高市発言のゆらめき

 私が信じられないのなら、私に何も聞かないでほしい。刺々しい発言で物議をかもした高市早苗経済安保担当大臣の捨て台詞のような発言はようやく撤回された。「重く受け止める」という"軽口"がいつものように付いていたが、謝罪はしなかった。身内の自民党議員でさえも看過ならぬと口並み揃えて高市氏を"重く"なじっていた。

 ▼最初から台詞を考えていたのか、それとも野党議員の追求に我慢ならず反射的に飛び出てきたのか。あるいは卑劣な野党に攻撃されながらも、それを回避して強い切り返しをする自分を演じたかったのか、心中を察することは容易ではなさそう。事実、発言を取り消しても謝罪はかたくなに拒んだ。撤回という選択肢も、身内に非難されることがなければきっと選ばなかっただろう。弁明も、質問されても信じてもらえないのなら、納得のいく答弁はできないと思うと、長くもない言い訳を難解に噛み砕いた

 ▼「五十歩百歩」という言葉がある。これを分解して「五十歩」は人が50回歩むこと、「百歩」は100回歩むこと、などといくら述べ立てても、「五十歩百歩」の意味を説明したことにはならない。高市氏の弁明はまさにこれを説明したようなものに感じられた。口先八丁も結構なことだが、自分の吐いたセリフの後始末くらいはつけてもらえぬものだろうか

 ▼そんな勢いだけは良いセリフに対する身内の反応は冷ややかというか、ある意味常識的なものが多かったことに少し、安堵した。末松信介予算委員長は、閣僚が議員の質問権を揶揄したり、否定することはまかり通らぬとピシャリ。与党席からは、与党の立場からしても遺憾であると言い放たれた。稚拙な国会運営が長年続いていた中、久しぶりに良識の府の「良識」を発揮したような報せに聞こえた

 ▼もちろん、問題は何一つ解決していない。大臣の発言がどうこう、謝罪を求めようとも論点は霞んでいくばかり。本当に知りたいのは結局、あの時代に行政による放送への介入、あるいは圧力はあったのか、なかったのか。身内が身内を調べても都合の良い報告しか上がって来なかろうが。どうも与野党ともに責任者の発言ひとつあげつらって問題を矮小化しているように感じとれる。日々の報道に目を通すたび、違うんだ、そこじゃないんだよと小さくつぶやく

 ▼問題発言とうわべの撤回。今後も繰り返されそうな予感がする。

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