしました。

で、このドラマの出したfinal answerは「ロボッツ」でした(ひゃー)。

確かに機械化は避けては通れない道なのだと思います。

販田「これからの薬剤師は、AI、ロボッツ、そして人間の真心よ」

しかし、この販田部長の言葉の一番最後、「人間の心」こそが、この作品で最も強調したかったことなのかもしれません。


病院薬剤師が主役のこんなドラマは、もう当分実現しないかもしれませんが、医療ドラマに薬剤師が登場するきっかけにはなったでしょう。

知られざる病院薬剤師の役割・やりがいも理解していただけたと思います。

これを機に薬剤師を目指す若者、そして病院薬剤師に復帰・転職する有資格者が増えてくれることを心から切望します。

なぜならば・・・・「病院薬剤師って素晴らしい!」のだから(了)。


第5巻はここまで。

これ以降は、このブログ共々「第6巻」へと移ります。


病院薬剤師って素晴らしい!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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