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弱みを強みに変える

嘉手納基地でのパイロット訓練のお話をします。嘉手納駐在を終えてアメリカ本国に戻った人たちからの声を聞いてつくづく感じたことを書いてみたいと思います。

アメリカ本国のパイロット訓練センターに比べるとたくさんの弱みがあります。でもその弱みが新しいアイデアを生み出すきっかけになっていることにも気付きました。

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周りが海

南西諸島の一部である沖縄本島の中部に位置する嘉手納基地です。離陸して数分もたたないうちに海の上。沖縄本島以外の離島に行くには当然洋上飛行。

ナビゲーション

視界が良い日には目視できる島伝いに飛んで行ける。ナビゲーション能力大丈夫なの?

まだGPSがなくVORとADFがそれぞれ一個の時代。たまにどちらかが故障(笑)DMEも無い。ルート上の横にあったら便利なVORやNDBもあまりないので、クロスチェックもできない。そんな時代からオペレーションしていました。その時代はそれが普通。携帯がない時代も普通に生活していたのと同じ(かな..笑)

VORやNDBのトラッキングが上手くなる!

これ普通に上手になってました。Moving Mapなんて便利なものも、当然携帯でマップ表示なんてない時代。Private Pilot取得後のInstrument Ratingへの移行も楽でしたね。

推測航法の力が本能的に身に付く!

つまり、上空の風向風速をめちゃくちゃ意識する。計画した速度維持をめちゃくちゃ意識する。フライト中のズレをめちゃくちゃ意識する。

不時着地点がない!

大陸のようにあちこちに適切な不時着地点があるわけではない。機体の不調に敏感になる。陸が近い時は不時着水する海岸線を常に意識している。陸から離れた時には戻れるか戻れないかを常に意識している。まるでグライダーパイロットのようです。洋上の船舶の位置も「トラフィックインサイト(笑)」何かあればその付近へ!

座学を強化!

アメリカ本土に戻った時のために、アメリカ本土の航空図を使って座学を強化しています。実地試験時にはアメリカ本土のナビゲーション計画を作成させていたので、嘉手納基地で初めて飛行機を飛ばして資格取得を目指す人たちにとっては否が応でもやらなくてはいけなくなる状況。
アメリカ本土と行き来するメンバーからのアメリカ本土の航空図の寄付も多くあり、ほとんどのエリアの航空図が揃ってました。中には実際に使っていた航空図もたくさんあり、ルートを記した線・チェックポイント・メモなどが貴重な情報です。

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横風滑走路がない

嘉手納基地は3千メートル級の滑走路が2本あります。5L/Rと23L/Rという並行滑走路。すぐ近くにある普天間基地の滑走路は6/24というほぼ同じ方向になっているのです。

年間通して風向はぐるっと360度回ってますし、無風状態や、050や230という風向でかつ微風はびっくりするほどほとんどありません。なので常に横風成分がある状態。無風状態になるとメンバーから超お宝発見のような歓声が起こります。

クロスウインドに強くなる!

ファーストソロに出ると記念に訓練生が着用していた上着の後ろを切り取って本人の一言を入れて壁に飾っています。

「ファーストソロでクロス無し!初体験!ラダー使わない着陸初めてで困ったぜ!」なんていうセリフが出るほど。

アメリカ本国に帰ったパイロットから多く聞くセリフはこれ。

「ここの人たちクロス10ノット超えたらフライトキャンセルする!」

「15ノット超えるフライトやってたって言ったら誰も信じてくれない!」

玉那覇自身の経験。テキサスで試験官試験のチェックライドがあり、事前にエリア慣熟のためにフライト予約してたら「今日はクロスが強く全ての飛行をキャンセル」で風は15ノットくらいだったと記憶。

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米軍基地

トラフィックは多いです。二本の滑走路同時に使ってます。北側トラフィックパターンには空中給油機がIFRパターンやVFRパターンで同時に数機、南北両側のパターン使って数機のヘリコプターや我々の小型機たち、戦闘機はオーバーヘッドパターンで編隊飛行で入りこむ。その間に通常のデパーチャーもあれば、民間契約の旅客機や貨物機が出たり入ったと、まあ結構飛んでます。

嘉手納基地の北側にある道の駅嘉手納の展望台はこれらのトラフィックが一望できる最高の場所です。是非お越しください。

ここで何が一番問題かと言うと航空無線です。軍用機は基本UHFを使ってます。我々小型機はVHFを使ってます。管制官は両方を使って全てのトラフィックと通信しています。

つまり管制官が軍用機に対しての指示は聞こえます。でも相手の返信は我々には聞こえないんです。無音状態と思って通信を始めると、管制官からヘンチクリンな返答が返ってくる場合があります。たまたま軍用機が先に話しかけていて、我々の通信は無視されて、軍用機に対しての返答を聞かされていた。と言う事です。

近くを飛行する機体からのパイロットと管制官の通信の内容を聞いて、周りの状況を判断するのが普通ですが、嘉手納では管制官の指示で軍用機の動きを読まなくてはいけないのです。

Situation Awarenessが鍛えられます!

Request departureって言って、端っこにいる軍用機に対してcleared for takeoffと言っていることもそしばしば。

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地元の騒音問題

アメリカも空港周辺の騒音問題増えてきましたね。Noise Abatement Proceduresをしっかり守ってフライトしないといけないです。

嘉手納基地周辺や普天間基地周辺にも当然設定されています。地元の学校は全てマーキングされていて、その上空をフライトすることは禁止されています。玉那覇自身が普天間基地のすぐ側で育ったため航空機の騒音には地元の人間として良くわかります。

クラブの厳しいルール・パート1】にも書いたSOPや【クラブの厳しいルール・パート2】にも書いたチェックアウトする時には、この地元への配慮を徹底していました。

空を飛ぶ者としての責任として、地上の人たちへの配慮もあると思うのです。自分は好きで飛ばしているけど、地上の人たちからしてみれば単なる危険物としてみてることを理解しておく。

これはフライト技術がどうという話ではなく、パイロットとしての考え方として身に付くと感じています。


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