vol.4 再現性の塊、ラーメン屋ビジネスでお金と時間の自由を手に入れる『ラーメン屋開業入門』
支那そば軍曹 サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(01:29:10)は購入後に視聴可能。
第四話(全五話)
「算多きは勝つ」孫氏の兵法、第1章「計篇」の一節である。ラーメン屋の開業というのは、ある種の戦争と呼べる。周りの競合と、お客さんを奪い合う戦争だ。ライバルは同業のラーメン屋だけでなく、ファミレスや牛丼といった外食産業すべて、つまりお客さんの胃袋を奪い合う戦争なのだ。その戦端を開く前に、勝負はあらかた決まっていることが多い。そこを事前に「算」することが店の趨勢を決めるのだ。いくら美味しいラーメンを作れても、この「算」の観点がなければやはり敗走の運命から逃れることはできないだろう。算多きは勝つ。算少なきは勝たず。Vol.4ではこの「算」についてを説明していく。
まずはお店の立地だ。孫氏兵法でいうところの「地形篇」「九地篇」にあたる部分だが、本作が従来の手法と比べて画期的と呼べる部分と言えよう。通常、飲食店を開くならば駅前とか、大きなショッピングモールの中とか、とにかく「不特定多数がたくさん歩いている場所」を考える。「たくさんお客さん候補がいるところにお店を出せば、たくさんのお客さんが来店するのではないか」という考え方である。
残念ながら、それは素人の発想と言わざるを得ない。そのような立地はとにかく家賃やテナント料というランニングコストが爆増し、結果的に維持のハードルが厳しくなる。実際に、家賃を稼ぐために休みなく働き続けるしかない店主もいるほどで、大家のために働くことになってしまう。同様に大きな国道・バイパス沿いも、家賃が高いだけでなく、激安なチェーン系店舗と張り合うことになる。やはり旨味は少なく消耗戦になりがちだ。
そうではなく、支那そば軍曹殿とチキンジョージ先生は郊外や住宅地にこそ活路があると言う。これを聞いて素人は「お客さんが来ないんじゃないか?近所の人しか来ないのでは?」と反射的に思う。なるほど平成の初期ならば、その分析は的確だったであろう。しかし世界は前進している。特に「情報」という点で人々はこの10年で大きく前進した。
そう、SNSの発達である。
かつてのお客さんは、ラーメン屋をその目で見て認識するか、看板で知るか、友人からの口コミで見つけるかしかなかった。まさに生活圏内にしか射程距離がなかったのだ。しかし今ではSNSやグルメサイトの発達により、人々はスマホーーーその掌の中から無数にお店を発掘することができるようになった。それも以前のスタイルとは違い、美麗な写真とリアルな口コミによって、意欲を掻き立てられながら。これによって、お客さんは精密で長い射程距離を手にしたのだ。
そして車社会の地域であれば、車移動で数十分までの距離は大した問題ではなく、これによって郊外という立地の不利はなくなる。もちろん、これを最適化するための接道条件、駐車場の条件、商圏分断の要素といった具体的ノウハウも語られる。立地選びは非常に大切で、奥が深い。同時に、競合の調査も行い、同ジャンルでの喰い合いを避けるのか、勝負を挑むのかの戦略も求められる。ここでも事前の「算」が重要だ。この「算」を怠った者は、最初から厳しい死地にて戦うことを覚悟しなければならない。メタ的な視点での出店計画にあたっては、このようなフィールドワーク的要素を多分に含んでいる。
立地の次は建物について。ここも素人目線だと躓くポイントが満載だ。素人目線だと「築40年はボロすぎるかな」「壁紙のフルリフォームが必要なのでは」「和式トイレはダメでは」などと思ってしまう。しかし実は、ラーメン屋に来るお客さんはこの部分を重視してはいないことが多い。ここを見誤ると家賃やリフォーム代が激増して経営を圧迫する要因となる。
ラーメン屋に来るお客さんは、オシャレなカフェを求める女子大生ではない。シックで落ち着いた料亭を求める老紳士でもない。居心地良い空間を求める有閑マダム達でもない。「ラーメン屋」に行くために正装する人はいまい。むしろTシャツ短パンで気軽に気楽に、一人で寄りたい、そんなお店ではないだろうか。うまいラーメンが適正な値段で食べられて、肩肘張らずに通えるお店。多少内装や机や椅子が古くても、掃除が行き届いていれば問題ない。それが私たちがラーメン屋に求めることではないだろうか。この絶妙に意識低い脱力感を持ちながら、ラーメンはうまい。そんなお店作りが大切だと軍曹殿は言う。あなたの地元にある老舗ラーメン屋が生き残っているのは、そういうわけなのである。
立地の他にも重要な「算」がある。設備や機材にかける「初期投資」だ。具体的にはスープを煮る寸胴鍋から始まり、ガステーブル、シンク、洗浄機、作業台、冷蔵庫、発券機、テーブル、椅子などなど…多くの備品が必要だ。これら高額となる初期投資をいかに抑えるか?が初手の重要ポイントになる。このノウハウを本作で知ることにより、初期投資を1/10に抑えることも可能であり、この部分がお店の生き残りに関わってくる重要部分であることは間違いない。
キーワードは「しょぼく始める」である。
しかしながら適当にやるということではなく、そこには綿密な「算」が必要だ。いかにして一定クオリティを保ちながら初期投資を抑えていくか?この部分は不動産投資において「いかに安く購入するか」という利回りの概念に通じる。利潤の追求という点で、仕入れとなる初期投資に妥協してはならない。商売が軌道に乗ってきたら、これらの設備を順次グレードアップすれば良い。とにかく初期は小さく、しょぼく始めることが大切だと軍曹殿とチキンジョージ先生は強調する。
こうして「ラーメン」と「店舗・設備」が完成した。これで「お店」としてスタートできる態勢が整った。しかしながら、これだけでは生き残ることは難しい。これらは、いわばハードウェアを整えただけであって、そこに魂が吹き込まれていないからだ。まさに「仏作って魂入れず」である。ラーメン屋にとっての魂とは、ソフトウェアーーーつまりお店の個性・店主のキャラクターといった「世界観」である。この「世界観」の存在が、多くのお客に興味を抱かせ、そして常連さんになってもらうための必須項目なのだ。
紙面の関係上、もはやその全貌をここで述べることは難しいが、この部分が本作の奥義であり、いかなる商売においても共通する概念であろう。ストーリー性、作り手の想いが、大きなチカラを持つ場面を、たくさん目にしてきたはずだ。
物質的に飽和した現代日本においては、このソフトウェアの存在なしにファンを獲得・維持していくことは難しいだろう。その点で、個人店はチェーン店に対して圧倒的に優位なのだ。
つづく。
著・ヤコバシ
【注意】
その3とその4の間ですが、進行役の僕が話に夢中になって切るのを忘れるという、白熱教室始まって以来の大失敗をしております。その3のケツが「スッ」と終わり、その4のアタマが「スッ」と始まるのはそのためです。
「算多きは勝つ」孫氏の兵法、第1章「計篇」の一節である。ラーメン屋の開業というのは、ある種の戦争と呼べる。周りの競合と、お客さんを奪い合う戦争だ。ライバルは同業のラーメン屋だけでなく、ファミレスや牛丼といった外食産業すべて、つまりお客さんの胃袋を奪い合う戦争なのだ。その戦端を開く前に、勝負はあらかた決まっていることが多い。そこを事前に「算」することが店の趨勢を決めるのだ。いくら美味しいラーメンを作れても、この「算」の観点がなければやはり敗走の運命から逃れることはできないだろう。算多きは勝つ。算少なきは勝たず。Vol.4ではこの「算」についてを説明していく。
まずはお店の立地だ。孫氏兵法でいうところの「地形篇」「九地篇」にあたる部分だが、本作が従来の手法と比べて画期的と呼べる部分と言えよう。通常、飲食店を開くならば駅前とか、大きなショッピングモールの中とか、とにかく「不特定多数がたくさん歩いている場所」を考える。「たくさんお客さん候補がいるところにお店を出せば、たくさんのお客さんが来店するのではないか」という考え方である。
残念ながら、それは素人の発想と言わざるを得ない。そのような立地はとにかく家賃やテナント料というランニングコストが爆増し、結果的に維持のハードルが厳しくなる。実際に、家賃を稼ぐために休みなく働き続けるしかない店主もいるほどで、大家のために働くことになってしまう。同様に大きな国道・バイパス沿いも、家賃が高いだけでなく、激安なチェーン系店舗と張り合うことになる。やはり旨味は少なく消耗戦になりがちだ。
そうではなく、支那そば軍曹殿とチキンジョージ先生は郊外や住宅地にこそ活路があると言う。これを聞いて素人は「お客さんが来ないんじゃないか?近所の人しか来ないのでは?」と反射的に思う。なるほど平成の初期ならば、その分析は的確だったであろう。しかし世界は前進している。特に「情報」という点で人々はこの10年で大きく前進した。
そう、SNSの発達である。
かつてのお客さんは、ラーメン屋をその目で見て認識するか、看板で知るか、友人からの口コミで見つけるかしかなかった。まさに生活圏内にしか射程距離がなかったのだ。しかし今ではSNSやグルメサイトの発達により、人々はスマホーーーその掌の中から無数にお店を発掘することができるようになった。それも以前のスタイルとは違い、美麗な写真とリアルな口コミによって、意欲を掻き立てられながら。これによって、お客さんは精密で長い射程距離を手にしたのだ。
そして車社会の地域であれば、車移動で数十分までの距離は大した問題ではなく、これによって郊外という立地の不利はなくなる。もちろん、これを最適化するための接道条件、駐車場の条件、商圏分断の要素といった具体的ノウハウも語られる。立地選びは非常に大切で、奥が深い。同時に、競合の調査も行い、同ジャンルでの喰い合いを避けるのか、勝負を挑むのかの戦略も求められる。ここでも事前の「算」が重要だ。この「算」を怠った者は、最初から厳しい死地にて戦うことを覚悟しなければならない。メタ的な視点での出店計画にあたっては、このようなフィールドワーク的要素を多分に含んでいる。
立地の次は建物について。ここも素人目線だと躓くポイントが満載だ。素人目線だと「築40年はボロすぎるかな」「壁紙のフルリフォームが必要なのでは」「和式トイレはダメでは」などと思ってしまう。しかし実は、ラーメン屋に来るお客さんはこの部分を重視してはいないことが多い。ここを見誤ると家賃やリフォーム代が激増して経営を圧迫する要因となる。
ラーメン屋に来るお客さんは、オシャレなカフェを求める女子大生ではない。シックで落ち着いた料亭を求める老紳士でもない。居心地良い空間を求める有閑マダム達でもない。「ラーメン屋」に行くために正装する人はいまい。むしろTシャツ短パンで気軽に気楽に、一人で寄りたい、そんなお店ではないだろうか。うまいラーメンが適正な値段で食べられて、肩肘張らずに通えるお店。多少内装や机や椅子が古くても、掃除が行き届いていれば問題ない。それが私たちがラーメン屋に求めることではないだろうか。この絶妙に意識低い脱力感を持ちながら、ラーメンはうまい。そんなお店作りが大切だと軍曹殿は言う。あなたの地元にある老舗ラーメン屋が生き残っているのは、そういうわけなのである。
立地の他にも重要な「算」がある。設備や機材にかける「初期投資」だ。具体的にはスープを煮る寸胴鍋から始まり、ガステーブル、シンク、洗浄機、作業台、冷蔵庫、発券機、テーブル、椅子などなど…多くの備品が必要だ。これら高額となる初期投資をいかに抑えるか?が初手の重要ポイントになる。このノウハウを本作で知ることにより、初期投資を1/10に抑えることも可能であり、この部分がお店の生き残りに関わってくる重要部分であることは間違いない。
キーワードは「しょぼく始める」である。
しかしながら適当にやるということではなく、そこには綿密な「算」が必要だ。いかにして一定クオリティを保ちながら初期投資を抑えていくか?この部分は不動産投資において「いかに安く購入するか」という利回りの概念に通じる。利潤の追求という点で、仕入れとなる初期投資に妥協してはならない。商売が軌道に乗ってきたら、これらの設備を順次グレードアップすれば良い。とにかく初期は小さく、しょぼく始めることが大切だと軍曹殿とチキンジョージ先生は強調する。
こうして「ラーメン」と「店舗・設備」が完成した。これで「お店」としてスタートできる態勢が整った。しかしながら、これだけでは生き残ることは難しい。これらは、いわばハードウェアを整えただけであって、そこに魂が吹き込まれていないからだ。まさに「仏作って魂入れず」である。ラーメン屋にとっての魂とは、ソフトウェアーーーつまりお店の個性・店主のキャラクターといった「世界観」である。この「世界観」の存在が、多くのお客に興味を抱かせ、そして常連さんになってもらうための必須項目なのだ。
紙面の関係上、もはやその全貌をここで述べることは難しいが、この部分が本作の奥義であり、いかなる商売においても共通する概念であろう。ストーリー性、作り手の想いが、大きなチカラを持つ場面を、たくさん目にしてきたはずだ。
物質的に飽和した現代日本においては、このソフトウェアの存在なしにファンを獲得・維持していくことは難しいだろう。その点で、個人店はチェーン店に対して圧倒的に優位なのだ。
つづく。
著・ヤコバシ
【注意】
その3とその4の間ですが、進行役の僕が話に夢中になって切るのを忘れるという、白熱教室始まって以来の大失敗をしております。その3のケツが「スッ」と終わり、その4のアタマが「スッ」と始まるのはそのためです。
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