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「離婚後の共同親権とは何か」読書会#5(前半) レジュメ

【前回】

<参考文献>
長谷川京子「共同身上監護ー父母の公平を目指す監護法は子の福祉を守るか」梶村太市・長谷川京子・吉田容子編「離婚後の共同親権とは何か」(日本評論社、2019年)83頁以下

共同身上監護とは

① 監護に関わる決定を共同にするもの(前回)
② 身上監護を共同にするもの(今回)

<身上監護とは>
 養育、子育てなどの言葉で表され、日々の子どもの心身を世話をする活動のこと。

共同身上監護の内容

① 交替住所
 別居する父母が、それぞれ自分の家で子どもの世話をするために、子どもに、父母の家を行き来させること。

② 養育の質
 どんな生活習慣で寝起きし、どんなしつけを受けるかは、父母が各自で行い、互いにやり方に干渉はしない。

③ 養育費
 父母各自が分担し、差額が生じた分を精算する。

④ 時間の分配
 なるべく均等に近づける。

⑤ 転居制限

共同身上監護の社会実験

(1)小さな実験
子どものためには協力し合える父母が近くに住み、互いの家を行き来する子どもに配慮しながら、養育を続けてきた例があり、父母の満足ばかりか、子どもたちの適応が良いと注目が集まった。

※ただし、子ども視点での評価の調査は十分ではないとされている。

<上手くいく条件>
① 父母の家が近い
② 父母間の関係が悪くなく、協力的
③ 父母双方が比較的裕福である
④ 父母双方に時間的ゆとりがある
⑤ 父母双方に精神的ゆとりがある

(2)大きな実験ー2006年豪州法
 大失敗となった。それはなぜか?

双方の親の関わりは子の健康な発達に必要・有益なのか

(1)共同推進論の根拠
 面会交流や離婚後共同親権は、「離婚後も、双方の親が面会や監護を通じて子どもに関わることが、子どもの健康な発達に必要である。」

(2)養育環境としての家族と子どもの適応
① 「血の絆」の問題
 実親か養親かを比較した研究によれば、実子か養子かで愛着に差はない。むしろ養子群の方が知的発達や教育上の成績において優れている。

※H.R.シャファー/無藤隆・佐藤恵美子訳「子どもの養育に心理学がいえることー発達と家族環境」(新曜社 2001)58頁以下
シンガーほか「養子家庭における母親ー乳児の愛着」
ボーマンほか「養子に登録された子どもたちの展望的・縦断的研究」
ティザード「養子縁組ー第二のチャンス」等

② 両性の親が必要か
 両性の親で育てられた子ども、ひとり親に育てられた子どももしくは同性カップルの親に育てられた子どもを比較。
⇒子どもの行動的適応・知的機能や心理的適応、性役割や性的志向の獲得に、家族構造の影響はない。

※H.R.シャファー/無藤隆・佐藤恵美子訳「子どもの養育に心理学がいえることー発達と家族環境」(新曜社 2001)58頁以下
ブルネスほか「両親のいる家庭とひとり親家庭で育った就学前児の性役割発達」
スティーブンソンほか「親の不在と性役割の発達」
マクファーレンら「家族の構造、家族の機能と青年期の幸せ」
フレークスほか「母親になることを選んだレズビアンたち」
ゴロムボックほか「親は子供の性的志向に影響を与えるか」

③ では、何が必要なのか
・思いやり
・共感的
・過度の押し付けや子供扱いを避ける
「子供の健全な心理的発達に関するに関する研究では、家族構造の変化から目を移し、家族の機能を考える必要がある。」「父親不在の家庭で育てられた子どもに関する最近の研究から得られたもっとも重要な示唆は、おそらく、こうした子どもたちが、まさに父親人物不在のゆえに、心理的に「劣っている」だろうという予想を捨てなければならないということだ」「大切なこと…は、研究結果が一貫として、ひとり親家族のほうが、両親そろってもけんかの絶えない家庭よりも適切に機能していることを明らかにしている。」(H.R.シャファー)

⑤ 父母の争いが子どもの心理発達への影響
・ 動揺の量が増える
・ 敏感になり、情動的に混乱する可能性が高くなる
・ 親子関係の養育の質の低下、不適応
・ DVの目撃、虐待被害は心身の発達を害する、障害
これらは、離婚の前後は問わない。

※前掲書のほか
 カミングスほか「家族の怒りと愛情の表現への幼児の反応」
 ジェンキンズ=スミス「夫婦の不和と子どもの行動問題ー不仲な結婚生活のどういう側面が子どもに悪影響を及ぼすか」
 ジャッフェほか「家庭内暴力の犠牲者と目撃者になった子どもの行動的、社会的不適応の類似性」
 マクロスキーほか「組織的家庭内暴力の子どもたちの心の健康への影響」
 ブロックほか「離婚に先行する子どものパーソナリティー展望的横断研究」など

小括

子どもの健康な発達のために、
① 適切に機能する親・親代わりは必要だが、必ずしも血縁上の父母でなくてもよい。
② 離婚した父母双方が関わることが有益だという科学的根拠はない。
③ 父母が争いながら互いに関わるより、一方の親が安定して一貫性のあるケアの方が優れている

離婚後共同親権推進派の詭弁

「父母が争いを克服できる」(高葛藤は下げられる)という詭弁。

<参考>
法制審議会家族法制部会第3回会議(令和3年5月25日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00068.html

「高葛藤は下げられる」と相次いで参考人が証言。

<長谷川弁護士から>
① 現に争いがある限り、「争いを克服すれば」という仮定条件を付しても有害であることに変わりはない。
② 「争いを克服する」方針は、被害の訴えを抑圧する政策と結びつく。
③ 司法や心理士のその場限りの関わりは無力である。

⇒子どもを「欺く」ための方便である。

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