MCバトル

CLを勝ち抜くのに必要なのは、MCバトルで見られるような即興力?

要約すると
・ホッフェンハイム対マンチェスター・シティのマッチレビュー。
・2人の指揮官のリアルタイムでの戦術合戦がMCバトルを彷彿とさせ、超絶面白かった。
・CLレベルの大会では、用意してきたプランだけで勝ち進むのは困難だということ。

筆者:森琢朗(ツイッター・・・https://twitter.com/super_kotatsu
四国の大学に通う19歳。小学生の頃から今までサッカーをプレーしている。大学1年の春休みに友達に勧められてfootballistaの3月号を購入し、サッカーの戦術的な魅力に本格的にハマる。どのチームも基本的に応援しているが、少しだけ贔屓しているのは某油さんがオーナーのイングランドのクラブ。
Qolyやプレミアリーグパブ、Vektor等に寄稿もしている。この世で苦手なものトップ3は、野菜、幽霊、虫。

note・・・https://note.mu/moritakuro/n/n7d941bf78253


稀代の戦術家同士の激突

日本時間の10月3日、チャンピオンズリーグのグループステージ第2節、ホッフェンハイム対マンチェスター・シティが行われた。ユリアン・ナーゲルスマンとジョゼップ・グアルディオラの両指揮官は共に世界を代表する監督であるが、念のため軽く紹介しておきたいと思う。

前者は、プロキャリアがほとんどないまま選手生命を断ち2016年にブンデスリーガ最年少の28歳にしてホッフェンハイムの監督になった新星。ドローンを使った練習などで常に話題を呼ぶ。なお、来季からRBライプツィヒで指揮を執ることが決まっている。

後者は、バルセロナで輝かしい選手時代を送り、監督に転身してから初めて率いたバルセロナでいきなり3冠を2度達成するなど、指揮官としても世界レベルの才能を発揮している。

選手時代は対照的であるが、監督としての成績は共に素晴らしい両者。非常に論理的な戦術を展開するチーム同士の対戦は大きな注目を集めた。
今回のマッチレビューでは、両チームの「即興力」が表れたシーンに絞って分析してみた。ぜひ最後まで読んでほしい。

失点シーンから逆算し守備を修正したナーゲルスマン

試合開始から50秒と経たないうちにホッフェンハイムが先制し、ホームの利を活かして有利に試合を進めるかに思われたが昨季のプレミア王者シティも黙っていない。7分にD・シルバがホッフェンハイムのインサイドハーフを務めていたグリリッチュのマークを剥がして降りてきてボールをもらい、急所を突くようなスルーパスをサネに通すと最後はアグエロが押し込みすぐさま同点に。

実はこの試合、ホッフェンハイムはシティの2CBに自由にボールを持たせる代わりに3トップ中央のサライがフェルナンジーニョへのパスコースを切り、WGの2人はサイドバックへのプレスを担当していた。

なのでD・シルバが3トップの背後に降りてきた時にどう対処するかは決まっておらず、プレスが曖昧になった瞬間を突かれたのだ。もちろん、ホッフェンハイムの守備ルールを利用した彼のフットボールIQも褒めるべきではあるが。

その後もD・シルバが降りてきた所を捕まえきれない事が何度か続いたホッフェンハイムであったが、前半のうちにきっちり修正。インサイドハーフが彼の動きにマンツーマンで付いていくことでプレーを制限することに成功した。

結果的にD・シルバはタッチライン際に逃げる回数も増え、ある程度シティのキーマンを抑えられていたように思える。

シティのハイプレスとホッフェンハイムのビルドアップ

決してそれ自体の回数は多くなかったのだが、ホッフェンハイムは前半、ビルドアップの際に2CB+1SBを最終ラインに残して片方のSBに高い位置を取らせ、そのサイドから縦に速い攻撃を仕掛けていた。35分には内→外→内→外→内のような流動的アタックで決定機を演出。明確な攻撃の形が見え、シティの牙城を再度崩しかけた。

しかし、そこはさすがシティとでも言うべきだろうか。3分後に上記と同じビルドアップをゴールキックからショートパスで仕掛けようとしたホッフェンハイムに、前線から3トップ+インサイドハーフが間合いを詰めてロングキックを強制的に蹴らせることに成功。クリーンな組み立てを阻害したのだ。

だが、これでナーゲルスマンの引き出しが無くなったわけではなかった。サイドからのビルドアップが対策されたことが分かると、後半にはサリーダ・ラボルピアーナ(アンカーが2CBの間に降りるシステム)を駆使して両SBを上がらせ、丁寧につなぎながらもSBがWGを内側から追い越す動きなど、攻撃に工夫が見られた。

中盤での数的優位の作り合い

この場面が試合の山場だと断言しても良いだろう。上記の通り、ホッフェンハイムはシティの2CBにボールを持たせるが、フェルナンジーニョと2SBには自由を与えていなかった。これによりシティはサイドアタックの回数が増えるものの、ブラジル代表MFを経由した中央からの崩しが手薄になっていた。

だが64分、グアルディオラがついに動く。CBのオタメンディを下げてストーンズを投入。ビルドアップ時には3-2-2-3のようなシステムに変更し、フェルナンジーニョとストーンズを横並びに配置し、相手FWサライに対して2対1の数的優位を作り出した。
これによりサライは、フェルナンジーニョとストーンズのどちらを見ればよいのか迷ってしまい、なかなか奪いに行けなくなった。また、ホッフェンハイムの両WGも同様にシティの3CBの両脇をどのようにチェックすればいいか、判断が遅れていた。

しかしその約5分後にはドイツ産の若手監督がしっかりと対応。両WGをシャドウの位置に絞らせて、プレス時のフォーメーションを4-3-3から4-3-2-1のクリスマスツリー型に変更し、サライ+2シャドウの選手が再び数的優位を作り出して3人でフェルナンジーニョ&ストーンズコンビをチェック。3CBの両脇に位置するウォーカーとラポルテの優先順位を1段下げて、再びサイドから攻撃を経由させる。

アグエロやD・シルバ、B・シウバらが降りてきて組み立てを助けるという個人的判断に至るまでは、中央からのビルドアップを封殺していた。

CLレベルの試合を勝ち抜くには「即興力」が鍵となる?


話は一転するが、多くの人がHIPHOPやラップのことを「悪い人の音楽」とか「裏社会の音楽」と考える一方で、ラッパーたちがお互いにその場の思い付きで言葉を投げかけ合うMCバトルが今大流行している。

この戦術的ビッグマッチの主な要素は、MCバトルに必要不可欠な「即興力」であったように感じた。

「相手がこう来ればこうやり返す」といった風に、相手の出方に応じた策をその場で練り出し次々に出していく。もしかすると、相手の出方も予想済みだったかもしれないけれど。

筆者自身が大好きということもあるが、この試合を見ているとMCバトルを思い出さずにはいられなかった。試合後の一眠りから目を覚ますと、私はスマートフォン片手にMCバトルを見まくり、試合の余韻に浸っていた。

まるで、UEFAチャンピオンズリーグという名のDJがビートを流し、ナーゲルスマンとグアルディオラという2人のラッパーがそのビート上で対話し合い、選手という名のリリックが躍動しているようだった。
それは言い過ぎかもしれないが、2人の監督はピッチ上で繰り広げられる戦術でまさに「会話」をしているようだった。

またまた話がそれてしまうが、テレビ朝日で放送されている「フリースタイルダンジョン」でも、Rー指定とGADOROのバトルで、GADOROが明らかに考えてきた”ネタ”で韻を踏みまくったのに対し、Rー指定は自身の持つ絶大な即興力で対応し見事に圧勝。MCバトルにおける即興の重要さを改めて知らされた。

MCバトルでは”ネタ”だけでなく、その場で考え付いたフレーズをぶつけることが重要であるのと同様に、チャンピオンズリーグのようなワールドクラスの大会を勝ち抜くには、用意してきた自分たちのゲームプランA+日本とベルギーのマッチレビューで林舞輝氏が言っていたような抗プランB、さらには監督自身が持つアイデアや選手交代を駆使しつつ、相手のどのゲームプランにも対応できる「抗々プランB」とも呼ぶべき即興性が必要になってくるのではないだろうか。

今回紹介した2チームのようなゲームプラン+即興力、さらにはジダンが率いたレアル・マドリードに代表されるような、特定のゲームプランを持たないような「ある意味での即興力」などに注目してもサッカー観戦の面白さの幅が広がるかもしれない。


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