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これからの花業界において、 必要とされる市場の役割とは? #花の日2021

2021年7月、私たちフラワーサイクリストは、川崎花卉園芸株式会社 執行役員 相嶋さんに、インタビューさせて頂きました。

8月7日開催「花の日イベント」プログラムで、紹介しきれなかった内容の掲載もございます。

ぜひご覧くださいませ!

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一般的な花市場の役割とは?

フラワーサイクリスト(希):本日はよろしくお願いします!まず、花市場の役割を教えてください。

相嶋さん:市場は国や県から認可を受け、オークションをします。大きく分けて中央市場(農水管轄)地方市場(市の管轄)その他といった形があります。

例えば、産地から委託されたものを100円で売り、10%を手数料としていただき、90円産地に返すると、10円が市場の利益になります。

つまり、極端に言えば「消費者」のためではなく「産地」のためにあるのが市場。砂時計の真ん中にあるイメージで、代金回収機能が優れているのです。

産地からの荷物をいっぱい集め、前日に売り、自動的に競りにかけ、たくさん委託販売した分、手数料は増える。これが市場であり古くから市場はこの様にして商いを行ってきました。

そのような中、弊社の業界の革命児、フロンティア精神溢れる 会長 柴崎は、「マーケットは消費者側にあるのに、産地から送られてきたものを市場はプロダクトアウトしているだけ。これっておかしいよね?」と違和感を感じたのです。

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希:そこから具体的に、どのようなことを変えられたのですか?

All win構想で、農家も市場も消費者もwin-winに

相嶋:まず、これまで日本の市場業界がプロダクトアウトでやってきたところを、「All win構想」という、マーケットインの発想に変え、産地側にニーズを伝える。そうすることで一連の流れにいる皆さんがそれぞれwin-winになると考えました。

要はマーケットで人気があるものを作れば、生産も安定するし、消費者の皆さんの満足にも繋がる。

ひと昔前までは市場の人間がこのように消費者側の方々と話をするのは、タブーだったんですよ。

ですが、先日RINさんからの提案で、花農家との意見交換会を行ったのですが、産地と消費者のハブになるのが、市場の役割でもあると思います。

日本のトップクラスの生産者と、海外との直接取引

相嶋:その際に推薦した花農家「國枝バラ園」は、日本でもトップクラスのバラの生産者です。

弊社は、質の良い生産者との取引ということもこだわっています。

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(写真提供:國枝バラ園)

何をもってトップクラスというのかは、様々な見方があると思いますが、数字で見るのが分かりやすいと思います。

扱い本数 × 1本あたりの単価 = 売上ですが、國枝バラ園のバラは生産量も多く、品質も良いので、1本あたりの単価も自然と高くなります。

また、コロンビアやケニアの農園と直接取引していることも一つの特徴です。直接取引だと、色んな品種にも挑戦することが出来ますし、上手くいったら仕入れを増やすことも出来ます。

まさにこれが、こちらで欲しているものを産地に作ってもらう「マーケットイン」の発想ですね。当社が別会社(輸入商社)を挟まず取引することで、日本向けではない色みの物も輸入する事が可能です。

ちなみに茶色のカーネーション、茶色でも深い色や、ベージュ系、ベージュピンク系って見たことありますか?

希:見たことないです!

時期によっては、一番売れたのは「茶色のカーネーション」

相嶋:実は弊社が卸しているアパレルメーカーの店舗では、茶色のグラレーションのカーネーションが秋の時期には良く売れるんです。

今までの色の流行を見てみると、大体化粧品から始まって1年後くらいに花にもやってきます。そうした流れから逆算して、仕掛けたりもします。

アパレル店舗だと売れるけど、一般の花屋だと売れなかったりすることもあるんですよ。特殊な色はこういった事例もあります。

希:面白いですね。特にファッション業界は特にカラーに敏感ですもんね。

相嶋:たしかに最初に茶色のカーネーションを入荷した時は「なぜその色を?」と言われました。ですが、今は売り上げも伸び、秋口の主力商品になっています。

希:それは生産者にとってもメリットがあるということですよね。

相嶋:そうですね。今まで販売が難しいとされてきたものが、日の目を見ることができます。

一般的には、色の流行やニーズではなく、過去のデータで売れたか売れなかったかで判断しているので、選択肢の幅が狭くなっているのです。

そのような状況下で、直接取引という形でチャレンジしているのも弊社の特徴です。

あとは、簡単な加工事業も行っています。

市場が加工事業を始めることで販売先が広がる

希:花束やアレンジとかの加工ですか?

相嶋:そうですね。一流のアーティストが作るような花束ではないですが、今まで材料だったものを一次加工して、商品にしてマーケットに出すことで、みなさんが手にしやすい形になります。そうすると、企業を通した販売の際のオペレーションも楽になるんです。

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もし企業がそれぞれ材料を買ってきた場合、葉っぱを取って、茎の長さを合わせるためにカットして…と、そのための人員も必要になりますよね。

そこを私たちが行うことによって、導入コストを押さえることが出来、花の販売先も広がります。

希:これもwin-winな取り組みですね。


それから、花の日イベントでもご登壇頂くLIFULL FLOWERさんとも連携されていると伺いました。

花農家の実家で見ていたロスフラワー

相嶋:はい。もう4年ほどになると思います。「LIFULL FLOWER」は、LIFULLに勤めるすかいさんという女性が立ち上げたのですが、茨城の花農家の娘さんでした。

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父・「今日は市場で売れたよ」

父・「売れなかったよ」

父・「今日は市場安いから出荷するのやめよう。でも花はハウスでどんどん悪くなってしまう…」

娘(すかいさん)・「これどうするの?」

父・「出荷するには運賃もかかるし、値段が安いから出荷しても赤字になってしまう」

という場面を見ていて、

「これっておかしくない?」と感じ、ロスフラワーを減らすことに微力でも貢献していきたいと考えたそうです。

そういった想いに感銘を受けて、一緒にやりましょうと取引を始めました。

ロスフラワーというのは当然、産地でも、市場でも、仲卸でも、花屋でも出るんです。

パーソナルな想いに共感したところから始まった新しいサービス

希:たしかに全部は救うことは難しいけれど、きっとすかいさんは、見て見ぬふりも出来なかったんだろうなと思います。

相嶋:そうですね。救うという言い方より、“マーケットに生き長らえさせることが出来るか” という表現のほうが適切かもしれませんね。

そこから今は篠島さんが担当されてますが、当時は、まだサブスクという言葉も流行っていない頃に着手しているので、サブスクの先駆者でもありますね。

希:似たような経緯で、2020年のコロナ禍に花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ「フラワーサイクルマルシェ」があります。

当時、イベントや結婚式の中止が相次ぎ、出荷出来ない花を救う取り組みとしてメディアでは注目されていたのですが、実際、花農家からの問い合わせはわずかだったようです。

花の産直が増えない理由

相嶋:冒頭で伝えた “代金回収の決済機能が市場が一番優れている” ということが、花の産直が増えない理由にも繋がると思います。

例えると、市場は電車でいうと何でも止まるハブステーション。産直だとどうしても各駅同士での付き合いになってしまうんです。

野菜や魚は産直が増えて来ていますが、花はまだまだ市場外流通が少ない。

なぜなら花は食するものでもなく、食べ物に比べると金額の単位が小さいので、そういった意味でももしかしたら後進的な業界なのかもしれないですね。

これだけ物流網が発達し、ネットが発達しているのでもう少し増えてもいいはずですが、あまりにもマスター(商品情報量)が多く、多種多様で、消費者の好みが複雑なので、なかなか企業農業(同じ物を大量生産)になっていかない。一個のマスがあまりに小さすぎて、その小さいマスがあまりに多すぎるんです。

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希:たしかに私も他のサービスで産直で花を買おうと思ったことがあるのですが、選べる種類が少なく、個人用には量が多い気がしました。そのため選択肢が狭まってしまいます。それを解消するのが市場の役割なんですね。

横に広げるだけの機能から、縦軸での展開へ

相嶋:うちのように産地も持ち、市場も持ち、パックアンドベンダーも持ち、販売先も持つという、一気通貫のビジネスは珍しいと思います。

一般的な市場のように、横に広げれば委託手数料はたくさん入りますが、結局のところプロダクトアウトなことに変わりはない。

弊社のような縦軸での展開は、これだけ情報化社会になって、消費者のニーズが多様になっても、ちょっとしたテイストも変えてつくることが可能なので、今後もマーケットで受け入れられるのかなと思います。

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オランダの合理的な形態と、障壁となっている日本固有の習慣

希:国外の花市場はどのような形態なのでしょうか?

相嶋:例えばオランダの現場を見て思ったのは、Aという場でも、BでもCでもJANコードが同じだったり、バケツが流れるレーン幅も統一されていて、合理的だなということ。

弊社は花のある暮らしの底辺の拡大を目指していきたいという想いが根本にありますが、日本だとAという所、Bという所、Cという所それぞれが全て違うものを使っていて…。

それぞれがオリジナルでやってきたがために、底辺を広げていくためにも、将来的な話になりますが、一度市場の合理化も含めて検討する必要があると思います。

また、先ほど企業自身ががたくさんの花を扱おうとした時に足枷があると伝えましたが、(経営規模の割に、覚えなければならない情報量etc)

花屋を始めようとする時も同様で、資格は不要なものの、お免状はいりますだとか、NFD(日本フラワーデザイン協会)出ていますかとか、華道がベースにあるんですよね。

たしかに「道」というのは日本人の精神には合っていて、そういった修行を受け入れてやってきた文化ではあるので、悪くはないんです。とても素敵な花文化です。

ただ、何もスタートする前に「これだけの知識がありますか?」みたいなことを問うているのは、今の時代には僕はナンセンスだと思います。

花の分母を広げるために

相嶋:突然ですが、ここに3,000円があり、有名なパティシエのスイーツと、バラの10本束があります、どっちを買いますか?

希:私は花が好きではありますが…

相嶋:恐らくスイーツを選ぶ人も多いですよね。

そういった視点で他商品に勝っていくには、業界内であの人がすごい、あの市場がどうこうなんていう狭い話をしていないで、スイーツにも勝たなければならないんです。皆で知恵を出し合い花が日常の購入品、上位品にならないとですね。

記念日には3,000円のスイーツに負けるかもしれないけど、毎日の300円なら花が勝てるかな。そうして気づいてみたら、花のある暮らしが広がっているかな。そんなことを僕は考えています。

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花が最大限皆さんに伝えられるものは、「季節」と「色」。このふたつしかないと思います。

桜を見れば春が来た、向日葵の黄色を見れば夏が来た、紅葉を見れば秋が来たと思える感覚は、四季があるところに生まれた私たちにが必然的に持っているものだと思います。

それって素敵な生活だということを消費者の方々には感じていただきたいです。

そのために私たちが努力して、皆様が手の出しやすいプライスで、鮮度があって、旬のものをマーケットに提供できればと思っています。

食卓に一輪花があるだけで


相嶋:
花というのは、すごく敷居の高いものではないので、まずは一輪でも良いから花を飾ってみてほしいです。

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冷凍食品を例に出すのはよくないかもしれませんが、冷凍食品をチンしただけの食事だとしても、一輪そこに季節の花があるだけでレストランのような美味しさに変わります。(あくまで主観ですが。。。)

それがあることによって空間がどれだけ素敵になるか、季節と共に過ごし、日々の生活を、ワンコインで少しだけ楽しい気分になれるのであれば、皆さんそれを味わいませんか。

ご褒美のアイスもいいんですけど、花より団子の考え方が10回あるうちの1回くらいはお花にまわしてみて生活を楽しんでいただけたらと思います。

今まで特別な時にしか買われてこなかった花の底辺を拡大したい。一般の消費者に選択肢をもっと提供したいというのが弊社の一番の想いです。

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written by Mina and Mare

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