【星色デザイア】初めての東方アレンジを解説してみた【歌詞編】

どうも、東方同人音楽サークル「ギャラクティック・リボルバー」代表のフォカです。先日の第二十回博麗神社例大祭で初の東方アレンジシングル「Borderless Phantasm」を頒布しました。このカップリング曲である「星色デザイア」は、正真正銘僕が初めてアレンジ・作詞をした曲となります。今回は、この曲について自分で解説していきたいと思います。

まあこのnote読んでるような人は大体すでにCDを購入済みかと思われますが一応BOOTHのリンクを張っておきます。DL版で300円です。


※この記事は後編です。前編はこちらから。主にアレンジの解説です。


楽曲コンセプト

表題曲の「Borderless Phantasm」が東方になぞらえて現実のことを歌う曲であるのに対し、「星色デザイア」は純粋な霍青娥のキャラソンとなっています。

僕はデザイアドライブ及びそのアレンジをこよなく愛しており、(過去note参照)そのため、初めての東方アレンジはデザイアドライブと決めていました。


この曲で伝えたかったことは主に3つです。

①霍青娥の可愛さ(ただし、聊斎志異前半のものに限る)
②デザイアドライブの旋律の美しさ
③「欲望」と「星空」という、デザイアドライブ2大テーマの共存

この二つの観点から構想を練っていきました。この観点を元に考えた歌詞の解説を行っていきます。



歌詞解説の前に

「聊斎志異」とは

そもそもこの曲を作ろうとしたきっかけは昨年の今頃にふと霍青娥の元ネタ「聊斎志異」を読んでみたところから始まります。

「聊斎志異」(りょうさいしい)とは中国の古典(といってもせいぜい清代、1600~1700年ごろ)小説集で、そのうちの一説「青娥」という物語に霍青娥が登場します。(厳密には霍の苗字を引き継いだ記述はない)
大まかなあらすじはこちらの記事から引用させていただきます。


あらすじ
評事(裁判官)を勤めた武という者がいて、道教に凝って山に入り、籠ってしまった。

娘の青娥は十四だったが、美しさは類がなかった。

幼いときから父親の書物を盗み読んで、何仙姑の人となりを慕い、父親が山中に籠ってしまったこともあって終生嫁がないと心に決め、母親もその決意を変えさせることができずにいた。

霍桓は11歳で大学試験に合格して県学の学生になった神童であったが世間知らずだった。

13歳のとき青娥に惚れ、硬い石でも穴をあけることが出来る不思議な鑿(のみ)を貰って、青娥の家の二重の塀に穴を空けて忍び込んだことが発端で二人は結婚する。

1年後、孟仙という男子をもうける。その後、息子のことは乳母まかせにしていた。

さらに4~5年たった頃(結婚からは8年後)、青娥は突然別れを告げて死亡。

実は死体は竹の棒で本人は尸解仙になっており、仙人になった父親の住む洞窟(奥は仙界になっている)に隠棲していた。

青娥の死後1年、霍桓は崖から転落してしまって、たまたまその洞窟に入る。そして、仙界との縁が発生していたおかげで洞窟から仙界に入ることができて、青娥と再会。

青娥と夜を共にしようとすると、仙界を俗なことで汚そうとすることを怒った父親が仙界にある家から霍桓を追い出し、家の扉が閉じられると仙界の家はなく現世の崖になっていた。

霍桓が不思議な鑿で崖を掘りながら悲しみ・恨み・怒り・罵りなどを叫び続けていると、再び仙界の家の扉が開き、怒った父親が青娥も外に放り出してしまった。

青娥はいい迷惑と文句を言いながらも、木から二本の枝を二頭の馬にして一緒に霍桓の家に戻った。

なお仙界では一晩の出来事だったが、現世では7日経っていた。
そして噂にならないよう霍桓の家から別の土地に引っ越して、再び夫婦として一緒に暮らし始めた。

その18年後、さらに一女をもうけた。その後、成長した娘は嫁いでいった。
その後、一緒に住んでいた霍桓の母親が死去。霍桓の実家の畑で母親を埋葬して、喪が明けるまでの墓守を一人前に成長した孟仙に任せて、夫婦は家に帰っていった。

約一ヶ月後、孟仙が両親の様子を見るため元の家から帰宅してみると、霍桓と青娥は一度も家に帰らないまま消息を絶っていた。

孟仙は40歳になっても、文人として名声は得ていたものの、試験運が悪くまだ科挙の受験資格を得るための大学試験にも通っていなかった。

その後、大学試験にも通り、優秀な学生として最高学府にも選抜されている。

そして科挙の郷試を受けたとき、同じ受験棟の17~18歳程度の青年と親しくなったが、その青年が答案用紙に書いた名前が自分と同姓の霍仲仙だったことに驚き、いろいろ話すうちに、仲仙が自分の弟で、父である霍桓がこの出会いを予言していたが発覚。

どうやら霍桓と青娥は仙人になっていることを仲仙に隠して暮らしていたようで、仲仙は兄の年齢と両親の年齢のことを不思議に思ったが、孟仙は両親が実は仙人になっていることを説明した。

孟仙は両親に会うため仲仙の家に行ったが、青娥が仲仙の妻に、貴方達は世間知らずだが明日になれば貴方達の兄が来るからもう安心と昨日の晩に言い残して、朝には夫婦で姿を消していた。

その後、孟仙と仲仙が両親の行方をあちこち探し回っても、見つかることはなかった。

東方元ネタWiki 2nd


「青娥が人妻である」ということはどこかで聞いたことがある人も多いでしょう。その夫にあたるのが「霍桓」で、「星色デザイア」においても非常に重要な役割を果たしています。青娥の壁抜けの能力も元々は桓の持つ鑿によるものだったわけですね。(まあこれも貰い物なのですが)


僕は実は元々東方Projectにおける霍青娥というキャラクターはそこまで好きではなかった(というより嫌い寄り。なぜなら性格と倫理観が終わっているため)のですが、これを読んでから青娥の新たな一面に気が付きました。このあらすじではわからないかもしれませんが、物語序盤における青娥って割と純粋無垢なんですよね。(実際のところ諸説。俺が霍青娥に対して幻想と理想を抱きすぎているだけかもしれない。でもまあそれが許されるのが二次創作ってことで)



星色デザイアのストーリー

この聊斎志異を元に「星色デザイア」のストーリーを構築しました。
ここでは実際に歌詞すべてを見ながら説明していきます。

星色デザイア/デザイアドライブ、古きユアンシェン

一人きり 星空 夜をながむ日常
こんなに暗い今 寂しくて
でも 眠ってた心の壁穴開けて照らす
この未来 変わるような気がして

壁は 壊さないの 超えもしないの すり抜けてしまえばいいの
欲を聞いて 邪でも目指して あなたの歩む道

ねぇ デザイア 客星がこんなにきれいな夜だから
ねぇ デザイア 今だけはふたりで眺めてたいの
ねぇ デザイア この愛はきっと抑えられないから
ねぇ あなたのその鑿で 私を迎えにきてよ

あぁ 心の壁から漏れた欲があふれる
あの日見た横顔まぶしすぎて

壁は 壊さないの 超えもしないの すり抜けてしまえばいいの
欲深いの 声を聞きたいの  もっと愛してほしいの
枝の馬でも 竹の竿でも  なんでもいいの 会えるなら
星降る夜 音も超えて 今すぐあなたのもとへと

ねぇ デザイア あの星を今でも覚えているのなら
ねぇ デザイア これからもふたりで臨んでたいの
ねぇ デザイア この恋をずっとこのままにしたいから
ねぇ 私の簪で 今すぐ迎えに行くの

ねぇ あなたがくれたもの今でも大事にしてるから
ねぇ このままどこまでも2人で落ちていきましょう

ねぇ デザイア この愛はきっと抑えられないから
ねぇ あなたのその鑿で 私を迎えにきてよ
ねぇ デザイア この恋はずっとこのままにしたいから
ねぇ 私の簪で 今すぐ迎えに行くの

星色デザイアのストーリーは一番と二番で対称となっています。登場人物は青娥と霍桓の二人のみで、視点は常に青娥です。

一番:「桓」が「青娥」を迎えに行く(聊斎志異前半に準拠)
二番:「青娥」が「桓」を迎えに行く(オリジナル)

一番については基本的には聊斎志異半に準拠しています。箱入り娘(諸説)である青娥を桓が「迎えに来て」「解放」していたり、道教の道に進んだ青娥を再び呼び戻していたりします。

二番については、ここでは逆に青娥が桓を迎えに行く構図を取っております。これは聊斎志異には登場しない話の流れであり、妄想純度が高めです。(ちなみに「迎えに行く霍青娥」というのははにぽけの熱帯夜に影響されているところが結構あります。あの曲の青娥はかわいくて良いやつそうなので好きです)

非常に単純ですが、全体のストーリーはこの二つ(あと落ちサビ)となっています。まずはこれを踏まえてもう一度歌詞を読み返してみてほしいです。この青娥は結構かわいいんじゃないでしょうか。純粋に恋愛している乙女ですよ。



詳細解説

作詞においても既存のデザイアドライブアレンジから共通する部分・頻繁に使われる言葉を掘り出し上げました。具体的には以下のようなものがあります。

・Bメロのメロディは反復であるため、歌詞も対比構造を多くとる
・「壁」という言葉は頻出。特に一般的な曲で「壁」という言葉が出てくるとたいていの場合は「超える」「壊す」という表現が来るが、デザイアドライブアレンジ(あるいはユアンシェン)においては「すり抜ける」という表現が見られるのが特徴的
・「欲」「星」「道(みち)」「道(タオ)」などといった、デザイアないしは道教にまつわる言葉も頻出

これらの前提知識を元に詳細な解説を行っていきます。


1番Aメロ

一人きり 星空 夜をながむ日常
こんなに暗い今 寂しくて
でも 眠ってた心の壁穴開けて照らす
この未来 変わるような気がして

一人きりでいた青娥の元に桓が現れる。これは「聊斎志異」に準拠する話です。物語中、霍桓は二度(冒頭と、青娥がいなくなった後)青娥を迎えに行きますが、前者のものをイメージしています。


1番Bメロ

壁は 壊さないの 超えもしないの すり抜けてしまえばいいの
欲を聞いて 邪でも目指して あなたの歩む道

「壁は壊さないの 超えもしないの すり抜けてしまえばいいの」

この歌詞、めちゃくちゃ気に入っているんですよね。気に入ってるので2番でも使いました。困難に対して真っ向から立ち向かうわけではなく「抜け道」を考える。そんな霍青娥の性格を、能力と交えて歌っています。さらには前述の「デザイアBメロ特有の反復」の条件も満たしています。


1番サビ

ねぇ デザイア 客星がこんなにきれいな夜だから
ねぇ デザイア 今だけはふたりで眺めてたいの
ねぇ デザイア この愛はきっと抑えられないから
ねぇ あなたのその鑿で 私を迎えにきてよ

「客星が」
ここはわかりやすく「霍青娥」とかけています。このように言葉遊びをしたくなったのはDESIRE OVERDOSE(A-One×魂音泉)の影響が大きいです。あの曲では「覚醒が」と「霍青娥」をかけていますね。僕は元々このデザイアドライブアレンジには星の要素を入れたかったので「客星」という言葉はピッタリでした。(一応客星がわからない人のために説明しておくと、いわば超新星爆発の古い呼び方です。ちなみにこれは後付けというか偶然でしかないのですが、聊斎志異成立時期にも中国で客星が観測されたりしたそうです。面白いですね。)

さて、1番は「霍桓が青娥を迎えに来る」ストーリーであるということは既に説明済みです。このサビもそれに準じていることがわかるでしょう。ところで、サビの終わりは「あなたのその鑿(のみ)で私を迎えにきてよ」となっています。ここは結構重要な伏線なので覚えておきましょう。

(ちなみに「ねぇ デザイア」の反復がスターオーシャン(TaNaBaTa)の「ねぇ ダーリン」と類似していることに気づいたのはボーカルミックスに突入したあとのことでした。許してケロ~~~)




2番Aメロ

あぁ 心の壁から漏れた欲があふれる
あの日見た横顔まぶしすぎて

2番からは1番とは対比的に、「青娥が霍桓を迎えにいく」ストーリーとなっています。これは聊斎志異には存在しない話なのでオリジナルというかifの物語のようになっています。このあたりの青娥はなかなかどうして、可愛らしい感じに描けているのではないでしょうか。おれも青娥にガチ恋しようかなと思いましたが普通に霍桓が強すぎてやめたことがあります。
この辺りはデザイアドライブの「欲」にも焦点が合っているものとなっているでしょう。


2番Bメロ

壁は 壊さないの 超えもしないの すり抜けてしまえばいいの
欲深いの 声を聞きたいの  もっと愛してほしいの
枝の馬でも 竹の竿でも  なんでもいいの 会えるなら
星降る夜 音も超えて 今すぐあなたのもとへと

冒頭のフレーズは1番と同じです。中々執着が強くなって来ているようにも見えますが、あくまでも青娥は純粋に恋をしているだけです。極めて純真無垢です。
「枝の馬」「竹の竿」についてはどちらも聊斎志異に出てくるワードですね。


2番サビ

ねぇ デザイア あの星を今でも覚えているのなら
ねぇ デザイア これからもふたりで臨んでたいの
ねぇ デザイア この恋をずっとこのままにしたいから
ねぇ 私の簪で 今すぐ迎えに行くの

基本的には1番サビとの対比になっています。その中でも特に重要なのが最後の「私の簪(かんざし)で今すぐ迎えに行くの」です。ここは1番では「鑿」となっていましたが、ここでは「簪」となっています。この理由について考えてみてください。







ここは、「鑿」と「簪」で、主体の変化を表現しています。すなわち、ここの単語の違いで「1番は桓→青娥だったのが、2番では青娥→桓」となっていることを表現しています。霍青娥が壁掛けの能力を持っていることは今更語るまでもないでしょう。そして、その壁抜けの能力が頭の簪によるものであるということも皆さんご存知かと思います。この簪が実は鑿であるということも、まあ皆さん知ってるんじゃないかなーと思います(見た目通りですしね)

さて、ここで聊斎志異の話をおさらいしましょう。元々、壁抜けの能力は青娥ではなく霍桓が持っているものでした。そして、それは不思議な仙人から譲り受けた鑿の力によるものでした。このとき、すなわち星色デザイア1番においてはこの「鑿」はまだ霍桓の所有物です。そのため、「迎えに行く」主体となりうるのは青娥ではなく霍桓なのです。

これを踏まえた上で2番に移ります。聊斎志異の中盤以降は、「鑿」は青娥が所有し、青娥が壁ぬけの能力を手に入れています。このとき、青娥はこの「鑿」を「簪」として利用しています。実際、東方Projectにおける霍青娥もこの話に準拠して、鑿を簪として身につけていることとなっています。とにかく、この「壁抜けの道具」が「鑿」から「簪」に変わったということは、すなわち「壁抜けの能力」を持つもの、ひいては「迎えに行く主体」が霍桓から青娥に移り変わったことを示しています。

なぜここの部分を殊更に強調しているか。それはこの曲の構造(1番と2番の対比)自体が、ここの鑿→簪という変化を記述したかったためです。この曲の作詞に取り掛かるとき、大まかなテーマは決めてありました。

聊斎志異のストーリーをなぞり、純粋で可愛らしい青娥を星空と交えて描く

というものです。実際のところ、具体的な構想に取り掛かる前に、作詞に使えるフレーズを洗い出すところから始めました。そこで注目したのがこの「鑿」と「簪」でした。どうにかしてこの二つを区別して歌詞に落とし込めないか。そう考えて思いついたのが、
1番と2番で迎えに行く主体を転換させる
というストーリーでした。つまるところ、鑿→簪の変化がこの曲の根幹を担っているわけです。そのために、このnoteでもここの解説にここまで長い枠を取らせていただきました。



落ちサビ

ねぇ あなたがくれたもの今でも大事にしてるから
ねぇ このままどこまでも2人で落ちていきましょう

ここは青娥の内に秘めたる欲望を歌っています。あくまで胸の内に秘めているだけなので、誰にも伝えていません。そのため、ここの落ちサビではいわゆるラジオボイス(電話やラジオを通したように、あえて音質を悪くする)という加工をボーカルに対して行っています。

さて、ここまで僕は「青娥の純粋な恋心」を描いて来たと言いましたが、そうは言ってもやはり邪仙。聊斎志異の終盤に関しては見るに耐えない倫理観のなさですよこの女。なんで夫連れて二度子供捨ててるんだよ頭おかしいんか???

という愛憎はさておき、とにかくここでは青娥の内なる思い、すなわち「他の全てを捨ててでも霍桓と一緒にいたい」という感情を歌っています。
ちなみに「あなたがくれたもの」は「鑿=簪=壁抜けの能力」であると解釈することもできますし、「欲や恋心」と捉えることもできます。


ラスサビ

ねぇ デザイア この愛はきっと抑えられないから
ねぇ あなたのその鑿で 私を迎えにきてよ
ねぇ デザイア この恋はずっとこのままにしたいから
ねぇ 私の簪で 今すぐ迎えに行くの

1番と2番のサビの後半と同じものとなっています(オケは微妙に変わっていますが)
さて、落ちサビを聞いた後ではここの歌詞はやや意味合いが変わって聞こえるのではないでしょうか?最後の解釈のみは個々人に委ねるとしましょう。




終わりに

以上が僕の初めて作成した東方アレンジ「星色デザイア」の全容となります。世界観的にはなかなか良いものが作れたと思っております。デザイアドライブの旋律の美しさと霍青娥の可愛さが伝わったのであれば幸いです。

ギャラリボの大まかな方針は今回の2曲と変わらないでしょう。すなわち、すてぃんがー☆が「Borderless Phantasm」のような
「東方要素を交えて現実のことを歌う。同時に原曲からも多少崩す」
アレンジを作り、僕が「星色デザイア」のような
「キャラソンとして成立しうるような歌詞で、原曲に忠実な」
アレンジを作ると思います。どちらが好みの人でも楽しめるサークルとなっているかと思いますので今後ともぜひごひいきにお願いいたします。


あと、三次創作とか生まれたらめちゃくちゃうれしいんで誰かやってください。泣いて喜びます。

おわり






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