読書感想文 1冊目
読書感想文の1冊目は「本」に関わる作品にしようと思う。
『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子 著・文春文庫版)単行本は方丈社刊。
著者はイタリアを拠点に活躍するジャーナリスト。優れたエッセイストでもある。この本はありがたいことに多数のカラー写真が収められている。
資料収集のためにヴェネツィアの街を歩き、出会った1軒の古書店。
現店主、先代の店主と話すうちに驚くべき事実に突き当たる。
いにしえの時代に古書を売り歩く行商人がいたことを。
なぜその村に本の行商が栄えたのか。
著者はその真相に迫るためイタリア半島北部の山岳地帯にたたずむ村・モンテレッジォを訪れる。友人の車に揺られて。
モンテレッジォの村の広場で、本が一杯に積み入れられた籠を担ぐ男の像と
〈この山に生まれ育ち、その意気を運び伝えた、倹(つま)しくも雄々しかった本の行商人たちに捧ぐ〉と刻まれた石碑を見る。
村人との交流を終えた著者は再度、鉄道を乗り継ぎモンテレッジォに向かう。
再訪した村人からの取材、資料による調査からこの村とダンテとの関係も明らかになり、それも解明してゆく。
このようにして取材・収集した資料本は山のように重なっていく。その過程で本の普及に欠くことの出来ないグーテンベルクの印刷機の発明へも眼は向けられる。
「本」は当然ながら著者がいて、印刷される紙があり、印刷機があり、裁断・製本する技術があり、売り歩く人が存在し、買って読む人がいる。これらが全て揃って「本」となる。
モンテレッジォという小さな村に「本」を製作し販売するビジネスが存在していた事は驚愕だ。
その延長線上に「本」に接し文化・思想を享受することが出来、生きる糧を得ることが出来る私たちがいる。
しかしその「本」に接することが出来なくなる事態が近年あった。
2011年の東日本大震災の時だ。
被災地の人々はあらゆるものを失う中でも「本」を探し求め開いている書店へ殺到した。出版社と物流会社は協力してその思いを乗せた「本」を被災地へと届けた。(『復興の書店』稲泉連 著・小学館文庫)
「本」を印刷するための製紙工場は壊滅した。一日も早く工場を復興させ印刷工場へ出版用紙を回すために命をかけた人々がいた。(『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』佐々涼子 著・ハヤカワ文庫)
モンテレッジォの行商の人々も、震災で被災した書店、製紙工場の人々も「本」が人にとって生きる糧、いや命そのものであることを知り尽くしていたからこそ、自らの全てを投げうつことができたのだろう。
この書(単行本)が発売された後、コロナが世界中に蔓延した。イタリアもロックダウンされた。イタリア政府は〈本は大切な友達〉だからとして、薬局、食料品店と並んで書店も店を閉めないようにとの通達を出した、と文庫本のあとがきにあった。
「本」に対する文化が染み込んだお国なのだと思う。
先人によって築かれた「本」に触れることのありがたさを噛みしめて次の「本」へと読み進めていきたい。
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