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これを読んでも、別に株の取引で利益は出せるようにはならないけれど、意味不明で無駄な株の取引は削減することが出来るようになるnote 第八夜【株の買い戻しについて】

ある夜、某所にて・・・


A:
保有しているトヨタ株を一旦売却して利益確定し、今後10%ほど下がったところで買い戻そう。

B:
なぜ?

A:
今後トヨタ株は10%ほど下がりそうだからだ。

B:
なぜ君は「今後トヨタ株は10%ほど下がりそうだ」と判断したのか?

A:
現在の市場環境を鑑みるに、そういう雰囲気が漂っているからだ。

B:
なるほど。では「今後トヨタ株が10%ほど下がりそうな現在の市場環境」とは、具体的にはいかなる環境なのか?

A:
世界の情勢が不安定な中で株価は継続的に上がっており両者はチグハグな関係であるため、いつクラッシュが来てもおかしくないという環境だ。

B:
ふむ、まあいいだろう。ところでなぜトヨタ株を今の株価から10%下がったところで買い戻そうと思っているのか?

A:
愚問である。株価が低くなったところで買うのは当然であろう。

B:
では君は「一旦トヨタ株を売却して利益確定し、更に下がったところで買い戻すことによって、その後上がったら更に利益を得る」ということを狙っていると思われるが、いかがか?

A:
然り。そうなれば一石二鳥である。

B:
なるほど。そうすると君のこの考えは「自分はトヨタ株の値動きのことを熟知しており、今後の値動きについてもかなりの精度で的中させることが出来る」ということを前提としているように思えるが、いかがか?

A:
無論だ。トヨタ株の値動きは長いこと見ており、実際に売買もしているため、頭の中に刻み込まれている。

B:
では「的中率」は何%なのか?

A:
それはわからぬ。ただ50%を超えてはいるであろう。

B:
何か記録はあるのか?

A:
そのようなものはいちいち付けておらぬ。よって記録はない。

B:
では、なぜ「的中率は50%を超えてはいるだろう」と判断出来るのか?

A:
これまでそういった取引で利益を得てきたからである。

B:
なるほど。ではおおよそ総取引回数は何回で、利益を得た回数は何回なのか?

A:
記録はつけておらぬが故に定かではないが、おおよそ総取引回数は10回ほどで、利益を得た回数は7回ほどだ。これで少なくとも「的中率は50%を超えている」という証左になろう。

B:
ふむ。もしこれが「総取引回数100回:利益回数70回」ということであれば「統計的有意に的中率は50%を超えている」ということになるが、「総取引回数10回:利益回数7回」ということなので「統計的有意に的中率は50%を超えている」とは言えない。

A:
どういうことか?

B:
説明しよう。現状は「総取引回数10回:利益回数7回」ということだが、今後同様の取引を続けて行き総取引回数が100回になった時には「総取引回数100回:利益回数50回」となる可能性が十分にあるということだ。
もしそうであった場合には「取引一回あたりの利益>取引一回あたりの損失」でなければ利益は出ないということになり、逆に「取引一回あたりの利益<取引一回あたりの損失」であれば「今後同じやり方を続ければ続けるほど損失が出る」ということになる。

A:
つまり、君が言いたいのは「私のやり方は間違っている」ということか?

B:
いや、そうではない。言いたいのは「現状の君のやり方は、間違っているのか間違っていないのか判別がつかない」ということであり、「そのような不確かなやり方に、自分のお金をかける価値があるのか?」ということだ。

A:
なるほど。しかし、君は常日頃から「マーケットにおいて確かなものなど何もなく、マーケットは本質的に不確かなものである」と言っているではないか。
この点において、私の「不確かなやり方」は否定されるべきではないと考えるが、いかがか?

B:
もちろん否定はしない。しかし、問題なのはその「不確かさの程度」なのである。

A:
どういうことか?

B:
仮に君が過去のトヨタ株のデータを調べて「統計的有意に60%以上の確率で、○○という時にはその後株価が10%下がり、10%下がったあとには反発して上がる」「取引一回あたりの利益=取引一回あたりの損失」という仮説を見つけたとしよう。
もちろんそれはあくまで「過去のデータ」であり、今後もそれが再現されるかどうかは定かではないが、仮に再現された場合には君は「期待値がプラスであろう取引をしている」ということになる。ちなみに君は過去のトヨタ株のデータを調べて、このような仮説を見つけたか?

A:
いや、見つけていない。

B:
では聞くが、君が今行っている取引は「期待値がプラスであろう取引」と言えるのか?

A:
いや、言えない。

B:
なるほど。なぜそう言えないのか?

A:
私の今のやり方は、「過去のトヨタ株のデータを調べた上で出てきた何がしかの仮説に基づくもの」ではなく、「自分の過去の経験と直感に基づくもの」であるからだ。少なくとも「過去のトヨタ株のデータ」は遡ることが出来ても、記録をつけていない以上「自分の過去の経験と直感」は遡れまい。

B:
然り。では君は「過去のトヨタ株のデータによって導き出した仮説」と「自分の過去の経験と直感によって導き出した仮説」の、どちらがより不確実性が高いと思うか?

A:
無論、後者である。

B:
なるほど。では君は「不確実ではあるが、過去のデータを見る限りはもしかしたら期待値がプラスであるかもしれない取引」と「期待値がプラスであるかもマイナスであるかも全くわからない取引」の、どちらが「まだマシ」だと思うか?

A:
こちらは前者である。
つまり君が言いたいのは、「いずれにせよ不確かであるならば、より不確かさの程度が低いものを選べ」ということか?

B:
然り。私の中では「いずれにせよ不確かであるならば、少なくとも不確かさの程度が高いものを選ぶことは悪手である」ということになっているが、ほぼ君が言ったことと同義である。

A:
相分かった。では過去のトヨタ株のデータを調べてみることとする。

B:
やってみたまえ。ちなみに過去のトヨタ株のデータを調べた結果、「統計的有意に60%以上の確率で、○○という時にはその後株価が10%下がり、10%下がったあとには反発して上がる」ということがわかった場合、君が真っ先にやるべきことは何だと思うか?

A:
どういうことか?もしそうであった場合には、「一旦トヨタ株を売却して利益確定し、10%下がったら買い戻す」ということではないのか?

B:
それもそうなのだが、まず君がやるべきは「○○という時にトヨタ株を空売りし、10%下がったらドテン取引をして買い戻す」である。
もちろん下がらずに上がってしまった場合にはいわゆる「踏み上げ」で損を被ることになるが、そういった事態も含めてその空売りの期待値がプラスである可能性が想定出来るのであれば、やる価値があるだろう。
少なくとも「売却する」ということは「その後の下落が想定出来る場合」か「その後保有していても上昇も下落もせず、旨味がないと想定出来る場合」のいずれかであることから、もし「その後の下落が想定出来る場合」には翻って空売りをするのが合理的な判断で、「その後保有していても上昇も下落もせず、旨味がないと想定出来る場合」にはただ売却をするのが合理的な判断と言えよう。


【まとめ】
・少ないサンプル数を元にして「自分には株式投資のセンスがある」と判断するのは危険。
・だいたいの場合において、それは「気のせい」である。
・どうせ取引をするのならば、「自分がやろうとしている取引と同様の取引が過去になかったのか?あったとしたら、その結果はどうだったのか?」くらいは調べておいた方がベター。

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