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航空ストライキ入門

楽しいご旅行の途中に

「乗務員ストライキのため、当便は欠航致します」

という場面に遭遇した事があるかもしれません。

「利用者の迷惑も考えずに賃上げ交渉だと⁈
この会社の人たちはどれだけ非常識なんだ!」

そう思いませんか。

「こっちは、あんた達のせいで帰りの飛行機が飛ばずに困ってんだよ!」

ですよね。ですよね。

乗務員ストライキもそうですが、
管制官ストライキ(海外ではゼネストなどでたまにある)、
グランドオペレーションスタッフのストライキ(ボーディングブリッジがつけられない)
ケータリング会社のストライキ(15時間のフライトで水すら搭載なし)…
何かひとつ欠けても、旅客機の運航はとたんに難しくなります。

航空会社をはじめ、交通機関を含むインフラ関係の企業のストライキはひとたび決行されると、目立ちます。
大勢の人が困るので、悪目立ちします。

利用者側としてはたまったもんじゃありませんが、
実際 航空ストライキの現場では何が起こっているのでしょうか。
労働組合に加入もしていなければ、ストライキに参加した事もない、優良社畜の私ですが、
たびたび起こる航空会社のストライキを内側から目の当たりにしてきたので、ご興味のある方は、どうぞお付き合いください。

そもそも航空業界に限らず、一般的にストライキは突然始まるものではありません。
そこに至るまでは会社側(役職のある偉い人たち)と労働組合(従業員の代表者たち)で長期にわたる話し合い交渉が行われているはずで「利用者に迷惑がかかる」ストライキは最後の奥の手、最終手段なのです。

労働環境や待遇の改善を要求する場合に、
まず労働組合側は事前に要求が受け入れられる余地があるかどうか、
自社の経営状況、従業員数、業務実態などを、独自調査を行っています。
会社がちゃんと儲かっているかどうかとかね。
勝算がないのに交渉をしたって意味がありませんから、そこは賢く事前準備は入念に。

そして「深夜のフライトは日中のフライトよりも身体的負担が大きいので、深夜帯勤務の賃金を何%上げる事はできないか」「10時間以上のロングフライトで、客室内の座席に座っての休憩では充分に休むことができない。該当の機体にクルーバンクを設置しする事は可能か」
といった、細々とした要望を会社側との会議の場で議題にあげて話し合います。
通る要求もあれば通らない要求もあり。
客室部ひとつとっても、労働組合が複数存在するため、各組合によって要求も様々。
ここで無理難題を出してくる過激な組合もあれば、論理的に攻める組合もあるので、自分が組合に加入する事になった場合に、それぞれの組合の規模や雰囲気などをよく吟味して決断しないといけないなと常々思うのであります。ついていく主君を間違えた、と後で後悔しないように。

たいていの場合は、双方最悪の事態は回避したいので役員と代表者の話し合いで事足りるのですが、どうしても譲れない議題がこの会議で解決しなかったとします。
例えばですけれど「DHの移動は乗務に含まれないため無給(ひぃ!)」とか「スタンバイは稼働しなかったら無給(ひぃぃ!)」などのブラックな労働条件を今まで押し付けられていたとして、改善して欲しいと訴えても一向に耳を傾けて貰える気配がない場合。
組合員たちがこれはもうストライキじゃね?とストライキをするかどうかを話し合い、決定します(投票で決めるんだったかな?)。

やるとなった場合に、事前に、
「劣悪な労働環境を訴えているのに聞き入れてもらえないのであれば、◯月◯日の◯時からストライキを決行しますが良いですね?」
と労働組合が会社運営側に対して予告をします。
なんならなるべくダメージが多く予想される、夏休みなどの利用者の多い時期の日程を提示して会社に圧力をかけたりもします。ストライキ行使のタイミングも駆け引きのひとつです。
それでも会社側が難色を示した場合に、最終手段としてストライキが決行されるわけです。

ストライキの影響を受けた利用者の方々は
「賃上げ要求で利用者に迷惑をかける従業員たち」という印象を持つ方が多いかと思いますが、
見方を変えると
「従業員の要求をのむくらいなら、利用者に迷惑をかけた方がまだマシ」
という経営側の判断があるとも言えるのではないかと思うのです。

働く事をボイコットする事で訴えるため「職務不履行」と紙一重でもあり、一歩間違えると会社側から突かれてしまうのでストライキもルールに乗っとって慎重に行う必要があります。

航空業界は24時間稼働していますから
例えば2月16日の0:00からストライキ決行となった場合、
2月16日の深夜1:00発のフライトに乗務予定のストライキ参加の乗務員は、
2月15日の23:00にはちゃんと空港に出勤してなんならブリーフィングにも参加したりしています。
ストライキ開始時刻の
2月16日の深夜0:00までは通常通り働かなくてはいけません。
そして、さぁ飛行機に向かおうとなったところでいきなり姿を消します。0:00だからね。

さっきまでいたCAが、突然いなくなる。

出発直前で、いきなり人員が減る、というダメージ。

一応ストライキは予告されているので、こう言った場合に備えて、会社側はスタンバイ要員を待機させたり、通常はあまり現場に出ない役職のある部長クラスが急遽稼働したりするわけですが、
あなたはあそこの組合員だからスト告知の日のこのフライトは事前に外しておくわね、という事前対処は不当差別にあたるため行えず、会社側は出発予定のフライトの直前に発生した穴埋めの人員確保にあたふたします。
穴埋め要員の呼び出しに時間もかかるので、遅延は免れません。
契約社員や非組合員、外国籍社員や昇格を控えた社員などは立場的に会社側に巻かれがちで、急遽飛んでくれという電話に応じる事が多く、乗務員全体の労働条件改善のために空港ロビーで団結している組合員のデモ集団に「あいつショーアップしやがった!裏切り者め!」とヤジられつつ、役職社員にエスコートされながら遅れてシップに向かったりするわけです。
ここで規定人数の乗務員が確保できなかった場合には、飛べませんので、フライトは直前でキャンセルにせざるを得なくなります。

ストライキによって、欠航や遅延が発生すると会社側は損害を被りますが、ストライキをしている側の乗務員も通常「フライト時間」で給料が発生しているため、フライトを1便、2便とボイコットするとその分お給料が減ります。
お互いに損をしながら戦っているわけで、早急に折り合いをつけないと状況は悪化の一途を辿ります。

2019でしたでしょうか、
海外の航空会社でCA労働組合が約3週間に渡る長期のストライキを決行しました。
国史上最大規模の航空ストライキと言われましたが
長期化するにつれて労働組合側の団結力も薄れ
参加者が次々と離脱、
会社も100億円規模の巨額の損害を被り、
利用者30万人に影響が出たことにより、
結局、誰も得をしなかったストライキと報じられました。

コロナによる航空業界大打撃により、現在はエアライン業界全体が

贅沢なんて言えない、出勤できるだけでありがたい

という雰囲気ですが、

先日
「こんな労働環境は間違っている!コロナが終わったらすぐストライキするんだから!」と
過激派労働組合の代表が息巻いていたのを小耳に挟んでしまった私は
航空業界が回復するといわれている2024年、2025年あたりを待って
コロナ禍でフライトが少なかった分
交渉準備にたっぷりと長い時間をかけてきた
多くの労働組合の数々が次々と航空ストライキを決行するような、

そんな予感がしているのであります。

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