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病院薬剤師が語るアンサングシンデレラの舞台裏(第6巻)

皆さん、こんにちわ。病院薬剤師だまさんと申します。

本ブログ(note)にアクセスしていただき、ありがとうございます。

本ブログは、2020年7月よりフジテレビ系でスタートする木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」を10倍楽しむためのブログです。

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新型コロナの影響で延期となっていた放映が7/16にいよいよ開始されます。

「アンサングシンデレラを観て病院薬剤師を目指そうと思いました」

私の在職中に、そう語る薬剤師であふれることを心より願っています。


Rp.24 「健康」な子どもって何!?~リスクとプレッシャーの狭間で~

(あらすじ)
「あなたには育てられない」 ————。持病のある向坂が出産・育児することを認めようとしない母親。それを知ったみどりたちは、再度話し合いの場を設けることにした。「瀬野チルドレン」が始動する。

引き続き「産科病棟編」ですが、今回はみどりの活躍の場はほとんどなく(小児科病棟でのエピソードを語ったこと位)、人間模様の話が中心です。

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今回は、てんかんの持病を持つ娘(向坂)による育児を母親が憂慮し、生まれてくる子供を乳児院に預けようと提案したことが発端です。

客観的に見れば、そこまで悲観的な状況ではないにもかかわらず、です。

「母にとって育児というのは、『健康な母親』が『健康な子ども』を過不足なく育てることなんです」(向坂の言葉から)

それはそれで正論なのかもしれません。

しかし、逆にリスクゼロの出産も育児もあり得ませんし、むしろ医療や福祉の進歩により、ある一定の水準までのリスクならば許容し得る時代となっているのも事実です。

そういった理解が乏しく、古くからの因習に引きずられてしまう典型が今回の向坂の母親ではないでしょうか?

事実、向坂は追い詰められ、病気や出産のリスクよりも母親からのプレッシャーですっかり参ってしまっています。

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リスクを受け入れてもらうために、医療側がすべきことはたった一つです。

そう、「患者や家族にわかりやすく説明して納得してもらうこと」です。

当然、薬剤師も薬の安全性(胎児への影響)をエビデンスを示しつつ納得してもらう役割があるのです(なにしろ薬の責任者ですから)。

ほら、薬剤師にできること、ちゃんとあるじゃないですか!


今回は道場先生に続き、「ギネの林事件」にまつわる人物がもう一名。

助産師・倉本です。

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この方、事件の時、部科長会議で瀬野を擁護した倉本の娘ですよね。

お母さんに輪をかけたような「プロ意識の塊」のようなキャラ。

「(乳児院の話に)あ————、なんかイライラしてきた!」

今回ばかりは、みどりがお株を奪われちゃいましたね(笑)。

さて、道場・倉本・みどりの「瀬野チルドレン」が、頑なな母親にどのような説得を試みるのでしょうか?

そして、これまで母親に依存してばかりだった向坂に心境の変化は?

「産科病棟編」最終話(←多分)、見逃せません。


今回の舞台裏は少し難しいテーマ、「第三者の介在」です。

凡そ医療というものは、医師と患者、1対1の世界であり、患者本人の意思が最優先される(べき)ものです。

※第1話「「普通」のために」で登場した喘息患者・古賀の奥さんも、夫の薬に関しては完全に「蚊帳の外」でしたものね。

ところが一部には例外があって、小児患者のように意思決定や自己管理ができない場合には、保護者が治療に関与する比重が高まります。

つまり、保護者の理解力・行動力によって治療の質が左右されてしまう。

それは時に「心強い協力者」にも、「厄介な妨害者」にもなり得るのです。

今回の向坂の母親がまさに後者のパターンでした。

向坂はもう既に立派な社会人ですが、厳格な母親の影響で精神的な自立が妨げられていました。

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「過保護」と言ってしまえばそれまでですが、患者のQOL向上を第一と考えるならば、親子の関係にさえ踏み込まねばならないこともあります。

それが医療人の宿命。

薬剤師とて例外ではないのです。


さて、17話「越えられぬ線」以来、出演を自粛していた瀬野(「しとらんわっ!」)が久々に登場しました(第4巻では一切登場せず)。

「瀬野さんのおか(げで)————」

そう言いかけ、思い直して逆に強がって見せたみどり。

首尾よく瀬野の期待に応えられるでしょうか?



Rp.25 授乳と薬~「ありふれた魔法」の落とし穴~

(あらすじ)
向坂親子との面談の日が訪れた。産後の生活について不安をぶつける母親。やがて向坂は破水を起こし早産となってしまう。「私のからだじゃなければ、大丈夫だったのかな?」。生まれてきた赤子に詫びる娘の姿を見て、母親の脳裏によみがえった過去の辛い記憶とは?

今回も向坂親子が主役で、みどりの活躍の場はごく一部に過ぎません。

考えさせられたのは、出産に関する誤解や思い込みがいかに多いかでした。

・てんかん患者の育児は危険!?(疾患に関係なく誰でも危険はある)
・デパケン服用中は授乳不可!?(移行量は僅かなので授乳は可能)
・母乳が一番!?(理想だが絶対ではない)
・乳児院は子どもを手放すこと!?(実際は違う)

これが医学的知識を持たない病気であれば、患者は医療従事者の言葉に素直に耳を傾けるしかありません。

ところが、出産は(死と並ぶ)「ありふれた魔法」です。

そこに原因があると感じました。


初孫と対面した向坂の母親は、てんかんの娘を産んだ際に周り(そして夫)から掛けられた心無い言葉、そして辛かった記憶を思い出します。

「娘に同じ轍を踏ませたくない」

母親が娘に冷たい態度を取ってきた謎が、これでようやく氷解しました。

思えば、今回の向坂親子のように、当事者というものは余裕も知識もなく、往々にして狭い視野に陥ってしまいがちです。

ところがチーム医療ならば、相手を理解しそれぞれの「知識」と「経験」を活かすことで、より良い選択肢を見つけることができるかもしれません。

これもまた医療の進歩と呼べるのではないでしょうか?


今回の舞台裏は「授乳と薬」についてお話します。

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新薬の開発は、候補物質の探索(基礎研究)に始まり、様々な研究や試験を経て実用化へと至りますが、そこまでには通常10年以上もの長い開発期間と200~300億円もの費用がかかると言われています。

≪新薬が実用化されるまで≫
❶基礎研究(2~3年)
将来薬となる可能性のある新規物質の発見や、化学合成するための研究を行い、候補物質のスクリーニングを行う。
 ↓
❷非臨床試験(3~5年)
薬物の有効性や安全性を確認するため、毒性や薬物の動態、薬効等の生物学的試験研究を動物を用いて行う。
 ↓
❸臨床試験(3~7年)
薬物のヒトでの有効性と安全性について試験を行う。「治験」とも呼ばれ、通常「第Ⅰ相試験」「第Ⅱ相試験」「第Ⅲ相試験」の3段階で進められる。
 ↓
❹承認申請・製造販売(1~2年)
医薬品医療機器総合機構にて承認審査が行われ、新薬の有効性・安全性が確認されると、製造販売が許可される。
 ↓
❺製造販売後調査(6ヶ月~10年)
治験では得られない日常診療下での医薬品の有効性・安全性を確認するため、適正使用に関する調査や試験が行われる。

※日本SMO協会ホームページより一部引用

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ところが、「授乳婦」は臨床試験の対象外となっているのです。

「添付文書では医学的判断はされてない」
「『母乳移行したらとにかく禁止』という大雑把な括りで書かれている」

みどりの言葉はその通りなのです。

そこで、実際の医療現場では、「授乳の可否」は添付文書ではなく専門書を参照して判断しています。

※ちなみに「授乳の可否」で試しにググってみたら、私のメインブログの記事がトップ表示されました(ビックリしました・・・)。

もし皆さんが「授乳の可否」についてお知りになりたい場合は、添付文書で確認するのではなく、妊娠と薬情報センターのホームページを参照するか、直接相談されることをお勧めします。



Rp.26 薬あるところに薬剤師あり~伝承される古(いにしえ)の技術~

(あらすじ)
夏休みを利用して実家に帰ったみどりは、愛猫てんてんの異変に気付き馴染みの動物病院へと連れて行く。ところが、院内は看護師が病欠でてんてこ舞い。見かねたみどりは調剤の手伝いを買って出るのだが、目の前にあったのは病院ではもはや使われていない旧式の調剤機器だった。

今回の舞台は意表をついて(!?)動物病院です。

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さて、「巻き爪」の葵てんてん君(11歳)を動物病院に連れて行ったみどりですが、人間の(!?)病院との共通点・相違点に興味津々です。

≪共通点≫
・薬の7割方は人間用を使用(動物専用薬は少なく個人輸入薬も多い)
・体重換算して半割・粉砕調剤して対応(小児用と同様)
≪相違点≫
・犬種によって使えない薬がある(コリー犬はイベルメクチンはダメ等)
・動物用には入手しづらい薬がある(バイアグラやケタミンなど)

結論としては、3人のこの発言に集約されるかと思います。

葵「獣医さんて、ほんっとに総合診療ですね!」
長尾(獣医)「薬剤師、便利!!」
吉野(事務)「(みどりと比べて)私だったらあの10倍は時間かかります」

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それにしても、動物病院専門の調剤薬局があるなんて驚きでした。


今回の舞台裏は「日本薬学の父・長井長義」です。

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長義は徳島藩医に生まれ、明治新政府による第1回海外派遣留学生としてドイツに渡り、超一流の化学者としてその名を轟かせました。

しかし、長義は明治政府より帰国を嘆願されることとなります。

当時日本には欧米より渡来する薬品の品質を評価するノウハウがなく、粗悪品を法外な値段で押し付けられることも少なくなかったからです。

長義は母国のために後人生を捧げることを決意したのでした。

そして帰国後、日本薬局方(医薬品に関する品質規格書)の制定、大日本製薬の設立、エフェドリン等新規薬効成分の発見など多大な業績をあげ、 日本薬学会初代会頭を42年間務めるなど、学会の発展にも貢献しました。


長義のもう一つの転機は、17歳年下の夫人・テレーゼとの出逢いでした。

ドイツ留学中にテレーゼに一目惚れした長義は、帰国後に結婚。

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長義はテレーゼと二人三脚で女子教育にも力を入れるようになったのです。

日本女子大学校で自ら教鞭を取ったり、雙葉学園の創立に尽力しました。

「化学の実験はやり方を間違わなければ、結果は女も男も同じ」

化学の世界に魅了され、多くの女性研究者・教育者が生まれたのでした。

言わずもがなですが、薬剤師に女性が多い理由も頷けますよね?

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長義の信念を伺わせるエピソードが伝わっています。

実験中に「習っていないから分かりません」と言う学生に、長義は「自分で考え、試し、そして失敗から自然法則を学ぶのだ」と厳しかったそうです。


使ったことのない旧式の調剤機器にも、みどりは怯みませんでした。

「やり切ってみせる・・・薬剤師の名にかけて!!」
「何事も挑戦・・・使ってみよう」

見事に長義の精神が生きているではありませんか!



Rp.27 見えざる難敵~エビデンスは洗脳に打ち勝てるか?~

(あらすじ)
ある日、3歳の女児が尿路感染による高熱で搬送された。ところが、その子は母親の意向でワクチンの定期接種を途中から受けておらず、個室に隔離となる。母親が予防接種を拒んでいる理由が、元薬剤師のママ友の影響だと知り戸惑うみどり。やがて母親は抗生物質すらも拒否するようになり・・・。

う~ん、今回の話はかなり根深いですね。

現役の薬剤師としては、我が事のように考えさせられました。


新聞やテレビ等、薬の副作用に関する報道がきっかけで不安を訴える患者さんは、はるか昔から存在していました。

なので、薬剤師は常に「不安な状況にいるかもしれない」と想定して患者さんに接する必要がありますし、マスコミにも目を配る必要もあるのです。

しかし、近年は「情報過多」の時代。

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特にネットを通じた情報は、「目を配れ」と言われても限界があります。

今回の一件も、みどりにとっては「寝耳に水」の出来事でした。


ワクチン接種を怠るとどうなるかは、冒頭で瀬野が解説しています。

ワクチン接種をしない
   ↓
免疫が付かないため感染リスクが高まる
   ↓
(もし感染した場合)
・治癒すれば免疫を獲得する
・治癒せず重篤化する可能性もある
・他の(免疫のない)患者に感染させる可能性が高い

ただ、病院にはワクチン接種を(したくても)できない患者も入院しているため、瀬野は集団感染を危惧していました(感染対策委員やったんか!)。

このように定期接種というのは、感染症の個人防衛以外に、集団防衛という社会的な側面もあるのです(だからこそ国が推進している訳です)。

アレルギー等やむを得ない事情があるならともかく、保護者の考えで接種を拒否されると、病院は他の患者の安全確保に追われることとなるのです。


どうすれば予防接種に同意してもらえるのでしょうか?

現時点での主治医・久保山の見解はこうでした。

・まだ説得する段階ではない(かえって頑なになる可能性大)
・ただ、まだそこ(完全洗脳!?)まではいっていない
・患者の不安の対象を否定すべきではない(討論ではなく対話を)
・医療者を信頼してもらうのが最優先(「洗脳」が完成する前が勝負)

今回、原作には登場しない「洗脳」という言葉をあえて使いました。

「医学的に適切とは言えない知識を盲信している状態」を表現する言葉が他に見つからなかったからです(気に障られた方がいたらゴメンなさい)。

久保山の方針に従い、みどりも母親に接しています。

母親「(自然治癒力を妨げてしまうから)必要以上に薬を飲ませたくない」
みどり「・・・そうですね。その認識は正しいです」
母親「え・・・」
みどり「でも自己判断が難しいことも多いので、何か不安があったらいつでも聞いてください」

「相手の主張をいったん受け止めた後、修正すべき点があれば伝える」

さすがはみどりです。

信頼の見返り(!?)として、予防接種を止めた理由がママ友の影響であることを母親から聞き出したではないですか!(お手柄です)


懸案の合同勉強会の打ち合わせのため、小野塚と会食するみどり。

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今回の話を聞いて予防接種に興味を持った小野塚は、小児科の勉強会(または自然派薬剤師との戦いの報告会)への参加を望むのでした。

「戦いませんよ!」

そう言いながら、かつて小野塚の元に押し掛けた「前科」のあるみどりのことですから、今回も「黒幕」の自然派薬剤師とのバトルは必至でしょう。

みどりが完全勝利するのか?

それとも思いもよらぬ事実を突きつけられるのか?

今後の展開から目が離せません。


今回の舞台裏は「EBM(根拠に基づく医療)」です。

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≪EBMとは≫
良心的に、明確に、分別を持って、最新最良の医学知見を用いる医療のあり方をさす。注意深く、十分に実施された医療研究で得られた証拠を採用することにより、意思決定を最大限に活用する医療行為の1つである。
※Wikipediaより抜粋

ここだけ読むと意味不明かもしれませんね。

要するに「エビデンス(科学的根拠)のない医療行為は認めない」ということであり、そのレベルも下記の通りランク付けされています。

≪エビデンスレベル分類≫
I a システマティック・レビュー メタアナリシス
I b ランダム化比較試験
II a 非ランダム化比較試験
II b その他の準実験的研究
III 非実験的記述的研究(比較研究・相関研究・症例対照研究)
IV 専門科委員会や権威者の意見

今回の「ワクチン・抗生物質忌避」についても、それを裏付けるエビデンスがなければ適切な判断とは言えません。

「ワクチンの接種で健康被害に遭った人が・・・いるから」
「抗生物質の投与で自然治癒力が妨げられた人が・・・いるから」

こんなお世辞にもエビデンスとは呼べない事実も、無知な素人には「変な」説得力を持ってしまうのが厄介なところです。


薬剤師の立場からもう少し解説しておきます。関心のある方だけどうぞ。

ワクチンは「能動免疫」といって、微弱または不活化した病原体を体に入れることによって人工的に免疫を付ける方法です。ただ、人工的と言っても本物の病原体が入って来ても免疫を獲得するプロセスは同じですし、生命を脅かしたり重篤な後遺症を生じさせる感染症を経験しない分、ワクチンは(稀に生じる副反応の危険性を差引いても)極めて有益な薬だと言えます。

抗生物質は一部の例外を除き、人間の免疫と協力して病原体を攻撃する薬です。なので、抗生物質を用いたから自己治癒力がつかないというのは誤解です。もちろん不要な薬を使用するのは論外ですが、解熱したからと言って中途半端に中止すると、感染症が再燃するばかりか、病原体が耐性を獲得して次回からは抗生物質が効かなくなってしまう可能性もあります。



Rp.28 情報の入り口~説得力の罠~

(あらすじ)
ママ友薬剤師の影響で娘への予防接種や抗生物質を拒否する母親。それを懸命に説得したみどりは「当たり前のこと」の情報発信の難しさを痛感する。そんな中で開催された予防接種の勉強会。そこで小児科医・久保山は過去の苦い経験を振り返るのだった。

どうやら、みどりとママ友薬剤師の「対決」はなさそうですね。

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なぜなら、回想シーンで「聖母」のごとく登場したママ友薬剤師は、情報社会の歪みの「象徴」に過ぎず、一個人を説き伏せたところで無意味だからです(瞬間湯沸かし器のみどりが成長した、というのもある?)。


予防接種の意義(集団防衛・EBM)については、前回解説しましたので詳しくはもう触れませんが、一点だけ明確にしておくべきことがあります。

「好き嫌い」と「良し悪し」は区別しなければならない、という点です。

麻しん、風しん、おたふくかぜ、髄膜炎、ポリオ、日本脳炎・・・

もし重篤化すれば手の施しようのないこれらの疾患が(一部に無効例・副反応例はあるにせよ)ワクチン接種により高率で予防できるのです。

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・人工物を体に入れるのは嫌
・自然治癒力を損なうのは嫌
・重篤な副作用の報告があるから嫌 etc

様々な理由から予防接種に「好き嫌い」が出るのは仕方がないとしても、完璧なものを求めるのは不可能です。

予防効果あり >> 予防効果なし >> 重篤な副作用あり

そもそも「人の造りしもの」なのですから。

20分でわかる抗菌薬のPK-PD~薬剤師にできること~


医療従事者にとって今回のエピソードは、「情報の入り口」を誤ると「当たり前のこと」すら耳に入らなくなる危うさを思い知らされる内容でした。


今回の舞台裏は「脚気論争」です。

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明治時代、「脚気」の原因を巡り、医学界で論争が起こりました。

現在でこそ脚気の原因はビタミンB1の欠乏と判明していますが、当時は「原因不明の死病」と恐れられていました。

そんな中、海軍医・高木と陸軍医・森は真向から対立したのでした。

高木兼寛(海軍) ⇒ 「演繹法」により「栄養」説を提唱 

森鴎外(!!)(陸軍) ⇒ 「帰納法」により「感染症」説を提唱 

結果的に高木は、理路整然と推論を組み立てた「文豪」森鴎外の前に「論争」では敗れ去るのですが、「成果」では圧勝を収めました。

つまり、ビタミンB1が豊富な麦飯を励行した海軍では脚気が激減したのに対し、白飯を提供し続けた陸軍では日清・日露戦争で合計3万人以上の脚気による死者を出してしまったのです。


「脚気論争」から我々が学ぶべきことは多い、と私は考えます。

科学を侮ってはいけないし、論理は必ずしも真実を導かないのです。

世の中には人知を超えることは計り知れずある筈。

なのに、「帰納法」で説得されると不思議に説得力を持ってしまう。

その罠にかからぬよう、我々はもっと謙虚であるべきなのです。


念願の合同勉強会は無事終了。

みどりが、小野塚とその元同僚・槙本から持ちかけられた提案とは?



Rp.29 自由と責務~薬剤師である意味~

(あらすじ)
小野塚らの提案は、薬剤師主催で市民向けに予防接種の勉強会を開催することだった。一方、水ぼうそうが陰性と判明し、無事退院となった姫奈(ひな)ちゃん。両親にも心の変化が起こり、勉強会への参加を決意する。いよいよ勉強会当日、会場にはあのママ友薬剤師の姿が・・・。

第29話から始まった「予防接種」編。

以降、第30話⇒休載⇒第31話⇒第32話と5ヶ月に渡る大作となりました。

みどりは、得体の知れぬママ友薬剤師と、どのような形で決着をつけるのでしょうか?

みどり・小野塚「・・・いざ」

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勉強会でみどりが発表した内容は以下の通りです。

子どもの予防接種のスケジュール
予防接種が必要な理由
ワクチンの種類
・ワクチン添加物の安全性
・日本がワクチン後進国となった経緯
・ワクチンギャップ(おたふくかぜ・麻疹・風疹・HPV)
ワクチンの副反応
※リンク先:NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会

詳細かつ最新のデータとエビデンスとトピックス・・・。

はっきり言ってコミックの域を超えた内容でした。

思わず作者の荒井ママレ先生にこんなレスを送ってしまいました!


さてこのお話、このまま「めでたしめでたし」となる筈がありません。

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そう、件のママ友薬剤師がスッと手を挙げ、こう発言したからです。

「予防接種は義務ではない————

         それをちゃんと伝えていただかないと」

ママ友薬剤師がわざわざ勉強会にやって来た理由。

「イメージ操作!?」(教祖かっ!)

そのことを瞬時に悟ったみどりでした。


こうなったら、もうみどりは止まりません。

勉強会終了後にママ友薬剤師を呼び止め、「対決」を挑みます。

「ただ私は、薬よりも人間の力を信じている。それだけです」

うそぶくママ友薬剤師に、みどりはひるみません。

「・・・それはわかります。私だって人間の治癒力も信じています。でも、社会やそこで暮らす人たちが病気や衛生問題と闘って生活していくそれを手伝うために、私たちは日々学んで知識をつけてきたんじゃないんですか?

————その役目を放棄するなら、薬剤師を名乗る資格はないと思います

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(ふっ、と冷笑し無言で去っていくママ友薬剤師)

放心状態のみどりの背後からお団子をチョップしたのは、瀬野ではなく小野塚でした(彼なりのねぎらい?)。


今回の舞台裏は「薬剤師の責務」です。

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今回のエピソードで思い出した体験談をご紹介します。

※個人情報が絡むため、多少脚色が入ります。

以前勤めていた病院で、予防接種直後に亡くなった小児がいました。

当時私は小児科病棟を担当しており、直接面識はなかったものの、その子の名前はよく知っていました。

すると、薬剤部長からこんな指示がありました。

「主治医に副作用報告(正確には「予防接種法に基づく副反応疑い報告」)をしてもらうように」


正直、私は困惑しました。

カルテによれば、その子は1~3回目の接種時に異常はなく、4回目の接種後に急変し、その日のうちに亡くなっていました。

ただし、死因とワクチンとの因果関係は一切触れられていなかったのです。

想像するに、その子は元々重度の基礎疾患があったため、ご両親は病状の悪化で亡くなったと考えたに違いありません。

ところが、今頃になって主治医から「ワクチンのせいで亡くなった可能性がある」と明かされたら、一体どんな気持ちになるでしょうか?

それがわかっていて、ご両親に相談を持ち掛ける主治医もまた辛い筈です。

私は薬剤部長に自分の率直な気持ちを伝え、再考を求めました。

すると、薬剤部長は厳しい表情でこう答えたのでした。

「それは薬剤師が判断することやない!責務なんやで」

※その後ご両親より承諾が得られ、報告は行われました。


正しく使用していても副作用は起こり得る、それが薬の本質です。

失われた命は取り戻すことはできません。

でも、それを活かし、未来の命を救うことはできるかもしれません。

それが副作用報告制度の「趣旨」であり、それに全力で協力することが我々薬剤師に求められている「責務」なのです。

「信条は自由だが、薬剤師の責務に私情を挟む余地はない」

そのことを学んだ一件でした。


一方、「洗脳」の解けた姫奈の母親は、娘に予防接種を受けさせる意思をママ友薬剤師に報告しますが、即刻LINEグループから削除されてしまいます。

「はぁ~(溜息)」

これまで信頼していた人物に関係を切られるという後味の悪さにもめげず、娘と大事な話(予防接種の話)を始める母親でした。


次回は、在宅薬局への転職を決めた小野塚がドラッグストアでやり残したことに取り組みます。


第6巻はここまで。

これ以降は、このブログ共々「第7巻」へと移ります。

TVドラマは大団円を迎えましたが、連載はまだまだ続きます。

今後とも本ブログをよろしくお願いします。


病院薬剤師って素晴らしい!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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