【離婚後共同親権】”子の意思”はどのように反映されるべきなのか(1)「家庭裁判所調査官が考えていること」



ご質問をいただきました。
別居・離婚時の面会交流について、子の意思を監護者の意見が反映されるべきではないか?というご意見です。

監護者というのは、親権の一内容をなすものであり、民法820条以下に定めがあります。講学上は「身上監護権」といいます。

<民法820条>
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

<身上監護権の内容>
①子が身分法上の行為をするときの代理権
 (例:737条/未成年の子が結婚をする際の同意権)
②居所指定権(821条)
 (住む場所を決める権限)
③懲戒権(822条)
 (しつけをする権限)
④職業許可権(823条)
 (職業につくことを許可する権限)

<参考>アディーレ法律事務所HP/親権と監護権
https://www.adire-rikon.jp/about/child/shinken.html

つまり、監護者の権限は、親権の中から子の財産管理権が外され、条文上認められた身分法上の行為の代理権を有するに過ぎません。

残念ながら、この中には面会交流に関して、子に代わって意見を表明(代理)する権限は、監護者には認められていませんので、じょんさんがおっしゃるようなことを法律上実現するのは難しそうです。

では、どのようにして、裁判所は子の意思を汲み取ろうとしているのでしょうか。

この実務書に基づいて説明いたします。

【留意事項】
以下の説明は、特にことわりがない限り、次の出典を参照しています。
〔出典〕金子隆男「家庭裁判所調査官の役割」講座家事事件手続法(上)(日本加除出版)P.409~428

※金子隆男・・・那覇家庭裁判所調査官

1、そもそも子の意思の反映を法律はどう考えているのか

面会交流事件などで、子の意思を反映する法律上の制度は、2011年に成立した、家事事件手続法によって定められています。

重要な条文は、次の条文です。

<家事事件手続法65条>
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。

(条文の趣旨)
父母の間で紛争があってもその紛争渦中に未成年の子が置かれている場合に、子が事件解決の行方により大きな影響を受けることは避けがたいところ、感情の渦に巻き込まれている父母に子の利益を代弁することが期待できないときがあるため、事件解決の手続の中で、子の意思の把握に努めさせ、子の年齢や発達の程度に応じて、その意思を考慮し、子の立場に配慮した手続運営を行わせ、子の福祉への配慮を実現しようとするものである。
〔出典〕法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会第9回議事録P.37~43、部会資料8、P.40~42

2、子の意思の把握方法

上記の家事事件手続法65条によれば、子の意思の把握方法は、次の3つに分けられます。

①陳述の聴取
②家庭裁判所調査官による調査
③その他適切な方法

このうち、③については、紛争性が高くない事案で、子の年齢が比較的高く、子が自らの意見を十分表明できる場合に、子から陳述書の提出を受けたり、書面紹介を行ったりする方法が取られるようです。

しかし、やはり一番主流を占めているのが、②の方法です。
子の年齢を問わず、子の意向や監護状況を調査するよう命令が出され、専門的な見地から、子の明示的な言語的表現だけではなく、非言語的表現等も評価することも実務上盛り込まれています。

3、家庭裁判所調査官による調査方法

次のような方法が組み合わせて実施されています。
①面接
②家庭訪問
③家庭裁判所児童室における観察
④発達検査や心理テスト

4、子の意向を把握する調査

おおむね10歳以上の子を対象とすることが多いようですが、実務上、6歳以上から意向聴取を行っているようです。

金子調査官の説明によると、子の年齢に応じ、次のような観点から意向聴取を行っている、とされます。

<約6歳~9歳>
・社会性が発達し、ルールに従った行動ができる
・具体的な事柄であれば抽象的思考が可能
・良い、悪いの両極端な評価をする
・現実離れした空想を抱く
・父母の問題を子自身の問題と分けて考えることが難しい
→父母の問題を自分のせいだという感情を持つ(自責感情)
→父母双方とも裏切れないという葛藤(忠誠葛藤)
→自分が良い子に振舞えば、父母の関係が戻る(和合ファンタジー)

<~12歳くらいまで>
・父母と心理的距離を置けるようになり、現実認識力が向上する
・良い、悪いの二分法で物事を見る傾向がある
・対処困難な場面は父母に依存し、忠誠葛藤を起こす
・一方の親と強く結びつく
→他方の親が全て悪いと考えて、他方の親に敵意を示す
・塾やスポーツ活動の課外活動が増える時期

<12歳~14歳>
・具体的な事象を離れ、抽象的、論理的思考が徐々に可能
・父母を客体化して捉える
・試行錯誤の最中で、言動が一貫しない

<15歳~>
父母から離れ、親とは別個のアイデンティティが確立
家事事件手続法上、一部の審判事件及び親権者指定等の裁判において、その陳述を聴くことが必要と定められている。

【重要】でも、実際のところはどうなのか

こうして見ると、いかにも家庭裁判所調査官って丁寧に調査しているんだな。。。と感じる方もおられるかもしれませんが、内実はピンキリです。

モラハラ夫のマンガでおなじみの、大貫憲介弁護士(東京第二弁護士会)が、次のような話をご紹介されています。

大貫先生は「面会原理主義」と揶揄されておられますが、一般には「原則面会交流実施論」という名前で知られています。

この悪名高き強引な面会交流のお先棒を担いでいるのが、家庭裁判所調査官による「子の意向調査」だったりするわけです。

当事者の声を直接伺ったお話として、このようなツイートもありました。

調査官調査が、かえって円滑な離婚協議を阻害している実態すら浮かび上がってきます。

※面会交流原則実施論については、別途記事を作成する予定です。

家庭裁判所調査官の意見書を裁判官が採用しないことも。。。

本来なら、専門的見地から行われた家庭裁判所調査官の意見書を、裁判官は重視して手続運営がされるべきでしょう。

ところが、上記の「面会交流原則実施論」の悪弊が指摘されるにつれ、意見書を採用しない判例が現れました。(東京高決平27.6.12)

この事案は、DVや高葛藤が事実認定されている元カップルの間の事案で、別居親(父親)が面会交流を申立て、調査官が賛成する意見書を作成していましたが、裁判所はDVや高葛藤を理由にこれを否定し、間接交流のみを認めました。

※後日、この判例に関する記事を作成する予定ですが、以下の連続ツリーにまとめています。

ここまでで長くなってしまったので、家事事件手続法で制度化された、もう1つの子の意思の代弁手段、手続代理人制度について、別記事でご紹介していきたいと思います。

【注記/謝辞】本記事でご紹介したツイートについて
紹介したツイートのうち、大貫憲介弁護士のものについては、法律家としての公共の発言のものであり、著作権法32条の引用にあたるため、本人へのご承諾を経ず掲載していますが、こりすとるさん @1374crst とじょんさん @RTAdvKL7C62ELqc のツイートの紹介にあたっては、プライベートの発言と判断し、それぞれ本人のご承諾をいただいて掲載しています。
お二人のご快諾、心よりお礼を申し上げます。

【次回】

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