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vol.2 ラーメン屋オープン前に店舗を燃やした支那そば軍曹の人生語り

支那そば軍曹 サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(56:07)は購入後に視聴可能。

第二話(全四話)

「キン肉マンで言うなら、僕はジェロニモです」

作中で、支那そば軍曹殿は自らをこう評した。”各分野のスペシャリストに特別講義を聴きに行く”というコンセプトで作られる白熱教室シリーズに招聘されるゲスト達は、綺羅星のごとき猛者ぞろい。卓越した技能・知識経験、そして人生観。それらを兼ね備えたいわば「超人」のみが、白熱教室のゲストたる資格があると、自身もまた一人の白熱教室ファンとして、軍曹殿は捉えていた。

「ラーメン屋 開業編」にて、我々に染み付いた常識「脱サラでラーメン屋は絶対失敗する」を、鮮やかに打破してみせた軍曹殿の口から、この言葉が出たのだ。

「僕はジェロニモです」

いやいや何をおっしゃる、十分に超人じゃないですかと、リスナーは違和感を覚える。このジェロニモ発言は、軍曹殿の謙遜の言葉に違いない。ラーメン屋開業編を聴いたリスナーであれば、そう思うことは当たり前のことだ。

これまで常識だった「脱サラでラーメン屋は絶対潰れる」という通説。それを現実に打破した実績。ラーメン屋開業編で語られた、経験に裏打ちされた再現性のある知見と手法の数々。そうして、若くして時間とお金の自由を勝ち取った人が「超人」でなく何なのか?本作はそんな違和感から始まる。

支那そば軍曹殿は、東北地方で生まれ育った。後に30歳の若さで脱サラする男である。さぞや聡明で、野心を胸に燃やす若人であったことだろう。そんな軍曹殿の学生時代やファーストキャリアはどんなものだったのか?そして勤め人を卒業するきっかけは何だったのか?リスナーの期待は膨らんでいくばかりで、興味は尽きない。いよいよ「人生編」が幕を開けるーーー

「大学はバイトと飲み会に明け暮れてた」

「ドラクエ8のために内定辞退して、そのまま卒業してただの無職に」

「仕方ないからダイニングバーでバイトすることにした」

「月に350時間働いて、月給16万円の固定給だった」

―――意識高い聡明な若人は、いなかった。代わりにいたのは、将来設計を怠った末に、社会の最底辺で奴隷労働をする、哀れなバイト君ーーーそれが若き日の軍曹殿だった。

資本主義経済は残酷だ。知識のない若者には一切の容赦無く、苛烈なる搾取が待っていた。しかし残念ながら、それは必定であった。なぜなら資本主義ゲームというのは、そういう”仕組み”になっているのだから。そのことに気付かず時給500円ほどで毎日14時間働き、無慈悲な搾取を受けていたのが、若き日の軍曹殿だった。

一般的な新卒の社会人が、仕事に慣れてくる25歳という年齢。ファーストキャリアの、最初の節目ともいえるこの歳に、軍曹は料理長とケンカしてクビになる。25歳でケンカして、クビーーーそんなことあるのか?

あるのだ。こうしていとも簡単に職を失って、再就職に取り組む中で、彼は否が応にも「自分」という商品に向き合うことになる。そして気が付く。

「何も持っていないって、こういうことか」

職歴も技能もない25歳が、そこにいた。何も考えずに流され流されーーーずいぶん遠いところに、行き着いてしまっていた。

予想を裏切らず、就職活動は困難を極める。誰でも受かると言われる住宅メーカーの営業すら「キミ、なんか胡散臭いよね」と不採用になる中で、縁あって地元の零細企業に拾われる。しかし職歴なし・技能なしの彼が入社できた会社は、むべなるかなーーー零細企業であった。一族経営の、ボンクラ2代目若社長が君臨するワンマン零細。思い付きで新事業を立ち上げては赤字になって、撤退する。それを親父の資産で補填して次の新規事業へ…そんな会社だった。何度も何度も、未経験の業種のフランチャイズ研修に送り込まれ、利益を上げろと迫られる中で苦労するも、良いこともあった。業務の中で飲食店のオーナー達と触れ合う中で、「経営」というものへのマインドブロックが外れていったのだ。

「こんな人たちでも、飲食店って経営できるんだ」

軍曹殿は、彼らと話すたびに、肌でそう感じていく。そもそも”経営”という言葉は、一般の勤め人にとっては重い響きを持つ。会社を経営する経営者ーーーつまり社長をやるなんて、途方もない才覚と度胸がなければできないことだと、勤め人の多くは畏怖する。自分が経営者になる。そんなことを検討しないし、できないのは、マインドブロックがかかっているから。このマインドブロックを、生身の経営者に相対していく中で解除できたこと。「俺にもできるんじゃないか?」と思えたこと。ラーメン屋の開業に限らず、すべてはそこから始まる。自分にかけられている制限を外すことが、全ての始まり、第一歩なのだから。

30歳になった我が身をあらためて、顧みた。この零細企業で、ボンクラ社長と怪しい新規事業の立ち上げと撤退を繰り返すのか、はたまたもう一度、転職に挑むのか…。しかしもう、彼にはわかっていた。もはや自分には、マトモな転職は難しいと。この零細に勤め続けても、好転は見込めないと。今いる足場はずぶずぶと沈みつつあるが、次に跳び移れそうな足場も見当たらない。追い詰められつつある盤面にあって、彼の頭上には一本の、煌く細い糸が天より垂れていた。彼には「独立開業」という第三の選択肢が見えたのだ。マインドブロックが外れていたからこそ、見えた糸であった。

冒頭の言葉に戻る。

「僕はジェロニモです」

ここまで読んでいただけたら、わかってもらえたと思う。若き日の軍曹殿は、文字通り何も持っていなかった。技能もなく、何も知らず、将来のことも考えずーーー風に吹かれて流されるままに生きていた。どこにでもいる若者だった。むしろ凄絶な搾取すらされる奴隷階級だった彼が、いかにして経営者という資本家へ転生したのか。その軌跡をたどることは、きっと全国のリスナー諸君の勇気になるに違いない。

普通の人間だったジェロニモが、努力によって「超人」へ転生したように、勤め人もラーメン屋によって「経営者」へ転生できる。そう確信した軍曹の、熱ある具申によって本作は生まれた。

かつての自分と同じように、うだつの上がらない勤め人の身の上を悩む人々へ、役立つ知識を分かち合いたい。自分が手に入れたこの「生き方」は、人生の味を素晴らしいものにしてくれるから。何もなかった自分ですら、できたのだから。そう軍曹殿は語る。逆境を打破してきた男だからこそ、伝えられることがある。

本作は、支那そば軍曹殿の純粋な善意で編まれた贈り物だ。

つづく。

著・ヤコバシ

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