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プロフェッショナル俺の仕事の流儀:ギターナット交換編

先日我が愛機の一つであるES335のナットを交換した。

ナットとはギターのパーツの一つでブリッジやテイルピース等と言ったパーツと同じく、弦を支える重要なパーツの一つである。

弦に接触する部分なのでつまり音に直接関わってくる重要なパーツと言うことになる。

デフォルトでついてた物は最初に貼ってある画像の通り黒色のプラスティック製の物だった。

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上の画像の通り穴も開いており、如何にも工業製品として効率よく作る為だけに作られた造形だ。

私はこのナットに不満があった。

まず一つはチューニングが安定しない事

そして二つ目は質量がないので高音域が暴れると言う現象だった

30分ほどストロークで演奏し続けたりチョーキングが続く曲などをやっていると直ぐにチューニングが下がってしまうし、私のES335は通常搭載されているハムバッカーではなく、シングルコイル のP-90を搭載している為、音の特性そのものが変わっており、中高音域が強調されて出るようになっているので突き刺さる様な高音域が出るのが気になっていた。


そこで本来ES335に搭載されているナットは牛骨である事を調べ、GibsonタイプのナットをAmazonにて注文したが、下記の様に寸法が合わず、僅かな隙間が出来てしまった。

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僅か1mm程度の隙間だが、これで取り付けてしまうと音に確実に悪影響が出てしまう為返品をする事に…

行きつけの楽器屋に行って話したところ私の所有しているES335はエピフォン製の為、Gibson規格のナットは規格が若干小さいと言う事もあり適応する牛骨ナットが取り扱いしていないとの事で、無垢の牛骨を購入し、自らの手で成形して取り付ける決心をしたのである。

プロに任せると言う手段もあるが、ナットは無垢牛骨から形成する場合、弦の削り込みや高さの調整等職人が丹精込めて一つ一つ仕上げる仕事なので加工取り付けの工賃だけで8000〜10000円取られてしまうのが現実だ。

とてもじゃないがそこまで金銭が回るほど余裕が無かったので自分で作ると言う事を決めたのである。


取り付け加工の解説をして行くことにしよう。

必要な工具類は

・紙やすり(260〜2000番ほどの物を各種用意)
・金属ヤスリ(主な形成に必要)
・三角ヤスリ(6〜5弦の溝を彫る際に必要)
・丸ヤスリ(同じく6〜5弦の溝を整えるのに必要)
・糸鋸(形成や4〜1弦の溝を形成するのに必要)
・万力(ヤスリ掛け作業を楽にする為に必要)
・ハンマー(Gibson系ナットを取り外す際に必要)
・平らな木材(ナット自体を外す際の当て木、またはヤスリ掛けの土台として必要)
・クラフトナイフやカッター(ナットを取り外した際付着している接着剤を大まかに剥がすのに必要)
・木工用ボンド(ナットを接着する際に必要)


全て100円ショップで購入が可能なので足りない道具は400円ほどで買い足した。

本来ナットの溝掘り専用のヤスリが存在するが、購入すると10000円近くするので所有する道具のみで私は作業を進めていくことにした。


先ずは元々付いているナットを外していく作業から紹介しよう。

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先ずは弦を全て緩め、ナットの側面に置いておく事。ナットとネックの接着されてる部分をクラフトナイフやカッターで切り込みを入れ、余分な接着剤を予め剥がしておく事でナットが取れやすくなるのでしっかりやっておく事。

ネック側にナットへ当て木をして当て木に対してハンマーで叩く事でナットが外れるのでポロっと取れるまでくれぐれも力を入れない様に軽くコツコツとハンマーで叩くのがポイントだ。(fenderのギターはこの限りではないので注意)

ナットが外れたらそこから付着してる接着剤を最初はクラフトナイフやカッターで軽く剥がしてから紙やすりの600番台を使用して綺麗にしていく。

この時に私は使用しなかったが、割り箸などがあれば割り箸の先端に紙やすりを巻き付けて削ると言う事もすると良いだろう。

取り外し、接着剤を全て剥がして綺麗になったものがこちらになる。

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指で触ってしっかりと木目の感触を確かめたら

ナットの取り付け作業を開始する。

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先ずはナットを確認。左側が無垢の牛骨で右側が元々付いていたナットである。明らかに縦幅と横幅の違いが分かる。

この牛骨を元々付いていたナットに形を形成していくのがこれからの作業の一つだ。

先ずはこの状態ではナットが溝に入らないので縦幅を削る作業をする。360〜600番台の紙やすりを使って削り込みの作業をする。

削りすぎてしまうと隙間が開いてその牛骨はもう使えなくなってしまうので頻繁に削っては隙間なく取り付けられるかを確認しながら慎重に作業を進めよう。

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先ずは縦幅を合わせてしっかりとはまる事を確認する。

上記の画像の通り今度は横幅が飛び出している為次は横幅を削る作業に入る。

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万力(バイス)で固定した上で削る量を大凡でシャーペンでマーキングしておくと良い。

2mm近く飛び出ているのでヤスリ掛けでは時間がかかるので私はここで糸鋸を使ってある程度まで切り落とし、砕けて残った箇所のみを260番のヤスリで削り、平面にさせていった。

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まだ若干飛び出して居る事を確認したら更に600番台くらいのヤスリで微調整していく。

縦幅を削る時と同じく、削りすぎるとゴミと化してしまうので油断せず慎重に作業を進めて行くこと。

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上記の画像で完全に横幅が飛び出す事なく完成した。しかしこのままではギターを実際に弾く際にナットが指に当たって痛いので

側面からヘッド面に掛けてカーブを描く様に形成していく作業を始めて行く。

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金属ヤスリと紙ヤスリとうまく使い分けて形成していくと上記の画像の様に仕上がる。

この作業が一番時間がかかり、見た目の美しさにもこだわる部分なので手を抜かずにやり遂げたい所だ。

コツとしては先ずは金属ヤスリで全体的にヘッド側になる部分と側面の角を金属ヤスリで削っていき、荒めの紙ヤスリで調整しながら仕上げると上手くいくだろう。

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出来上がった物を試しに付けて見る。

底面がしっかり噛み合って居るかも確認する事。

まだこの画像の状態では縦の長さが長いので底面を削り、1フレットから約0.5mmほどナットの頂点が高く設定できるとベストだ。

元々付いていたナットと交互にはめ込みながら確認しつつ底面を削って高さを調整していこう。

最後にしっかりと高さの調整が出来たら木工用ボンドで接着をする。

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元々付いていたナットは赤丸で囲ってる両端に掛けて接着されていたのでそれを参考に接着剤も付けていく。真ん中はトラスロッドの穴に干渉するので付けなかった。

接着剤も付けすぎてしまうと次回交換の時に中々取れなくなる可能性があるので薄めに爪楊枝などを使いながら引き伸ばしておくと良いだろう。

接着剤を付け取り付けたらナットの上からギュッと指を押し当ててもし余分な接着剤が出てきたら素早く拭き取る事。

素早く拭き取らないとナットやネックに接着剤跡が残ってしまうので注意しよう。


さて、

ここからは一番神経を使う溝彫りの作業だ。

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先ずは元々付いていたナットを新しく取り付けたナットに合わせて弦の溝があった部分にシャーペンでマーキングしていく。

マーキングが終わったら6弦から1弦に下がる順番で溝を掘っていく作業をする。

見ての通り、ギターはそれぞれ弦の太さが違う為、6弦や5弦の場合糸鋸で溝を彫っても弦が溝から浮いてしまうので意味をなさないので、ここで三角ヤスリを使って大きめの溝を彫っておく。

くれぐれも彫りすぎない様に頻繁に弦を乗せて確認しながら作業を進めよう。溝を掘りすぎてしまうと今までの作業が全て水の泡と化してしまうので溝彫りだけはかなり慎重に、かつ正確に掘り進めていく必要がある。

ある程度深さが決まったら、弦の丸みに合わせて6〜5弦は丸ヤスリの先端を使って上手く角ばった溝を丸く整えれば完成だ。

4〜1弦は糸鋸の太さで対応出来るのでヤスリは必要ないが、溝を深く彫りすぎない様に6〜5弦と同じ要領で作業を進める。

弦は先ほども述べた様に太さが違うのでそれぞれ溝の深さも変わってくるので、何度も弦を乗せては弦を張り、チューニングを合わせて弦高が高すぎないかも確認しながらの作業になるのでかなり根気がいるので頑張りましょう。

弦高が高すぎるとセーハーした時に1フレットの音が上手くならない、押弦するのに力が必要になってしまうので元々付いていたナットの感覚を頼りにしっかりと深さの調整をしていくこと。


これらの作業を6時間弱続けた結果


完成だ!

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お疲れ様でした。これで完成となります。

後はボディや指板に残った牛骨の粉などをクリーニングがてら弦交換をして完了となりました。

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見た目の印象も変わりましたね。

音の変化としては期待通りでした。牛骨はプラスティックより質量がある為過剰な高音域を抑えてくれて、尚且つチューニングも”若干“狂いにくくなりました。

安価なギターですが、これからも長く使い続けていきたいお気に入りの一本になりました。

ギターのナット交換というプロのやる作業を素人の自分が挑戦してみての記事になりました。

ギターに関心のある方や実際にナットを交換してみようかなと考えてる方の一助になれば幸いです。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

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