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「恐怖指数」 VIXは不正に操作できるのか(equilibristaコラム)

先日、「VIX指数に不正操作の疑い、米当局が調査開始」 という記事が一部投資家の間で話題となりました。

VIXは日本でも「恐怖指数」と呼ばれ、相場が大きく変動する際に、この単語を聞いたことがある方も多いと思います。

そもそもこの指数を不正目的で操作出来るものなのでしょうか。出来るとすれば、その裏では何が起きていると推測されるのでしょうか。

今回はオプションを普段触らない投資家の皆さんも、Google検索を駆使しながら読み進めると、きっと「面白い」と感じられるような、そんなコラムを@equilibristaさんにご提供いただきました。(FOLIO編集部)

「VIXを操作したい心」

任意の金融商品の価格は、操作することが可能です。もっと言えば、任意の金融商品の取引は、価格に影響を与えます。一見価格を固定しているような商品、例えば定期預金であっても、あるいは投資信託であっても、その向こう側で、金融市場の価格には影響を与えます。そして一般的には、意図の有無にかかわらず、そうして価格を動かしても、特に儲からないばかりか、損をする場合は多いわけです。

例えば大きな金額で株式を買わざるを得ないとき、取引は価格を押し上げてしまいます。金額が小さければ、あるいは時間をかけてゆっくりと取引すれば、もっと安く買えた可能性は高いのです。例えば大きなサイズでオプションを売らざるを得ないとき、取引は価格を押し下げてしまいます。サイズが小さければ、あるいは時間をかけてゆっくりと取引すれば、もっと高く売れた可能性は高いのです。高く買ったら損です。安く売ったら損です。

ですから、価格操作によって利益を出したいと思うとき、自分以外の他人を動かす必要が出てきます。よくあるシンプルな方法は、例えば以下のとおりです。まず株をじゃんじゃん買って、価格をガンガン動かして、市場参加者の注目を集めます。この注目を集めて、そして同じ方向に後追いする投資家を集めることが肝要です。そうしてマグロの、あるいはイナゴの集団が形成されたと思ったら、真っ先に自分が売るのです。もちろん買った価格よりも高く。

といった典型的な、価格操作によって利益を生み出す基本を踏まえた上で、あらためてVIXについて学ぶと、興味深い事実が見えてきます。そもそもVIXとは、どのようなものだったか、おぼえていますか。まずオプションまで戻りましょう。

例えばブラックとショールズによるオプション価格の公式をよく見てみると、その中に、あまり日常的には取引しないアイテムが、たったひとつだけ含まれています。そう、原資産のボラティリティです。そこにオプションの個性があります。言い換えれば、オプションと他の金融商品を上手に組み合わせて、その固有の要素だけ取り出してみると、オプションとはつまり、ボラティリティを取引する金融商品と言えます。

さて、そのようにしてオプションと他の金融商品(実は他のオプションですが)を組み合わせて、ボラティリティのみを抽出したものが、乱暴に説明するとVIXです。もちろん、例えばさまざまな満期であるとか、あるいは確率分布であるとか、細かく言えば関連する確認すべき点もありますが、大雑把にはそういうことになります。つまりVIXとは、オプション価格から見た、市場参加者が取引するボラティリティ(*1)なのです。

さて、こうしてVIXが生まれると、何かができた後には、つい屋上屋を重ね(*2)たくなるのが人間てものです。まず我々は、VIXの上に乗る先物取引をこしらえました。うん、つくれそうだ。VIXが上がると上がる、VIXが下がると下がる。そんな先物。そして次に、そうした先物による指数をこしらえました。うん、つくれそうだ。その先物を持っていタラレバ。最後に、その先物指数に連動するETFをこしらえたのです。うん、つくれそうだ。そうした先物を入れておく箱。

ETFは実に便利です。なぜなら株式を取引するのと同じプラットフォームに乗って、株式ではあり得ないような変わった商品さえ、その手続きを管理できるからです。現在では、さまざまなゲテモノETFが人気を博していますが、VIXにトラック(連動)したり、あるいはレバレッジしたりショートしたり、そうした商品も人気で、ものによっては潤沢な流動性があります。よくよく覗いてみると、VIXの元になっているオプション群よりも、ずっと人気があったりします。

さて、枕が長くなりました、今日の主題に近づいていることに気づかれていますか。ある金融商品があって、その価格の「上に乗る」別の金融商品がある。そして前者よりも後者の方が人気があって、流動性が高いのです。何かアイデアが湧いてきませんか。この記事の最初の方まで戻って、買い上げて売り抜けるプロセスまで戻って、やってみたい取引が浮かんできませんか。そうです。例えばあまり流動性の高くないオプションをどーんと買い上げて、そして人気のある先物やETFを使ってボラティリティをささっと売る。そのようにして取引を組み合わせることによって、先の素朴な価格操作と比べて、利益を生み出すことは相対的に容易な気がしてきませんか。

という指摘が、2月の大きな相場変動の後に、匿名で当局に向けてレターとして出された(*3)そうです。あるいはこのような構造については、以前から論文(*4)としてテキサス大学から出されていたそうです。覗いてみると、この力作によれば、S&P500にかかるオプションの取引には癖が見られたそうです。

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