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根本を問えるか?

ある装置メーカーのコンサルティング演習で仰天したこと


コンサルタントを育てるゼミを始めた頃のことである。コンサル案件の進め方を討論する場に、ある人が自分の会社の問題を持ち込んできた。

その会社は企業用、家庭用双方にニーズがある装置のメーカーなのだが、ある事情で産業用の需要が大幅に落ち込んだ。それを消費者市場でカバーしたいのだがその解決に行き詰まっているのを何とかしたい、というモノだった。

消費者市場はユーザー数が膨大なので、商社を介して設置業者に販売する、という方法をとっている。ここで利益の落ち込みをカバーするために商社を中抜きしようとしたのだが、業界下位メーカーで力が弱いため、逆に商社にそれなら上位メーカーと組むと脅され、行き詰まってしまったというのだ。

面白い研修教材だと思い、その場にいた若手コンサルタント2人に、どう取り扱うか任せてみた。すると、2人は戸惑いながら次のような質問を始めた。

「貴社の業界シェアはどれくらいですか?トップ企業の市場支配力はどんな感じですか?」、「各社の商品競争力にはどんな違いがありますか?」

問題を持ち込んだ人もそれに答えていて、一貫まともな質疑応答が進み始めたのだが、すぐに仰天することが起こった。たった2つの質問をしただけで、後が続かなくなり止まってしまったのだ。

仕方がないので先輩(当方)がフォローし、次のような質問を続けた。

「産業市場での落ち込みをカバーするのに必要な消費者市場での売り上げはどれくらいですか?また装置は1台あたりいくらですか?」、

「とすると年に1000件売れれば良いわけですね。それくらいの数なら、大手との競合に晒される商社経由の流通はいままでどおりにしておいて、大手にとって魅力のない規模の市場で地域ごとの違いなどの顧客のニーズをうまく組み上げてそれにマッチした売り方をしている下位メーカーのやり方に目を向ければ1000件くらい取れるのではないですか?」

そのやり取りの結果、「なるほど、そのように考えたことはありませんでした。ありがとうございます、早速検討してみます!」という答えが返ってきて、一件落着となった。

若手と先輩の差:コンテンツ質問とプロセス質問

それにしても、なぜこのような若手と先輩の差が出るのだろう。ベテラン・コンサルタントなら、その原因を説明でき若手を教育するべきだろうが、周りを見ると、それをできそうな人は意外と少なそうだ。

実は原因は2つある。最初の原因は、若手が質問には2通りのタイプがあることを知らないことにある。

質問には、単に相手から何らかの情報を得ることが目的で、それが得られれば、それで終了というものがある。これをコンテンツ質問と呼ぶ。

若手は、無意識にコンテンツを求めることを目的とした質問をしたので、それが得られたとことでストップしてしまうほかなかったのだ。

それに対して先輩は、問題解決の手順を進めるための質問をしたのだった。これをプロセス質問と呼ぶ。問題解決の目標を売り上げ1000台と確認し、その解決方法がどこにあるか(下位メーカー方シェアを奪う)を検討したのである。

問うに値する質問で、根本を問う

2つ目の違いは、このプロセス質問を創出する源に関するもので、もっと根深い。先輩は、持ち込まれた「商社の中抜き」という問題自体が筋が悪いのではないか、と疑ったのだ。

つまり、「そもそも、この問題はなぜ解けていないのか?」、「この問題は本当に解決しなければならないのか?」と、持ち込まれた問題の根本を問うたのだ。

これは簡単な違いのように思えるが、日本企業ではこの種の「そもそも論」は青臭いと嫌われる傾向にあるので、これを持ち出すには度胸がいる。コンサルタントは、このような文化的バイアスに負けてはいけないのである。

この話を続けると、もっと面白いことに突き当たる。デトマーという人が書いた「論理思考プロセス」という本に、次のような引用が載っている。

学習には3つの段階がある。
第1段階は、正しい答えを知ること。
第2段階は、何が正しい質問かを知ること。
第3段階は、 どの質問が問うに値するかを知ること。
- 作者不詳

これを地球の知識に応用すると、第1段階では「地球は丸い」と教わる。義務教育の段階で、日本人の多くはここで止まるからコンテンツ質問しかできない。

第2段階では「地球はどんな形をしているのか?」と問え、と教わることになる。少しレベルの高い大学で、良い先生からこの種の教えを受けるとプロセス質問ができるようになる。

第3段階は、「皆が地球は平らだというが、本当は丸いのではないか?」と問えるレベルで、ここまできて初めて、さきほどの根本が問えるようになる。地動説などの科学的な発見も、このレベルの問いができて初めて可能になる。

残念ながら一流の大学でもこれは教えてもらえないが、コンサルタントは何とかしてこれを身につける必要がある。

余談だが、アリストテレスはギリシアとエジブトでは夜空の星座の位置が異なることに気付いていて、「地球は丸いのではないか?」という疑問を持っていたそうである。ただ、当時の航海術などの技術水準では証明ができなかったので、大航海時代を経てコペルニクスやガリレオの登場を待たなければならなかったのである。

コンサルタントに限らずおよそ知的活動に携わる人間なら、常にどの質問が問うに値するかを考え続け、根本を問うことを躊躇わないようにしたいものである。

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