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元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のフライト試験編)

元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のオーラル試験編)では試験官候補生へのFAA審査官のオーラル試験の内容について少し書いてみた。

今回は最終フェーズの最終となる実地試験について、フライト試験について書いてみる。

フライト前のPre Flight Briefing

オーラル試験の時には、期待する回答が求められない場合には、質問の方法を変えたりして別のアプローチから受験生の知識を確認することができるのだが、フライト試験の場合は少し違う。科目実施前の、もっというと、オーラル試験が終わって、フライトに向かう前にPreFlight Briefingにて具体的に試験の流れと試験する課目を確認することから始まり、フライト中には再度指示してこれから実施する課目を確認してから始める。

そしてここがオーラル試験と大きく違うところ。

課目実施は一回のみ。失敗したら2度目のチャンスはない。

これもPreFlight Briefingで伝えておく。

2度目のチャンスを与える例外として、課目実施の際に他のトラフィックがいたり、ATCの指示とか何らかの理由で途中で中断せざるを得なかった時。

一人で飛ばすことを確認する。試験官は乗客という扱い。誰が操縦をコントロールしているのかの確認方法。緊急事態の対応方法。などなど。

過去に試験中の事故があった経験からここはかなり綿密なブリーフィングが必要とされる。

フライトの責任者は機長。つまり受験生。受験生からしてみればFAA審査官がいるから、自分より経験がある人がいるからとどこまでやるのか?という躊躇が出てきてはまずい。

通常の試験業務でも同じこと。フライトの責任者はまだ免許を持たないPrivate Pilot受験者でも機長。でも隣に乗っているのはベテランの試験官。万が一のための誰が何をするのかを明確にしておく必要があるということ。

受験生役の審査官のテクニック

Private Pilotの受験生になったFAA審査官。やることなすこと上手い。オーラルと同じように、完璧!と言うのもパフォーマンスもあれば、中途半端で判断に迷う箇所もあるし、え?と言うパフォーマンスもあるし。

単純に課目が実施できる。つまり高度を維持するとか、速度を維持するとか、バンク角がいいとか、コーディネーションが取れてるとか、ではなく、受験生の目線やATCとのやりとり含めて、総合力を見極めなければならない。この辺りはチーフパイロットとして当時の試験官から鍛えられてはいた。でもステージチェックは途中の失敗もやり直しさせて教育モードにすぐに切り替えられる。が...

そのギリギリのところを見せられると、メモをとりながら、ここはOKだけど、ここはマージナルとして、そのマージナルなところを別の課目で確認する。

今回の試験中に、ACSに基づいて不合格となるパフォーマンスを確認した時にはもちろんその場で理由と不合格を伝える。

ACSにもしっかり明記されているが、Preflight Briefingでもここは明示して確認させる。

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審査官から「ごめん調子悪かったからもう一回させて!」と本番さながらの演技でも、こちらは事前に説明した通り不合格となります。とバッサリ。

よし!として次の課目。

もう胃が痛い(笑)

仮に不合格になった場合には、その課目だけ再受験すれば良いシステム

合理的な制度である。日本に帰国してJCAB事業用操縦士の訓練を受けた時に、日本にはそのような制度がないという事を知らされて、不合理な制度なあ。受験生も試験する方も大変なのに、誰も文句言わないんだあ。まあ自分もだったけど(笑)と心の呟き。何より失敗したら約100万円というコストを知っているだけに緊張感というより恐怖心との戦いだった記憶がある。

日本の試験はその恐怖心と戦える精神力のパイロットを養成する?!まあ大事なところではあるかもしれないけど...

判断基準

中途半端なパフォーマンスをどう判断するか。

これはもう数をこなした経験値でしか判断ができないと言える。

チーフインストラクターとしてFAA試験官に送り出すかどうかのステージチェック、いわゆる見極めのフライトを数をこなしているかどうか。自分は大丈夫と思っていても見過ごしている場所をFAA試験官が指摘して不合格にさせる。それも経験。

そのチーフインストラクターになるには、通常のインストラクターとして多くの訓練生を担当して、そのレベルでの判断でチーフインストラクターにステージチェックをしてもらう。そして見過ごしている点をチーフに指摘される。その繰り返しで訓練生の進捗の判断力を培っていく。

なので今回の実地試験でFAA審査官が中途半端なパフォーマンスをしても、過去の経験から理由づけは十分できる目は養っていたつもりだ。

そのような形で教官としての判断力を積んでいくシステム。アメリカ以外の外国はどうなのだろう?

自分の技量確認

トレーニングエアリアである程度審査が終了した時に、「一旦試験官の試験パート1は中断します。あなたの操縦技量を確認します。」と告げられ、

「Commercial LevelのSteep Turnしてください」 と一言。その指示にはPrivateとCommercial PilotのACSで書かれている内容が違うので、それは知ってるよね?その上でACS通りに飛べるよね?という二つの確認。

実施後に続けて他の課目もやるかと思ったら無し。じゃあさっきの続きから。と。

いいんですか?やりますよ。と言うと、あれだけ確認したらパイロットとしての腕はわかる!と一言。後は離着陸を少しやってもらうから。と。

そうやって全体のフライトを1.5時間で終了。トレーニングエリアも空港の近く。トラフィックも少なく。計画通りに終了。

Cross-Country Flight試験の特徴

オーラルで確認したCross-Country Flightのナビゲーションログの最終目的地に行かなくても、最初の数レグでフライト中のオーラル質問を組み合わせながらNavigationの知識と技量の確認ができるようになっているのがFAA ACSなのだ。

アメリカ以外の国ではどうなのだろう?実際にログ通りに最終目的地にいくという国はどれくらいあるのだろうか?

利用できる機材をフル活用するというのがFAAの考え方。あるリソースは全部使いましょうということ。当然受験生によって異なる機材。試験によって聞く質問もやる内容も変わって当たり前。一律になるはずがない。

なので一律じゃないと文句をいう受験生もいないし、スクールもいない。当たり前のこと。

次回はフライト終了後のFAA審査官からのブリーフィングを伝えます。これが奥が深かった。



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