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『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』(ゲイブ・ブラウン著)から

ようやく読了。むちゃくちゃおもしろかった。ただ全部理解しきれてるかは怪しい。何度か読みたい。以下、印象に強く残っているところをメモ。(引用が長すぎで申し訳ない)

土の健康の5原則

1)土をかき乱さない
2)土を覆う
3)多様性を高める
4)土のなかに「生きた根」を保つ
5)動物を組み込む

One more thing…

6)背景の原則

2018年にこの本がアメリカで刊行されたあと、じつは本書の「土の5原則」に新たに“第6の原則”を追加した。おそらくはいちばん大切な「背景の原則」だ。
これを追加したのは、あまりに多くの人々が、それぞれの背景”を無視して、畑や牧場や家庭菜園を営んでいるからだ。昨今の農業では気候に合わない作物を育てようとしている農家が目立つ。環境に合わない家畜を育てている牧場も多い。これでは最初からうまくいくわけがない。私たちは勝手な意志を自然に押しつけるような真似をしてはならない。“自然に反する”のではなく、“自然に沿ったやり方を学びべきなのだ。

「日本版に寄せて」から

それなりに長く野菜を育てていて、不耕起に影響を受けて参考にしていた。ただ、この中で一番わかっていなかったことは、4)土のなかに「生きた根」を保つこと。畑(の土)は、休ませないといけないような気がしていた。人間が睡眠をとるみたいに。休息の時間が必要なのと同じように。いつも何かを育てていたら、土の養分が奪われてしまう、というイメージを漠然と持っていたと思う。でも、そうではなかった。

炭素が果たす重要な役割(P76)

どうすれば地中により多くの炭素を引き入れられるのか?目の前に一面の農地が広がっていると想像してみてほしい。春、気温が上がって太陽が空高く昇るようになると、種は発芽し、生き延びるために水や養分を探し、地中に根を張っていく。ジョーンズ博士によると、「植物は空気中から二酸化炭素を取り込み、水と結合させて単糖類をつくり出す。この”光合成産物”と呼ばれる単糖類は、生命にかせない成分で、植物はこれらの糖類を多種多様な化合物に変容させる。化合物の多くは植物自身の成長に使われるが、相当量は根の先端部(根端)に届けられ、”根滲出物”として地中に漏れ出していく」。
なぜ植物は、この滲出物(ジョーンズ博士はこれを「液体炭素」と呼ぶ)を地中に漏れ出させるのか?もちろん微生物に食べさせるためだ。無数の生命体がこの液体炭素を食料源として使っている。その見返りとして、植物の根は養分を受け取る。陸の生命の95パーセントが地中に棲んでいることを考えれば、この両者の関係がいかに重要か実感されるはずだ。さらに、博土がウェブサイトで説明しているとおり、「微生物の活動は土壌の団粒化もうながし、構造を安定させ、通気性、水分浸透、保水性を高める。植物と徴生物の関わりがうまく機能すると、地上や地中のあらゆる生物が恩恵を受けることになる」。
作物残造、動物の葉、推なと、地表に敷きつめられるタイプの有機炭素もある。これら、形ある有物”にも多くのメリットがあるけれど、これらはいずれすべて分解して、二酸化炭素を出する。一方、根から滲出する液体炭素は、地中深くに棲む微生物群の主たる炭素源となり、土理の形成の要となる。これらの微生物の存在は、腐植土の生成に欠かせない。土壌が地中深くから強化されると、周辺の水域の機能も向上し、その効果は農場から遠く離れた川や海にまで広がっていく。
緑の草に覆われた健康な土のなかでは、地中の微生物に供給される炭素の量はほとんど無限大となる。声を大にして言いたい――この構図こそがカギなのだ。ジョーンズ博士によると、生態系の「点」と「点」がひとたび結びつけば、肥沃な表士の形成は息を呑むほどのスピードで進む。光合成でとらえた太陽エネルギーが、液体炭素として地上から地下に流れることで、微生物が刺激され、ミネラルの可溶化が進む。新たに溶け出たミネラルの一部は、地中深くの層をスピーディーに腐植化し、残りのミネラルは植物の葉に戻り、光合成を加速し、単糖類の生成を増やす。このようにプラスの反応のループが起こることで、土壌の生成プロセスはさながら永久運動のようになっていく。
これまで長いこと、植物の根は、徴生物を引き寄せる落出物を“受動的に”放出しているにすきないと信じられていた。でも、最近わかってきたところでは、じつのところ、植物は動物と十分変わらぬ計算高さをもって、生存に必要な養分を獲得しているらしい。これぞ”植物の知性”。必要とする養分を自力で手に入れるには、その養分を可溶化してくれる微生物を引き寄せるしかない。そのプロセスはまだ完全には解明されていないけれど、およそこんな感じだと考えられている――植物が滲出物を通して”この養分がほしい”というシグナルを出し、波長の合う微生物がそれに反応する。さらにほかの養分を必要とするなら、今度は別のシグナルを出し、また別の微生物の注意を引き寄せる。コミュニケーションはあっという間に複雑化するけれど、自然の生態系はそれを見事に成し遂げてしまう。ある植物が特定の養分に向けてシグナルを出す横で、別の植物は別の養分にシグナルを出す。こうしてシステムは完璧に響き合うのだ。
ジョーンズ博士の説明によると、たとえば、窒素肥料をやりすぎると、この微生物と植物の結びつきが抑えられてしまう。植物も微生物も、お互い無関係に窒素を使うので、相互の大切な結びつきが築かれない。その後、植物がもっと成長したとき、不可な養分を得るために微生物の力を借りようとしても、もはや助けを呼ぶことはできない。結果、収量は下がる。このメカニズムがわかったことで、以前、4年間にわたって化学肥料の比較テストをしたとき、なぜあのような結果が出たのか、その理由がよく理解できた。化学肥料をやらないことで、私は知らず知らずのうちに、この植物と微生物の結びつきを強化していたのだ。
健全な根圏では、微生物と植物の根は、あっと言う間に双方向のコミュニケーションを築く。その交付の量と多彩さは、ほとんどめまいがするほどだ。しかも、根圏についてはまだまだわからないことが山ほどある。科学者たちによれば、地球上に1兆種いると推定される微生物の90パーセントがまだ発見されていない。メタゲノム解析という技術をつかった最近の研究でも、細菌の分類として、あらたに20もの「門(系統)」が追加されたという。ちなみに、地球上のすべての昆虫を集めても(あるいはすべての脊椎動物を集めても)、分類上はたったひとつの「門」にしかならない――と言えば、微生物の世界の途方もない大きさが少しは伝わるだろうか?これらのまだ存在すら確認されていない地中の微生物たちのあいだをあらゆるシグナルが行き交っているわけだから、何十億年もかけて形成されてきた地中の宇宙がどれほど壮大な研究領域であるか実感されようというものだ。

カバークロップによる炭素循環(P169)

カバークロップを植えるとどうなるかというと、畑の炭素量が増える。炭素がいかに重要か、そして、植物の光合成によって液体炭素がどう循環するかは、第3章で解説したとおりだ。葉の面積が大きければ大きいほど、それだけ多くの日光が“キャッチ”され、光合成が増える。土壌生態学者のクリスティーン・ジョーンズ博士はこれを「光合成能力」と呼ぶ。この光合成能力のためにも、カバークロップは1~2種類ではなく、何種類もまとめて播く方がいい。何種類も混植することで薬のサイズや形が多様になり、草丈にも幅が出るので、日光に触れる葉の面積が増える。それによって、より多くの炭素が地中に送り込まれることになる。
また、植物が太陽エネルギーを糖類に変換する速度を「光合成速度」と言う。この速度は、湿度、気温、光の強さ、地中の徴生物による炭素の需要、菌根菌の有無など、さまざまな要素によって左右される。
植物の光合成能力と光合成速度が上がれば、土壌の生態系はより健康になり、新しい表土の形成も早まる。なかには、光合成でとらえた炭素の最大70パーセントを根滲出物として地中に送り込む植物もあるという。根滲出物は、地中の炭素の供給源となるだけでなく、窒素固定菌の活性化もうながす。炭素レベルが上がると土壌の構造がよくなり、窒素が固定される条件が強化されるのだ。これらの養分があるかないかで、作物の収益性が大きく変わってくるのは言うまでもない。
私はよく農業地帯を運転しながら、この循環に思いを馳せる。目の前には、収穫が終わって空っぽになった畑がどこまでも延々と続いている。やっかいなことに、多くの農家は収穫後に除草剤を散布するので、せっかく芽吹いてくれるはずの芽もついぞ育つことはない。かくして、ほとんどの慣行農家の農地は、1年のうち6~9か月にわたってむき出しのまま放置されてしまう。そして、緑の植物が存在しなければ、光合成も起こらず、日光のエネルギーが地中に貯留されることもない。二酸化炭素の回収も、炭素の地中への固定も行われない。昨今の農業の慣習は、やることなすことすべてが自然に逆らう形となっているのだ。
残念なことに、多くの農地では、それまでの農法の影響で土壌生物が大幅に減少してしまっている。耕起、化学肥料、培品目の少なさ、さらに毎年数か月にわたって何も育てていないなど、すべてが合わさって、地中の生態系の機能不全を招いている。牧草地も、過放牧や放牧不足、多様性の矢如などによって同じような状況がつくり出される。健全な土壌生態系を支えられる数の土壌生物を確保するには、多様な植物をそろえるしかない。この点からも、やはりカバークロップの混植は望ましいのだ。
もし、すべての農家が穀物の収穫後に必ずカバークロップを植えるようになったら、どれだけ世界は変わることだろう。このシンプルですぐにできる行為ひとつで、世界中の農地全体の光合成能力が向上し、それは地球環境の回復に向けた大きな大きな一歩となるはずだ。

先入観を持たない(P264)

前向きに学ぶ姿勢を持つこと。いったいどれほどの人間に言われたことか!「まったくわかってないな、ゲイブ。そんなことできやしない。無理だ」。それは彼らからの視点にすぎない。私の視点から見れば、彼らは学ぶ準備ができていないだけ。「できると思えばできるし、できないと思えばできない」とはヘンリー・フォードの名言だ。私の講演に参加する人の大半は、こちらが口を開きもしないうちから、すでに心が決まってしまっている。私が有利だったのは、町育ちで、農場に生まれ育たなかったこと。農家になったとき、自分には先入観というものがひとつもなかった。開かれた心を持ち、学ぶ準備があった。残念ながら、最初は従来型のモデルを学んだので、一度すべてを捨てて、学びなおさなければならなかった。ドン・キャンベルが教えてくれた言葉を思い出そう「小さな変化を生み出したいなら、やり方を変えればいい。大きな変化を生み出したいなら、見方を変えなければ」。

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