ななしいんくオンリー頒布物のあとがきと反省

 表題の通り、この記事は2023年4月29日に開催された「ななしいんく」オンリー同人イベント「でりしゃすストーリー」にて僕が頒布した「SPY'S STRAPS MAKE STRIPPERS SLIP」のあとがき、そして反省を記したものです。

 あとがきに関しては「なんでこんな設定思いついたんや」という話をします。反省については内容の技術論的な反省になるので、興味のない方は読み飛ばしてくださいませ。

 なお、どちらについても作品の盛大なネタバレを含むことにご注意ください。

あとがき

 本作は「リン・クリス・アンナの3人組がストリップクラブ『ハニーストリップ』に潜入したところ、ハニストと因幡組の抗争に巻き込まれてしまう」という内容ですが……なんでこんなひどい設定思いついたんだ? 思い出してみましょう。

 構想自体は1年くらい前からあったのですが、その時点では確か因幡はねるさんか風見くくさんが言った「ハプニング喫茶あにまーれ」というワードに対して、「それ舞台としてイイネ!」と思った程度でした。

 しかし構想を練っていくうちに、技術的な壁にぶちあたります。小説に限らずストーリーは登場人物に次々と事件を与えていくことで進行していくわけですが、「ハプニング喫茶あにまーれ」が舞台だとその……与える事件がですね……どう考えてもR-18方面に転がっていくんですよ……。

 僕はわいせつ描写を一切描かない全年齢向け物書きでありますので、これは見過ごせない問題でした。

 そこで構想を「ハプニング喫茶あにまーれと、別店舗との争い」に変えました。店舗間の争いであれば、登場人物に与える事件はあくまで経済・宣伝効果的なものに限られます。健全!

 ……ではその「別店舗」は何にしようと考えたとき、「あにまーれと対になるのはハニストでは?」と当然の帰結に至ります。昼の喫茶店あにまーれ、夜の喫茶店ハニストというわけです。

 しかしここで問題が発生します――登場するのは有閑喫茶あにまーれではなく、ハプニング喫茶あにまーれなのです。となると、対になるハニストもなんかいかがわしい感じにしなくてはなりません。

 結果、ハニーストップを一文字変えただけの「ハニーストップ」という単語に至ります。こうして「ハプニング喫茶あにまーれ VS ストリップクラブ・ハニーストリップ」という構図が出来上がりました。

 しかしここで再び重大な問題に直面します。

 だから僕はわいせつ描写を一切描かない全年齢向け物書きだって言ってるだろ!? ハプニング喫茶とストリップクラブの抗争をどう健全に描けっていうんだよ!?

 ……この問題をいかに解決していったかに関しては、次項で反省を交えつつ解説していきます。

反省


※ここから技術的なお話です、読書体験をダイナシにするのでご注意ください。

 この作品は4幕構成で、以下のようなプロットを用いました。

1幕:(起)契機――(承)事態の悪化1
2幕:(承)事態の悪化2――(転)転機
3幕:(結)クライマックス
4幕:エピローグ

 順に見ていきましょう。

1幕:契機――事態の悪化1

 高架橋の下で、数人の男女が一ドル紙幣を丸めてストローにし、白い粉を充満させたビニール袋の中身を吸っている。彼らの虚ろな視線の先で多重債務者がすすり泣き、自分の涙で水たまりを作っている。やがて銃声が泣き声を打ち消し、薬莢が地面を叩く高音が、鎮魂歌のように反響する――ここはバーチャル赤羽。法と倫理を忘れて久しい退廃都市。バーチャル足立区民ですら近寄らぬ、道徳の最果て。

 何故この書き出しなのか? それは、僕が作品のジャンルをアクションコメディに設定したからです。コメディ即ちギャグであればR-18化を避けられると踏んでのことですね。

 ともあれ、シリアスにせよギャグにせよ面白さの根源は「予想と結果のギャップ」ですので、ギャグであれば世界観は硬派なものにするのが安牌です。つまり「この真面目な世界観でそれやる!?」というギャップに焦点を当てるわけですね(世界観をふざけたものにすると、さらにふざけた「結果」を提示しないとギャグにならなくなり難易度が上がる)。――そういうわけで、こういう硬派な書き出しになりました。

 続けて見ていきましょう。

 そのような退廃都市の夜道を、三人の少女が歩いていた。龍ヶ崎リン、獅子王クリス、虎城アンナの三人組だ。彼女たちは魔界からバーチャル赤羽へとやって来て日が浅く、仕事も定まっていないうえに路銀も尽きかけていた――そんな折に、「三毛猫」と名乗る仲介人が「仕事」を持ちかけてきた。生活に窮した三人に「受ける」以外の選択肢はなかった。

 これが契機、きっかけであり、「主人公が行動しなければならない理由」です。普通の作品なら主人公の恋人が攫われたり殺されたりして、「恋人を取り戻さなきゃ!」「復讐してやる!」と決意するシーンですね。しかし具体的に描くと長くなるので、ここでは過去のものとして扱っています――代わりに、過去に追いやった契機を補強するシーンとして次のシーンを挿入しました。

――その時、彼女たちの目の前で、多重債務者なのだろう、一人の女が女衒に引きずられて南東の方角へと消えていった。
 バーチャル赤羽の南東には、暗黒遊郭街バーチャル吉原がある。リンたちも、無一文になった暁にはバーチャル吉原へと売られる危険があった。あるいは近傍のバーチャル隅田川に沈められるか。

 これで「彼女たちが何故この仕事から手を引けないのか」の説明が済みました。同時に、「指定暴力団因幡組 VS マフィア灰猫」という構図も説明されます――ハプニング喫茶とストリップクラブを直接争わせるのではなく、その経営者たるヤクザとマフィアの抗争にしたのです。これでわいせつ案件はクリア。

 ここから3人組はハニストに潜入していくわけですが、

① クローンななしの登場(相手は生物兵器を使う、倫理に欠ける者であることの提示)
② ストリップ描写(ギャグ、伏線)

 このようにシリアス→ギャグと進み、1幕ラストで事態の悪化(シリアス)が始まります。

 灰猫はバックヤードへと向かった。リンたちはその後に続きながら、静かに唾を飲み込んだ。てっきり、店長クラスが面接を行うものだと思っていたのだ。しかし実際に出てきたのはオーナーたる灰猫、つまるところマフィアのボスであった。

「イージーな仕事だと思った」という「予想」に、「いきなりマフィアのボスが出てきて密偵行為がバレる可能性が上がった」という「結果」をぶつけたわけです。

2章:事態の悪化2――転機

 1章ラストがシリアスだったので、2章イントロはギャグから始まります。

 まずアンナが呼ばれた。入室してきたアンナに、灰猫は名前と年齢を聞き、それから平均的なバストに目をやり――退室を命じた。
 次にクリスが呼ばれた。入室してきたクリスに、灰猫は名前と年齢を聞き、それから平坦なバストに目をやり――退室を命じた。
 アンナとクリスは顔を見合わせた。
「クリシュ。やっぱ胸採用だったねぇ?」

 そして胸採用を察したクリスとアンナは、リンが餌食になっている間に独自の調査を始めることにしますが……ここで事態の悪化2が起こります。2人は「ルカコ」と名乗る女に見つかってしまいます。

「ボス。因幡組が雇った密偵を発見しました。消しますか?」

 さらには命の危険にも晒され、事態はどんどん悪化していきます。しかしルカコはボスとの会話で、クリスとアンナを利用する方向に動きます――ただし、彼女たちがクレバーな回答をすれば、という条件付きで。

 ここからが転機、重大局面のシーン。クリスとアンナは知恵を巡らせ、因幡組とハニストの抗争を収める方法(ジレンマの解消法)を考えます。

 1点反省があるのですが、クリスとアンナの提案は逆のほうが良かったかなと(クリス案はパトラを危険に晒すので)。

 ここまでシリアスで来たので、2章ラストはギャグで締めます。

「アンナとクリスが不採用な理由ってなんですか?」
 灰猫は顔をしかめ、それから開き直ったように笑った。
「バストサイズ、ですかね」
 想定通りであった。

 ここも反省ですが、バストサイズ天丼じゃなくてもっと別のネタにすれば良かったですね。天丼は「予想通りのこと(期待されていること)が起きる」というギャグですが、やっぱり「予想と結果が違う」ほうが面白いので。

3章:クライマックス

 2章ラストがギャグだったので、3章イントロはシリアスから始まります。視点が因幡組に切り替わり、灰猫の武器取引現場にカチコミをかけにいくシーンです。

バーチャル赤羽の地下に無秩序に張り巡らされた秘密通路の一つを、ある武装勢力が進んでいた――因幡組である。その先頭を歩む、因幡はねるは不敵に笑った。

 このシーンで想起される「予想」は「2章でアンナが言っていた、因幡組を騙して、灰猫が武器を手に入れたタイミングでカチコミを仕掛けさせ、共倒れさせる」であると同時、詳しく語られなかったクリスの「もっと良い案」になります。

 シリアスにせよギャグにせよ、予想と結果のギャップが面白さの根源ですので、筆者はここで読者の予想を超える「結果」を提示しなければなりません――最終的に僕が提示した「結果」は以下の通り。

悪魔娘と獣娘たちの、奇妙なストリップコラボが始まった。

「因幡組をハニストに突入させ、一緒にストリップさせる」です。予想できた方がいたらごめんなさい、僕の力量不足です。

 ここで視点は切り替わり、リン・クリス・アンナとルカコによる因幡組事務所へのカチコミのシーンになります。クライマックスなので、「予想と結果」をコンパクトに、連続で提示して盛り上げていきます。

① 銃で武装したクローンななし、勝てない→ ルカコがカンフーでなんとかする
② 素早くコトを済ませなければならない→ リンが遅い
③ 鍵が開かない、伏兵もいる→ リンが銃でなんとかする

 ここまでの流れでリン・クリス・アンナ3人組の目的は「因幡組の密偵としてはたらく」から「因幡組の機密情報を盗んで逃げる」に変わっているわけですが、機密情報にたどりついた瞬間にはねるたちが追いついてきてしまいます。

 ここも反省点ですが、「なんとかして事務所から逃げる」という予想に対し、僕が提示できたのは「窓から飛び降りて逃げる」というごく単純な――つまりはギャップの存在しない、「予想通りの結果」だったので、ここはもっとひねるべきでしたね(ひねれなかったので、ギャグでごまかしている)。

エピローグ

 これは特に語るところはない。


総括


 アラが目立つ(土下座) もっとひねれ(土下座)

 この反省を活かして次はもっとうまくやるからな!!

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