意識低い系転職ジャケ絵

vol.4 意識低い系転職のススメ~これが資本家成りに続く偉大なる道の第一歩目となる~

ヤコバシくん サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(01:02:25)は購入後に視聴可能。

第四話(全五話)

かつて太閤の治世に、大泥棒がいた。通称を石川五右衛門。ついに捕らえられ、今際の際に時世の句を詠んだという。

石川や 浜の真砂は尽きるとも

世に盗人の 種は尽きまじ

この句を目にして、ヤコバシくんは既視感を覚えていた。近年「働き方改革」が声高に叫ばれ、蔓延している無茶な働き方を是正しようという動きが顕在化してきた。数々の痛ましい過労死事件、労働災害。昭和から続く平成という時代の、負の側面であった。ブラック企業という単語が世を賑わすようになったのは、スマホ普及後の2011年頃からであったと記憶している。スマホの普及によるSNSの広がりと、発信が手軽になったことにより、これまで隠されてきた企業の闇の部分が、ネットという海に漏れ出るようになった。

時間外労働の上限が定められ、有給休暇を年間5日の取得が義務化され、政府主導でのコントロールが始まった。しかしこんなことはーーー既に「労働基準法」で解決されているべき問題だったはずだ。この「働き方改革」は、本来ならとっくに保護されているはずの労働者の権利や、雇用者に科されたルールを強調したに過ぎないものであり、新しいことでもなんでもない。そうーーーいかに法律があったとしても、悪意を持ってすり抜け、隠そうとする者がいる限り、ブラック企業は消えないのだ。この現状が、動かぬ証拠なのである。もし労働基準法が適正に準拠されていたならば、痛ましい事件の数々は、起こらなかったはずなのだから。

Vol.4ではヤコバシくんのブラック企業体験談が披露される。体罰や人権無視の数々は聴いているだけでも腹が立ってくる。もちろん、ブラックで違法なことを強いる会社や社長が悪いのは当然としてーーーなぜ若き日の彼が拒否や反撃、もしくは逃亡をしなかったのか?そこが最大の疑問であろう。実はそこにブラックの奥義がある。その奥義とはーーー洗脳である。

洗脳?なんでそんなものにかかってしまうんだ?と疑問に思うかもしれない。雇用者と労働者は対等な関係であり、労働基準法によって守られている。日本は法治主義だと、知っている。それなのに―――「会社」という組織に属していると、この法治の枠から外れて、前時代的な人治主義が平然とまかり通ることもある。「社長」という絶対的権力者が、その人事権をもって、労働者を恐怖で動けなくしてしまうことができる。本来は対等であるはずの労使の関係を主従関係にすり替え、殊更に強調し逆らえなくする。労働者に責任を感じさせ、無償の労働を差し出させる。賃金というものは、本来ならばただの労働力の対価なのに、社長からの恩恵で授けているように「意味付けする」。有給休暇も同じく、本来なら取れないものを取らせてやっているんだと教育する。このような手法でもって、労働者は奴隷へと洗脳されていくのだ。

こうして洗脳された労働者は、労基署に密告することもないし、不満を抱いて転職することも少ない。誠実な者は、同僚に迷惑をかけまいという想いすら持つ。また多くの場合、賃金も生活するのにやっとの額にして、貯金できないようにし依存させる。そして拘束を長くして時間も奪うことで、転職を検討できぬようにする。金と時間で縛り付けられて、労働者は身動きが取れなくなる。こうして奴隷への洗脳が完成する―――

令和の世 労働改革進めども

世にブラックの 種は尽きまじ

自身の経験から、ヤコバシくんはブラック企業を強く憎んでいる。自分の努力も、若さも、幸運も、お金も、時間も、ブラックに捧げてしまった。吸われてしまった。自らのミスがあったことも認めるが、意図的に洗脳してきていたブラック企業への怒りを忘れることはできない。こんなことはもう、次の世代に残していいものじゃない。そんな想いでもって、彼はブラック企業を撲滅したいと願っている。しかし先述のように、ブラック企業は労働者を洗脳することで、いかようにも逃げ隠れることができる。撲滅は、不可能なのだろうか?自分はブラックから幸運にも抜け出せたが、それだけでいいのだろうかーーー彼は自分にできることはないか、探し始めた。

そして彼は転職したホワイト企業、化学メーカーで営業職をしている中で、とある体験をした。

「原料安くなってきてるんだろ?この値段まで値下げしろ!」と主張してくる顧客がいた。それに対し「その値段では売れませんので、弊社は辞退させていただきますね」とお断りをしたのだ。代替が難しい製品と知っていたし、優良な顧客でもなく販売額も少なかったので、むしろこちらから切ってやろうとすら思っていた。顧客はこの毅然とした対応に驚き「わかったわかった!最初の値段で買うよ」と折れてきた。彼はこう感じた。「売ってもらえなくて困るんなら、最初から値引き要請なんてすんなや…」

ーーー待てよ?

私たちも製品を「買ってもらっている」けれども、顧客も「売ってもらっている」んだよな…。私が会社に売っている労働力も「買ってもらっている」けれども、「売ってあげて」もいるんじゃないのか?もし私が労働力を売らなかったら、社長は一人でこんなドサ回りを毎日、自分でしなきゃいけないじゃないか、1日に何件も…。できるはずがない。だから、社員を雇って、賃金を払って、手伝ってもらっているんだ。

つまり、労働者が社長に「もうオマエには労働力を売らない!辞める!」と言えば、会社は人手不足で消滅する。労働者を集められない会社は淘汰されるはずだ。つまり労働者一人一人が強い心を持って、洗脳されず、ブラックに「NO」を突きつけることができたなら。これが広まったら、ブラックを根本的に潰せるのではないか。しかし、かつての私のように洗脳されていたり「転職しても、どうせブラック」と諦めていては、この一歩は踏み出せないことも、わかっていた。

ならば―――自分の経験から得た知見「化学メーカー」というユートピアを、ブラックで苦しむ人々に知らしめたい。良好な転職の「受け皿」は存在するのだと、知らせたい。これを広めることができたなら、必ずや、救える人がいるはずだ。その結果、ブラックは人がいなくなって潰れていくに違いない。そんな使命感に突き動かされ、彼はブログを立ち上げた。

彼は思う。ブラック企業とは、労働者を燃やして走るボロボロの機関車であると。ブラック企業は、本来支払うべき残業代や年収を支払わず、その差額を運営費に充てている。そうでなければ存続できない可哀想な会社だ。市場での競争に負けているから、そういうズルをしなければ運営していけない、哀れな会社でもある。つまり、市場から淘汰されかけている惨めな会社が、ブラック企業の正体なのである。

そんなしょうもない会社を延命させてしまっているのはーーー他でもない、そこで働く労働者たち自身だ。文句も言わずに、長時間労働・低賃金に耐えていること自体が、その企業を延命させている。「辞めない」ことはブラックを存続させる片棒を担いでいると自覚すべきだ。

本オーディオを聴いてくれた人たちが、マトモな年収と休日と、日々の余剰を得てくれたのなら、日本人の購買力と幸せ指数は上がると確信している。結果、景気は上向き、婚姻率と出生率も向上するであろう。この国はーーー多くの人がブラックに漬かり過ぎて、吸われ過ぎているから、貧乏で時間がなく、購買も結婚も子作りもできないのだ。また、勤め人卒業への扉も、この余剰がなければ開かない。

意識低い系転職が、日本を救うのだ。

つづく。

著:ヤコバシ


【オーディオブックの正しい使い方を伝授する】
1.集中して聴かない。オーディオを聴くための時間をわざわざ取らない。スキマ時間や作業時間に『ながら』で聴くのが正しい使い方である。
2.ぼけーっと繰り返し聴く。聴き返すたびに毎回聴こえ方が違うぞ、とか、刺さる言葉が違うぞ、と思ったならそれは良い聴き方。一回で全部吸収してやろう、と言うのは悪い聴き方。
3.PCのnote.muサイトからMP3ファイルをダウンロードする。itunesその他で、スマホに同期する。電車や車での移動中、家事の最中に聴くのが良いと思う。ストリーミング再生で聴くのはあんまりおすすめしないかな。

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