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現代を生きる菊竹建築

没後10年 菊竹清訓 山陰と建築 〈中〉(山陰中央新報  2021.2.10)

 島根県立美術館の展覧会「菊竹清訓 山陰と建築」に企画協力者として関わらせてもらっている。私のような建築技師が美術館と協働して展覧会をつくりあげるというのは、全国的にも珍しいことだと思う。
 10年ほど前、県庁周辺の菊竹建築「旧県立博物館(現県庁第3分庁舎)」(1958)、「県立図書館」(1968)、「県立武道館」(1970)の耐震改修を担当したのがきっかけで、その歴史に深い関心を持つようになった。
 大学時代は建築史を専攻し、近代建築の保全と活用について学んだ。菊竹建築の耐震改修でも可能な限り文化財と同じ考え方で工事を行い、「建築的価値」と現代に求められる「機能性」、「耐震性」との両立を目指した。こうして保全された菊竹建築の価値は、その後文化庁をはじめ各方面から評価され、2019年に「旧県立博物館」が国の文化財に登録された。その他の建物も近いうちにそうなるかもしれない。
 同年12月、文化財登録を記念して旧博物館のロビーでささやかな展覧会を行うことになり、その目玉として菊竹氏のご親族から60年前の貴重な模型をお借りして展示した。この模型が美術館学芸員の方の目にとまったことが、今回の菊竹展開催のきっかけとなった。(「県立美術館」(1998)もまた菊竹氏晩年の傑作である。)

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 近年、戦後の有名建築が「老朽化」を理由に建て替えられることが多く、全国の建築ファンから「なぜ島根県には古い菊竹建築がこんなによく残っているのか?」と質問されることがある。これは建築文化への理解だけでなく財政上の理由などさまざまな要因によるもので、一概に説明することは難しい。
 ただ、県の職員として一つ強調しておきたいのは、我々の先輩方が今日まで実に上手く建物を維持保全してきたということである。有名建築家が設計した建物は、その価値が理解されなかったり、逆に尊重され過ぎたりして適切な改修が行われないことがある。その点、先輩方は設計者の意図に敬意を払い、しかし表面的なデザインには惑わされず、技術的に必要な改修を臆することなく行ってきた。多少デザインの面白みが失われた部分もあるが、総体としては国内外の専門家が驚くほど良い状態で現代を生きている。
 今回の菊竹展では、美術館内に展示された資料をご覧になるだけでなく、ぜひ実際の建築を鑑賞してみてほしい。展覧会に合わせて、県の若手建築職員が中心となり、ガイドマップ『松江の菊竹建築探訪』も制作した。県立美術館や図書館などで無料配布しているので、ぜひ建築探訪のお供にしていただければと思う。
 本展をご覧になったあとで、見慣れた松江の風景がいつもと少し違う表情に見えたとしたら、私たちの企画展は最大の目的を果たせたと言ってよいのではないかと思う。 

 

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