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SOUND PARTICLES社・創立者/CEOインタビュー

2005年、Sound ParticlesはNuno Fonseca氏の頭の中に遠い夢として存在し始めました。それはあまりに壮大な夢で、実を結ぶことはないように思われました。興味深い物語は、正に此処から始まります。1人の大学教授の発案によって設立された小さなスタートアップ企業が、どのようにしてハリウッドの主要スタジオで使われるソフトウェアを開発するようになり、それがAAAクラスのビデオゲームに組み込まれ、多くのサウンド・プロフェッショナルにとって欠かせないツールとなったのか。

このインタビューでは自身のキャリア、Sound Particlesの成長、そして3Dオーディオへの情熱についてNuno本人が語ってくれました。

(同社ウェブサイトに掲載されている内容の翻訳です。)

Web Summit Images: FES Agency / Elisa Freitas


  • サウンドに興味を持ったきっかけは?

もともとテクノロジーや音楽が好きでした。11歳位のとき、親にキーボードと音楽のレッスンを受けさせてくれないかと頼んだのです。数年後、自分にとって最適な仕事は何かという、よくある就職テストを受けたのですが、結果はエンジニアリングと音楽の両方が同スコアで出てきました。

  • 興味が職業になったきっかけは?

当時、ポルトガルにはオーディオに関する大学の学位はありませんでした(クラシック音楽を除く)。つまりエンジニアリングを学ぶことは、やむを得ない選択です。それでも、大学時代は常に両分野を探求しました。音響学、磁気記録、信号処理など、音声に関連するあらゆる授業を受け、同時に音大の授業(オーケストレーション、音楽分析、作曲)にも出席しました。

大学卒業後は地元に戻り、IT企業に就職しました。しかし音楽と音声の探求を続けたいと思っていたので、半ば狂気のようなオーディオ研究を遂行する時間確保のために、大学の教授になることを決めました。そして、いくつかの冒険(オーディオの本を書いたり、歌声ソフトを開発したり)を経て、Sound Particlesは誕生したのです。

  • Sound Particlesはポルトガルの小さな街、レイリアに本社を置く小さなスタートアップ企業です。そのような会社のソフトウェアが、どのようにしてハリウッドまで辿り着いたのでしょうか?

2005年頃、映画で目にする最も魅力的なビジュアル・エフェクトには、パーティクル・システムが使われていることに気付きました。火、煙、妖精の粉などを再現するために、何千もの小さな点を生成するCG技術です。そこで考えました。何千もの小さなサウンドを作成し、同じ原理で途轍もないサウンド・スケープを作れないかと。この時点では、単なる思い付きでしかなかったのです。

2012年に私が博士号を取得した頃、サウンドのためのパーティクル・システムというコンセプトを誰も考えていなかったので、空いた時間にSound Particlesソフトウェアの開発を始めました。

2014年、あるカンファレンスのためにロサンゼルスへ行くことになったので、Sound Particlesの製品説明と共に、2〜3週間後に訪れることも書き加えて、ハリウッドのエンジニア宛に5、6通のメールを送りました。最初に返事をくれたのはスカイウォーカー・サウンドです。社内でのプレゼンテーションに招いてくれたのですが、半年も経たないうちにワーナー、ユニバーサル、ソニー、パラマウント、フォックス、その後はディズニーとピクサーでもプレゼンテーションという結果となりました。

  • 会社の拠点をポルトガルに置くことについて、どう思っていますか?

グローバル化の時代ですし、誰でもどこでもソフトウェアを作ることができます。私たちにとってはハリウッドのプロとのコンタクトが重要で、そのために多くの旅をすることになります。勿論ハリウッドとの関係は、LAにいれば多少は楽ですが、ポルトガルには他のメリットがあります。例えば、自宅からオフィスまでの通勤に7分以上掛かると、今日の渋滞は最悪だと思ってしまいます...。

真面目な話、新しいビジネスを始めるのは常に大変だと思います。それがコーヒーショップでも、ヘアサロンでも、3D音声ソフトの会社でも同じです。ましてや場所がポルトガルでも、ロサンゼルスでも、カトマンズでも関係ない。次から次へと生じる問題に対応していかねばなりません。

  • Sound Particles社は、どのような組織ですか?オフィスでは、どう過ごしていますか?

大きく2つのチームに分かれています。ソフトウェア開発担当と、ビジネスサイド(営業、マーケティング、デザイン、事務処理)担当です。

普段の日は、各チームとのミーティングから始まり、前日の仕事や課題、当日の予定などを話し合います。そのあとは、私の考えを必要とするスタッフの間を行ったり来たりしながら半日を過ごします。新しい機能と、それをどうソフトに組み込むか議論したい開発チーム、広告やキャンペーンについて話し合いたいマーケティング・チーム、新しい画面表示について意見を求めるデザイナー、新しいバグを報告したい人達などです。

そして運が良ければ、自分の仕事をする時間が残っています。ソフトウェアの新機能に関するユーザーの話を書いたり、プロトタイプのソフトを書いたり、会社の業績を調べたり、外部からの電話に対応したり…。

  • この業界からは歓迎されましたか?競争は厳しかったですか?

業界の優しさには驚きました。ハリウッドというと、非常に閉鎖的なコミュニティを思い浮かべると思います。確かにスタジオに入るには事前登録が必要ですし、X線による身体と手荷物の検査や、IDによる入場審査もあります。それでも多くの場合はメールを送るだけで、会いに来ないかと招いてくれたり、Sound Particlesの件で話をしたいと言ってくれました。

それと、他のソフトウェア企業との関係も素晴らしいです。オーディオ・ソフト業界で働くことの辛さを、お互いに励まし合ったりしています。

  • Sound Particlesがサクセス・ストーリーとなった理由はどこにありますか?

まだサクセス・ストーリーかどうかは分かりませんが、自分にとっては成功です。私のようにテクノロジー、映画、サウンドが好きな人間にとって、スタジオに行き、素晴らしいエンジニアに会い、自分の作ったものがハリウッドの大作で使われるのを目にするのは、夢のような体験です。素晴らしいことです。Sound Particlesが明日で閉業してしまったとしても、私のようなサウンド・オタクにとっては最高の旅だったと思います。

  • Sound Particlesの創業において、何かを変えることが出来たとしたら、それは何でしょう?

もっと早く始めるべきでした。「ポルトガルの小さな町の誰が作ったか分からないソフトを、ハリウッドのスタジオが使わない」という少数の声に耳を貸さずに。

  • これまでの道のりで、予想もしていなかった体験があったら教えてください。

全てが素晴らしい体験でした…スカイウォーカー・ランチに初めて行った時や、ピクサーのスティーブ・ジョブズ・ビルに足を踏み入れた時、スタンフォード大学で講演をするためにキャンパスを横切った時、ディズニー・スタジオの敷地を思う存分楽しもうと、あえて一番遠いゲートから入場したこと、同じ式典でノミネートされたスティーブン・スピルバーグを生で見た時のことなど、今でも思い出します。

しかし一番驚いたのは、先ほども述べたように、トップ・エンジニア達の優しさでした。私のことを知る由もなく、それでもクレイジーな音響技術で私がやっていることを、彼らは知りたいと言ってくれました。

  • この10年で、業界の最も大きな新事項とは何だと思いますか?

3Dサウンドが最大の躍進だったと思いますが、そのインパクトが完全に理解されるのは、今後の10年間になると思います。

また、オーディオにおいて最も大きな課題はスペースです。オーディオを高品質で保存、録音、再生することが可能となりました。それでもコンサートやライブで生の音を聴くのと、スピーカーやヘッドフォンでは、まだ違いがあります。

私が初めてオーケストラの生演奏を聴いたのは、おそらく12歳の時でした。音響が抜群の会場で、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」で演奏が始まりました。あの会場で弦楽器の音に完全に浸った衝撃は、間違いなく一生忘れない体験となりました。オーディオを通して、あの時のような空間体験を皆さんに与えられたらと思っています。

  • 業界関係者から受けたなかで、最も役立ったアドバイスは何でしたか?

Randy Thom、Richard King、Paula Fairfield、Niv Adiri、Mark Mangini、David Farmer、Kyrsten Mate、Walter Murch、その他大勢の人たちと、メールも含めて何度も話をしたことを覚えています。彼らに何を助言されたかではなく、彼らに何を質問されたか(または彼らがその質問をした理由)の方が、時には大事であったりします。

私がもらった多くのアドバイスは、旅の道のりを築くために使うレンガのようなものです。最終的に大事なのは、働き続けることによって夢を追うことです。

  • 音の未来について考えたとき、最もワクワクすることは何ですか?

それは、やはり3Dサウンドです。

繰り返しになりますが、昔から3Dサウンドに情熱を持っていました。自分にとって、3Dオーディオの装置で騒音を聞くのは、ハンス・ジマーの曲を演奏しているオーケストラを聴くのと同じような感覚です(ちなみにハンス・ジマーは好きですよ)。しかし、音楽に3Dサウンドを適用できたことを想像してみてください。

実は、このトピックに関する新しいeBookをリリースしたばかりで、とても嬉しく思っています。この新しいeBookは、より多くの人に3Dサウンドを知ってもらいたいという気持ちで書いたのですが、同時に利己的な意図にて出版しました。もっと多くの人に3Dサウンドを使ってもらい、私自身がより多くの3Dコンテンツを楽しみたいのです。

Nuno Fonseca氏について:Sound Particlesの創立者/CEOであり、同社ソフトウェアの開発者でもあります。メイン製品は3DのCG技術に基付く音声ツールで、ハリウッドの大手スタジオやビデオゲーム会社でも使用されており、『ゲーム・オブ・スローンズ』『アナと雪の女王2』『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『アサシン クリード オリジンズ』等が挙げられます。

computer science、music technologyの分野で大学教授だった彼は「Introdução à Engenharia de Som(初めてのサウンド・エンジニアリング)」の著者、「Desenvolvimento em iOS(iOS開発)」の共著者です。オーディオ研究に関する論文も、20以上執筆しています。

AES、SMPTE、CAS、MPSE、AMPSの会員であり、Audio for Cinemaに関するAES技術委員メンバーでもあります。

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