読解力の本質に気づいたとき

長い間疑問に思っていたことが、ある時、あっそうか!と解決した。

始まりは、大学受験の物理の試験の時だった。力学の問題が出て、回答を方眼紙に書き込めというものだった。

問題は難なく解けたのだが、すべての問題を解き終えて時間が余ったので見直している時だった。ふと「何かがおかしい!」と引っ掛かった。見てみると、回答用紙に書き込んだ線が水平線になっている。大学受験でこんな簡単な問題が出るわけがない、と不安になってきた。

ところが、いくら見直しても思いつく答えは変わらない。不安が高じて、恐る恐る周囲を見回したら、奇想天外な図形が目に飛び込んできた。斜め線などはマシな方で、どうしたらそんなものが書けるのだろうと思うほどの高次の曲線が結構あった。

そこで逆に自分への確信が芽生えてきた。周りがこんなに変なのだから、自分の方が正しいのではないか、簡単な水平線を自信を持って書き込む受験生こそを求めているのだ、と。結局合格発表の時には、私の周りの受験番号はなかった。

でもそれ以来、どうして周囲の受験生たちがあんなに簡単な問題を解けなかったのか、ずっと不思議に思ってきた。

謎が解けて原因が腹落ちしたのは、今から3年ほど前に、新井紀子著「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読んでいた時だった。そこに、「旧帝大の合格率と基礎的読解力には高い相関がある」と書いてあった。

「そうか、あの時の物理の問題は自分が思った通り簡単だったんだ。その問題の簡単さを読み取る読解力が、合格か不合格かの差を分けたのだったのだ」と思い当たり、長年の疑問が氷解した訳である。

よく「大学受験に合格するためには、難問を解く必要はない。基礎的学力をつけさえすれば良い」と言われていて、その意味も長年わからなかった。しかし、そこに「基礎的な読解力があれば」と言う条件を加えれば、言われていることは正しかったのだ。

そうなると問題は、もし大人になってしまって読解力の問題に気づいた時には手遅れなのだろうか?、大人が読解力を身につける方法はないのか?、ということになるが、これについては最近面白い本が出版された。佐藤優著「読解力の強化書」だ。

この本では、読解力とは次のようなものであると定義されている。

「『読解力』とは、できる限り偏見なく情報を受け入れ、対象を認識し理解することです。対象がテキストであれば文意を理解し、行間を読むということですし、人間であれば相手の主張や立場を理解し、相手の論理で考えるという、『思考の幅』を持つことです。」

後者は大人、とくに私のようなコンサルタントには必須だが、身につけるのが難しいとされているものである。この本は、その身に付け方を示唆してくれているので、読んでおくことをお勧めする。

何はともあれ、親は読解力の重要さを以上のような実用的な事例で理解した上で、自分の子供に本を読む習慣を身につけさせるべきだろう。

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